2018年7月15日 (日)

宝石商リチャード氏の謎鑑定 ― 美しいのはあなたの方です ―

   夏休み(前)は出版業界はかき入れ時。読書感想文需要があるからね。もう宿題から解放された大人だって、ヴァカンスのお供には良い本を♪

   ってことで、平成に入ってから「インテリげんちゃん」だの「想像力と数百円」だの、各社文庫にはキャッチコピーに磨きを掛けて挑んでいるのです。

   そんでもってさ、集英社文庫は数年前からキャラクターを設定してアピールしてるんですよ。「よもにゃ」って。猫の。猫の。猫のマスコットをポスターだのなんだのにくっつけてアピールして! 一昨年は目にとめただけだった。去年は耐えた。今年はなんだかかわいいブックマークを付けてアピールしているのでとうとう落ちました! ふらふらと平台に近寄って、なにか感性の合いそうなものを一冊……?

   そして出逢ったこの一冊! 金髪碧眼のお兄さんとピンクの宝石を目に当てた日本人青年2人の表紙イラストにもう目は釘付け、鷲掴みでレジへ持っていったー!

   「宝石商リチャード氏の謎鑑定」

   集英社もオレンジレーベルはコバルトを卒業したお姉さん向けって噂はきいてたんだけども。何も考えず青春ミステリだと思って読み始めて。
   主人公は名付けられたとおりの正義くん。その背景はちょっと苦くって、かれはその重みに潰されずに大学まで育って……ちょっとお疲れ? でも、夜勤の帰りに公園で酔っぱらいに絡まれてる外国人男性を助けてあげちゃうぐらいにはまだまだ正義の心がすり切れていなかった。そのダイヤモンド王女@ちょーシリーズ並みに人間を捨てた美貌の外国人男性が宝石商と聞いて、彼ら一家を縛っている宝石をみて貰うことにしたのでした……。

   造形だけでなく言葉遣いと言いプロフェッショナルなたたずまいと言いパーフェクトなその宝石商、リチャードさんにその宝石の縛りから解放してもらった正義くんは、そのまっすぐさを見込まれてリチャードさんの日本でのお仕事を手伝うことになったのでした……。

   えっとね、小野主上の人気初期シリーズ、「ゴーストハント」、あれの、宝石にまつわる話だと思えばいい。麻衣ちゃんがけなげでいい子なのと同様、正義くんもまっすぐで、そして愛おしい。悪口を言うより人を褒めたい、そういう心持ちが若さと相まって眩しい。美しいと言われ慣れていてそのために苦労もいっぱいしたらしいリチャード氏も心和んじゃう。……和むぐらいならいいけどそのうち痒くなってきて別室でクッション殴ったりしちゃうらしい。

   ……にぶいおかあさんでも気付きました。
   辛抱堪らなくなって娘へライン。
   「これ買った」と表紙を撮影・発信。
        母「栞目当て」
   虎「あ、それ私読みたかった奴」
        母「導入巧いよ」
        母「ごめんもしかしてBL?」
        母「店主~~~~~~~!?」
        母「左の絵が宝石商リチャードさんだが!?」
        母「主人公に華麗にジェラッシッとる!?」
   虎「限りなくBLに近いバディものと聞いたが」
        母「リチャードさん気の毒すぎる」
        母「リチャードさんがんばれ」
   虎「実況しないで」
        母「させてくれ」
        母「結構既刊出ているな」
        母「読了。
          リチャードさん不憫すぎる」
   虎「貸して」
   虎「持ってきて」
        母「是非読んで」
        母「了解」
        母「たぶんリチャードさん胃炎になっとる」
        母「宝石系ゴーストハント」
        母「不思議要素はない」

   ……おかあさんみごとにBLアレルギー治ったみたいね。いや、正義くんの同学年のお友だち谷本さん(石の好きな天然ちゃん:お名前は水晶の晶子(しょうこ)ちゃん!)への恋も応援してるよ。
   天然で石ラー(作中では石屋:石系のオタク。といってもパワーストーン系じゃなく三浦海岸に地層見に行く系硬派)の谷本さんに悶絶しながら想いを育てていく姿がもう清々しい若人っぷり。突っ走っては後悔し、綺麗な言葉で叱咤されながらもへこたれず微速前進しようとする姿勢がほんと、心を洗われる。きっとリチャードさんもそれだから正義くんをお茶くみとして雇ったのでしょう。

   ……美しいのはあなたの方です。

   作中こんな独白はなかったけど、ここんとこ絶対リチャードさんと読者の気持ちは一致してると思うよ! 

   1冊目買って悶絶して帰省のお供に2冊目買って。
   読み終わって即行墓参りの帰りに金沢の書店でまた3冊目買って。
   とんでもねえ引きに4冊目買いに行ったらノイエ・リリエンベルクの有隣堂に4冊目だけ切れてて! 書店の検索端末じゃあ在庫はあったから言えば出してもらえたと思うけどそこではっと自制して!

   3冊目の最後のエピソードで、谷本さんのことを思い切ろうとする正義くんをはげます美しい長ぜりふで、リチャードさんはそう言っていたと思うので。

   にぶちんなかれは「いいカンジの兄貴が背中を押してくれた」だけだと思っていて、その言葉の意味するところを深く理解していなくて、まるきり純粋な友情そのものから「ありがとう大好き」みたいなことを真っ向から言って。もう、銀座の大通りの真ん中から二階にいる人に大声で……。ああ、青春だなあ。

   そして、リチャードさんは……。

   ちょっとちょっとちょっとどうしてここで切るのよう~~~~~~~~!

   おかあさん久々山岸由花子状態!

   明日ハマーツェントルムの丸善行って続きを買って参ります。
   ここで言い逃げなんて許さないんだからーーーーッ!

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2018年6月24日 (日)

本好きの下克上 ― わらしべガッデス! ―

   初っ端からネタバレをしたようだが最終章のサブタイトルにもあるからセーフ!

   波多利郎さんから貸していただいたのはもうかれこれ1年前になるかしらねえ……トオイメ。おすすめ本をお互い蜜柑箱で送りあっている春暁オフメンバーですが、おかあさんフルタイムで働き出したら本を読む時間が取れなくて。どさっと一冊が国語辞典ほどもあるノヴェルスが10冊ほども届いたのを見たときには正直引きました。ごめん。だって、「ちょーシリーズ」も「流血女神伝」も長編たってコバルトじゃん。判型は文庫本ですよ。サイズ違うって。

   いわゆる現代日本の若者が異世界に転生して冒険する「異世界転生モノ」ファンタジー、おっかなびっくり読み始めたら最初はとっても辛かったです。
   そういう中世っぽい世界観だと現代日本人が一番付いていけない衛生観念の違い、風呂は入れなくて臭いとかトイレはその辺にポイだとかを逃げずにごまかさずに描写してあって、主人公麗乃(うらの)、この世界ではマインが内心泣きながら必死に対応している様がもう痛々しくて、ああ、ショウセツテキキョコウはエンタメなんだからあってしかるべきだったんだなあと思い知りました。ごめん。

   あとは、その昔「十二国記」をとむ影さんに貸していただいたときの忠告、下巻にいくまでは大変だけど頑張って! というのを思い出しながら読み進めましたね。別に文体が痛々しいとかそういうことは全然無く平易で、だからといって今時の若い人のような砕けたところはなく、よかったと思います。世界観が硬派すぎて、そういう地道に、ようやく家族から共同体へと視野が広がり始めた幼児の目からゆっくりゆっくり世界を描きだしていったためのローギアの状態が長かったための世界になじむまでの読みすすめにくさはありましたね。ごめんよ。

   本さえあれば幸せで現代日本人としても奇人のうちにはいっていた麗乃がまあ読書人としては本望といえる死に方をして異世界へ転生、貧しい庶民の病弱な幼女として覚醒するところからはじまり、宗教観も生活習慣も異なる世界に驚きながら、それからファンタジーな意味で「病弱」な体という制約のなかで「本が読みたい!」という信念のもとまったく挫けずに前進してゆくところがすごい!

   アレがない、これが出来ないと嘆く、家族や周囲に教育がなく文明程度が低いと見くだすのではなく、手に入れられるものから工夫して身の回りをよくしていこうとする精神に頭が下がります。それは、あまりにも本の虫である娘を心配して各種手芸とか手作りを母親が体験させてくれた麗乃時代の蓄積に寄るところが大きいです。そういう設定が巧み。知っているとじっさい作れるの差は大きいですよ。その辺、「ドリフターズ」の信長が黒色火薬をファンタジー世界で実作したのはぎりぎりアリでしょうね。同時代人でも、秀吉はギリアウト? 毛利元就とか今川義元では、たとえ大大名でも知らないでしょ。信長なら、知っていて、作り出せてもおかしくない。そういうナットクリョクがありました。
   木簡や粘土板からせめて、とはじめてそれを理解されず捨てられてしまう涙の試行錯誤を経て、頭が痒いのはもう我慢できない! とリンスインシャンプーを自作してさっぱりする、もっと美味しいものが食べたいとココナツ? 的な果実の絞りかすでパンケーキを作る、そういう細かい生活改善で物知りで新しいモノを発明する不思議な幼女として一目置かれていくところが面白かったです。

   識字率の低い周囲に脱力することなく、周囲でいちばん文字を知る事務方の兵士に弟子入りのように文字を習いに行く、その妻の兄である野心的な商人と知り合い、リンスインシャンプーの製法の売却から製紙、さらには出版の夢を語り支援を取り付ける……。うん、下克上って言うか立身出世だな。なるほど、タイトルの意味が解り始めると、物語が面白くなってきます。

   そしてね、おさななじみのナイトがいいんだ。子だくさんのうちの末っ子で、いつもお腹を減らしているルッツ。マインの教えてくれた絞りかすケーキでお腹いっぱいの経験をして、この子についていけば美味しいモノが一杯食べられる、体が弱いくせにまっすぐムチャをして、危なっかしくて目を離せない、もともと美少女だしと「お目付役」の補佐を買って出てくれました。「お前の考えたものはおれが作って売り出してやる」。もともと、父親の生業である職人ではなく、いろんな街にいくことができる商人に憧れていたルッツも、マインの影響で将来に具体的な夢を持ち始めます……。

   ナイトのルッツ、もと商人の兵士オットー、その義理の兄のベンノ、元々の意味で言う七五三みたいな洗礼式で出逢い、マインの可能性を見いだした神官長、領主、王子……出逢った男性の支援者をどんどん取り替えてのし上がってプリンセスとかクィーンになるんじゃないかと思いましたけどね、そこへはね。
   どっちかって言うと、この世界ではこれがないんだ? じゃあ作ってみよう、売れたら(お金になって)わたしが有利に生きられる……そんな思考回路でどんどん発明したモノで、マインはのし上がっていくのでした。わらしべ長者とはちょっと違うか。
   マインの後見人になって、2部からずっとその価値観の違いを興味深く思ったり打ちのめされて頭を抱えたりしながら付き合ってくれる神官長はご苦労様でした。

   そう、神官長は「乗り換え」られない。

   もうね、マインがわらしべガッデスなら神官長はドSのあしなが源氏。おばさんネタバレすんなよ(ごめん)。
   頭が切れて魔力が国内最強クラス。それでバリバリ騎士団長を張った武闘派ながら政争というかお家騒動で命の危険から身を守るために出家(日本史的な意味合いで)したマジ源氏だしなあ。
   誰にも心を許さずにっこり笑って「次はこれを」とあとで周囲が引くようなスパルタ教育でマインを姫君に育て上げたあたりなんか、ほんと光源氏。
   どのくらいスパルタって、第3部で学齢に達したマインが貴族院という「ホグワーツ@ハリポタ世界」に入学したら……周囲が引くぐらい(自制)。
   注意。
   1部で七五三ではじめて神殿に詣でたマインが潜在能力がその辺の兵士の娘レヴェルでないことがばれて、いろいろあって2部で「領主の娘」に成り上がって。
   3部で貴族院に行くんですが、この時でやっと学齢。

   でも精神は大学卒業して図書館への就職が内定していた麗乃ですから。

  合法ロリ(おかあさんそれちがいます)。

   いや、容姿は年齢以下の育ち具合で入学式でヒソヒソされるぐらいです(魔法の潜在能力のせい) 。
   この世界でも恋愛/結婚対象外。神官長の苦悩は深い(おい!)。
   神官長にその気はあるのか、出家してる身の上だし、それをさせた家庭の事情もあるし、神官長と結ばれる未来はあるのか!? 

   途中からいけないと思いつつそっちの線を考え始めたおかあさんです。

   そして「今年こそは問題を起こさないでくれ!」と懇願する養父や神官長やお付きのひとの祈りをぶっちぎってハリポタなみにただ者じゃなさをアピールし続けたところへ、お家騒動の収拾のため神官長まさかの他家へお婿入り!

  うそだといってよフェルディナンド(神官長の俗名)!

   じゃあ、恋を秘めてスーパー巫女として図書館の主になる尼エンドかなーっとどきどきしてたら。

   前代未聞の大騒動をやらかしてマインが得たものは!?

   やっぱね、平成ヒロインは自分で勝ち取るんだな。

   日本人だから偉いのではないのです。夢に向かって挑戦し続ける志、挫けない強さ、粘り強く交渉するコミュ力、そして、なんでも経験しておくこと。それがどこへ行っても幸せを勝ち取るための条件と思いました。

   波多利郎さん、長らくありがとうございました。最後の方は物語で進展がある度に時間を考慮せずLINEで感想を送りつけて済みませんでした。よい出会いを本当にありがとうございました。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年12月16日 (土)

アルスラーン完結しました

   忙しいので一言。

   

2部なんてなかった。いいね?

   いくらなんでもあれは、ちょっと。物議を醸す遺言であろう。
   あるるん推定チェリー。あのひと亡き後まあ誰を持ってきても心からの愛は得られなかったであろうしな。だから何故殺した……。
   幻の王女はアレだけ引っぱっといてあれかよ。
   イヤ逆にアンドラゴラスは愛した女に誠実。ほんと男としてはできるだけのことやってる。タハミーネの方が壊れてただけで。ここへ来て株上がった。死んでるけど。

   そしてラジェンドラが最終的勝利者。鬼嫁とはいえいい嫁貰って子孫残してるし。まさかこのインドのジャイアンがここまでとはなあ。ポルナレフポジションだったのか。

   蛇王の正体については考えすぎ。ファンタジーなんだからファンタジーで終わらせれば良かったのに。

   やーもうホントにお疲れ様でした。お互いに。ハア。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2017年10月 1日 (日)

第3枠が埋まりました

   娘と昨日最近の新刊情報を交換していたら出た話から。

   「古今東西ああこの敵役が主役でも普通に波瀾万丈な話が書けるというライヴァル3人衆!?」で、1にヒルメス@アルスラーン戦記、2にエンリケ@アルカサル―王城―、3人目は誰だ、DIOか? という問題提起に答えが出た話をコメントとして当該記事につけようとしたら、なんとスパム扱いで延々パスワード要求されて、自分の記事に自分が後からコメントつけようとして何故スパム扱いになるのかとキレたので新たに記事を起こします。

   「最近『絶チル』がクライマックスに向けて盛り上がってきてて。兵部京介がもう!」
   「おう、最初はいやらしい悪役だったのが、過去篇から歴史に翻弄されたかわいそうなひとになったよな! あ! 埋まったよ3枠!」

   ということで、「十分主役を張れるほど波瀾万丈な人生を送った陰影深い登場人物3人衆の残り1枠は兵部京介@絶対可憐チルドレン」ということに決定。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月20日 (日)

「とりかえばや物語」 女性の幸せはどこに?

   その昔、コーダンシャが出した「21世紀版少年少女古典文学館」がセンテンススプリング社で文庫落ち。表紙がいのまたむつみで可愛いッから買っちゃった。作者は古典をやさしく語ってくれることについてはもうプロフェッショナルな田辺聖子師匠。もうそれだけで期待できます。

   その昔、氷室冴子が翻案して、花とゆめEPOで大人気だったのが同じ原作の「ざ・ちぇんじ」。今はさいとうちほが新たにやってるらしいので、そういう需要もあるのかも。さいとう版はレンタルで無料分だけさらっと読んでるけど。

   時は平安、藤原氏でも超主流派、兄弟で右大臣と左大臣を分け合うぐらいの名門のおうちのお兄ちゃんの方、権さん(登場時権大納言だったから)のうちは、異母きょうだいながら双子かって言うぐらい男の子も女の子もそっくりな美形。ところが困ったことに、姫君の方は、賢くて活発で素直で元気で、もうどこに出しても恥ずかしくないお子様。……どっちかっていうと男の子の性格として好ましいよね? それで、来客も家族もこっちが男の子だったっけ? と思っちゃってる。ヤバい。対するに、男の子の方は、内気で病弱で、父親にもまともにお返事できない引きこもり。……女の子だったらそれでもいいけど。

   ここんところを、氷室版では、若君の方を「女の子として育てたら育つと夢のお告げがあった!」と神秘系な母親のせいにしてました。それに対する女の対抗心として、姫君はこちらのほうがよっぽど男の子らしい! と、もともとの気性に加えて、そうなるようにしむけて男の子っぽく育ってしまった、と描いていました。
   田辺版でもさいとう版でも、まず、姫君の方が本人の生来のものとして、男の子らしい振る舞いを好んでいる、という描き方……?

   既に、時代として、読者の方に男の子らしさ、女の子らしさという感覚がなくなっているのでは?

   描かれる沙羅(さいとう版のヒロイン)も、春風(田辺版ヒロイン)も、ムチャに暴力的でも、乱暴な言葉遣いをするわけでもない。ただ、陽性というのか、外に出て身体を動かす遊びが好き、ゲームも、「男の子向け」である、漢字の習得の助けになるようなものがより好みである、来客にもすぐさまなついて親しげに相手をねだる……。そういう積極的な幼い子の好ましい振る舞いが描かれていて、それを、みたひとが「若君であろう」と判断しているのです。
   いやそれイマドキの来客の多いうちなら女の子でも十分アリだし。
   お庭でディスク投げて飼い犬と遊んでたり、ゲームでもきわだって強くて、何に対しても生き生きとした表情を見せてくれて、
   「ピアノで新しい曲を覚えたからきいてきいて~」とお客さんに飛びついてくるようなお嬢ちゃま、可愛いよね?

   あの時代は、外遊びが好きで健康的なぐらいで男の子扱いされちゃうのか。
   紫式部が、兄の素読を横で聞いて覚えても、女だから何の役にも立たないと嘆かれるくらい。
   学問を修めて、器楽に秀でて、歌や言葉でいきなやりとりをする才をもっていても、姫として生きるにはなんの役にも立たないのか。

   だから、沙羅は、春風は、男として成人することを選んだ。

   それが痛快だなんて、やべーよ、平安時代。
   そういうのが読者の憧れだなんて、哀しいよ。

   それに比べたら、ただ引きこもってるあにきの秋月はほんと影が薄い。氷室版の弟は、自分が「姫」でないことを自覚しており、本当は若君として大臣家を継がねばならないことを知っている。ただ、病弱な自分を育ててくれた母の歪んだ愛にまだ勝てない。「若君」として優秀な姉の綺羅のような振る舞いが自分にもできるとは思っていない。物語の序盤は、ただ情けないヘタレとして姉に叱咤されながらも、母の周囲のやや病的な女性達に傅(かしづ)かれていて、自分と他者を観察し、思慮を巡らし、じっと、力を蓄えている。そして、運命が彼にも役目を与えて、宮中に出仕となると、自分より弱い存在である女東宮に出会って、凛々しい公達に脱皮してみせる。

   クライマックスの「ざ・ちぇんじ」はだからこそ大興奮で大納得したんだけど。

   女の子の身で男装して出仕、才能を発揮して皆に愛される沙羅/春風は家に閉じこめられた昔の姫君たちには憧れだっただろうけれど。男の生活はそれだけではない。恋の時代、平安を生きる男は、女性達と浮き名を流し、また、家のために良い家の姫の婿として引き立てを得なくてはならない。大臣家の「嫡男」であるヒロインは、従姉である右大臣家の姫君(田辺版では冬日)と結婚することになる。
   これが、貴族の男として生きていくなら結婚は避けて通れないのだから、共犯者として秘密を明かし、味方に引き込んで、もしかして百合的な間柄になってもそれだけの繋がりを持てばよかったのに、ただ罪悪感からやさしくするだけしかできない。

   沙羅/春風、ぬるいんじゃないの? それは氷室版の綺羅もそうだけど。

   ライヴァル宰相中将(さいとう版では石蕗、田辺版では夏雲)が才能ある美形だけれど浮気っぽくて信頼おけないだらしない男の象徴になっていて、男に対する目がつめたい、とはよく言われてるけど、女の友情も信じてないのかな。
   ヒロインには、氷室版では腹心の乳姉妹がついてたけど、さいとう版も田辺版も、女の子の友達も近しい召使いもいなくて、その辺りは孤独を感じました。まあ、登場人物おおいとごちゃつくからな。実際はいるけど名前を与えられてないのかもな。

   「乙女」向けコバルトレーベルだったせいか、氷室版では綺羅は宰相中将に迫られて混乱するだけですが、田辺版では原作準拠。望まない妊娠までいってしまいます。
   もうね、辛辣。個々人の努力で、どこまで実績を積み上げて、男なみに認められて出世しても、妊娠したらもうキャリアはおしまい。夏雲はもうバカ丸出しで、いいじゃんおれの妻になっちゃえよ、こんなにきれいな恋人持てて幸せだよ、もうおれだけのものになって屋敷にいて、なんで男社会に出てきて苦労する必要あるんだよ、とか言っちゃう。無神経。なんで女が才能発揮したらいかんのだよ、おまえより有能なのに。

   春風の絶望は深いです。

   それなりに贅沢な女性の装いをしても、教養も気だても含め当代最高の美女と誰に褒められても。春風の心の満足はない、響いてこない。

   せっぱ詰まった果てのヒロインの選択は?
   わたしさいとう版は読んでませんので、そちらがどうなるかは知りませんから!

   結局、あの時代としては最高のハッピーエンドに落ち着いたとは思いますけど、日本の中古は公的に女性の政治参加はできないからなあ。武士の時代になっても、いや、新憲法になるまでないから。

   結局女性が才能を発揮して伸び伸び生きていくにはどうしたらいいのよ?

   エポックメーキングな漫画誌「EPO」で読者を熱狂させてから30年、「とりかえばや物語」はまだまだ日本女性の心を騒がし続けるのでした。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2017年5月21日 (日)

「ケーキ王子の名推理」 苦労は買ってでもせよ

   春先ぐらいからノイエ・リリエンベルクの駅の本屋さんにでっかいカットアウト:等身大の販促用の人型立て看板が置いてあって、タイトルからしてああ、若い女性向けライトミステリなのねーというカンジで思いっきりスルーしてたのですが。だいたい若いイケメンを「○○王子」っていつの流行だよ。もしかしてそれが「ハンカチ王子」からだったら、あのひと甲子園出て4大行ってプロ入ってウン年目だから7,8年前だよ!  

   「ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)」七月隆文。

   「野崎くん」目当てで見に行ってるガンガンオンラインでコミカライズをやっていたのでちょっと1話と最新話を読んでみたら、なかなかいいセイシュン・ミステリだったので。
   学園のプリンス、みんなの憧れなんだけど近寄りがたい容姿に恵まれた男子と、平凡なんだけどある一分野にだけとってもこだわりが強くその分野では突出した感覚を持っている一芸女子とが日常の事件に挑むコージーミステリです……?

   いやもう、どのくらいって、ヒロインがいきなりお店に入ってきて号泣したのは何故かとか、三つ星レストランのウェイター氏が電撃的フォーリンラヴ&ハートブレイクした事情とか。「Q.E.D.」のB面作品か北村薫作品かってぐらいの。断片的情報から登場人物の心の動き、取った行動を全て推理し言い当てる王子の観察力と推理力にはあっと言わされますが……いいんだよ、普通の高校生はこれで! 国際謀略とか血なまぐさい事件とかに絡まなくていいから! 

 ……いややっぱこれはセイシュンラブコメ止まりだろう。

   冒頭、ヒロイン未羽ちゃんが自由が丘から有名ケーキ店に以降として迷子になる辺りのストリートヴューか!? というような描写といい、ケーキおたくの未羽ちゃんが味見する度に事細かに表現するケーキの描写といい、これは原作に当たるべきと思って買ってきましたよ! マックでヴァリューセット食べきる間に読み終えられたよ!(おかあさん自重)

   そういう安楽椅子探偵っぷりもさることながら、王子においしいケーキに対する執着を見込まれてどんどん距離を縮められていく辺りのワクドキ、そしてヒヤハラ(女の子達の嫉妬怖い)加減がほんとにあの年頃を判ってる!! のが見所でした。まあ、あとは各章がひとつのケーキの蘊蓄に絡んでるところとかね、へえ、ふーん、というお得感。

   なんで女子に厳しい=冷酷王子と呼ばれるのかという看病イヴェントからの告白は痛々しいものがありました。でも、外見ではなく、おいしいケーキを作りたい、食べさせたい、という情熱をこそ評価してくれる未羽ちゃんは彼にとって足りないところを補ってくれるかけがえのないパートナーとなることでしょう。うん、「Q.E.D.」の燈馬くんにとっての可奈ちゃんみたいにね! 

   やさしいけどワケアリっぽい師匠の青山さんもまだまだ枯れるような年でもないし。2人ともいっぱい苦労していいパティシェのいい男になってね! 明日2巻買いに行こう!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年9月13日 (火)

おかあさんの外道!

   おかあさんは結構ネタバレを気にしないひとなので、時折フェイタルなネタバレをやってしまって猫科の人たちを泣かせます。ついこないだも、「アルスラーン戦記」の原作の方の新刊で、とうとう物語も締めに入ってきて、ととあるキャラクターの退場をかるく話題にしてしまって……。だって、虎美あれだけ母が勧めても原作読んでくれないから、もうアルスラーン興味ないのかと思って。2部だしいいかと。1部のあの結末は言いたいけど言わない……言ってないよね?

   今日もやってしまいました。
   「2部の敵はもう人外だから。アルスラーンがアレと相討ちになって死んじゃって、子供もいないから後を継ぐべき人がいなくて、一応もとの王族だからお願いしますとかいってヒルメスが王位につくんだけど、『解放王アルスラーンマジ名君だった』、『あの方が生きておられたらいいのに』って日頃そこら中から言われるのって最高の嫌がらせだよね」

   途中から虎美の表情が固まる固まる……!

   「おかーさん、それ……」
   「母の妄想だが」
   「ホントのネタバレかと思った!」
   違いまーす♪ でもそれくらいやられてもしょうがないかも、ホント、おれは正統の王子とかいって物語世界のほぼ全ての国に迷惑掛けまくった疫病神だから、ヒルメスって。最近自覚し始めたけど、その分やさぐれMAXでもう手が付けられないカンジよ。精々ハデに破滅すればいいのよ。ホントにもう。

   いえね、きのう2ちゃんで拾ったネタで、「青池保子の『アルカサル』のエンリケはふつうの漫画ならこっちが主役を張ってた登場人物」とか言うのがあって。
   それはたしかにそうとも言えるんだけど。王の庶子だけど嫡子の王太子より愛されて育って、ある日父王の突然の死により頂点から転がり落ちて、復讐の刃を研ぎ弟王をつけねらいとうとう……という一生は確かにアップダウン激しいな。まあ、本来の主人公カスティリア王ドン・ペドロも好敵手だけあってほんとドラマティックな人生だったんですけど。

   「アルスラーン戦記」のヒルメスも、伝統的物語のパターンならこっちが主役になっていたであろう人物とか、作者の田中芳樹が言ってたなあと思って。

   じゃあ、なんでも3つ揃えるのがお作法とすれば、「世界3大こっちが主役でも充分波瀾万丈な物語になる伝説級ライヴァル役はエンリケ、ヒルメスそして……?」

   おかあさん最近物語読んでないからどうしても出ませんでした。

   ……やっぱDIOですかねえ?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年2月11日 (木)

まだまだ想定の範囲内です

   恒例前年おかあさんをはにゃ~んと言わせた本! の発表は、「2015年は残念ながら該当なし!」となりました。仕事に頑張ったので本を読んでる余裕がありませんでした。てゆーか買ってる余裕が。にゃんこたちが2人とも私立大学に行きやがったのでもうギリギリです。いや1にゃんはおじいちゃんに面倒見て貰ってますが。学費から生活費小遣いまで丸抱え。親として深く反省。

   そんでもって細々とネットの小説を読んでたりしますが、まーあれだ。いわゆるなろう小説? もう読む方もゲームの知識があることを前提としたファンタジーね。異世界に飛び込んで、なぜかその世界でも珍しい突出した能力を持ってて、でも元の現実世界じゃああんまりイケてなかった少年少女お兄さんおねえさんが、行った先では万能のもてもて。シヤワセ~もう帰らなくてもいいよねッ(!?)ていうお話だ。
   普通に勇者にならなくても、カフェを開店して大繁盛、癒やし手となっても奇跡の人。次はどんな切り口で来るかとちょっと面白くって、いろいろ読み散らかしております。

   さてと。いい年の読者としては、楽しむだけじゃなく、出る本出る本みんなファンタジー世界を舞台としておって、大丈夫なの? きみたちそんなに日常に飽きて脱出したいと思ってるの、注目されたい、大切にされたいと願ってるのと親としては心配、というところまで思いをめぐらせるべきかな~と思っているところです。

   とーこーろーがー。
   BGMに昔買ったオペラの名作集を掛けながら読んでたら、おかあさんはたと気付いてしまいました!
   大好きなビゼーの「真珠採り」はたしかインド辺り、ビゼーなら「カルメン」だけど、これも異国情緒ものだ。「トゥーランドット」は中国で「アイーダ」はエジプト、「ナブッコ」はバビロニアだぜおっかさん!
   ……絢爛豪華なスペクタクルと国を救うの救わないのというラヴ・ロマンスはやっぱ知らない遠くの異文化の国の方が似合うんだなあ、コレ歴史の教訓。

   じゃーべつに血湧き肉躍る楽しみのための物語の舞台が知らない世界であることに何ら問題はないのでした。おおいにやれ。

   そんで、絵空事ばっかやってて楽しいの? とヴェリズモ・オペラが勃興し、日本のミステリに社会派が一大センセーションを巻き起こしたように、きっと青少年向け読み物にもリアルでイタ切ない話の波がきっと起こるんだぜ、そのうち。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月16日 (木)

華麗なるギャツビー 

   こりゃ困った。

   いつも見に行っているブログで2013年版、ディカプリオが主演で監督がバズ・ラーマンのを紹介してあったので、そういえばこれ読んでないわとブックオフへ。ちょうど出てたので買って、うちかえって流し読み。

   

定価で買わなくて良かった。そう思った自分がまた哀しい。

   理由1。

   こんなもんコーコーセーの時に読んどくもんでしょう。そんでもって気の利いた英文科生なら学生時代に原書で読み直してると。なんで50前にして初読、恥ずかしい

   理由2.

   翻訳文体、長く続く内省的な地の文がもう退屈で退屈で。こういうまとも(?)なものを読めない身体になっていることに絶望。ときどき挟まれるギャツビーの口癖「親友」ってのが、これは地の文じゃあもしかしてポアロみたいにフランス語なんだろうか、それとも、20年代の教養人はそういう口の利き方をしたものか、じゃあ原文じゃあなんて言ってるんだろなんて、いろいろ思いをめぐらしてしまうそういうヘンに知恵のついた自分も嫌ッ。説明の要る単語につき、括弧書きで2行に割ってさらに小さい字で注釈を入れてある翻訳物独特の文体? レイアウト? にご苦労さんですと書く方の苦労に思いを致すようになっちまってどうも。

   理由3。

   登場人物みんなに感情移入ができない。いろいろ解説を読んだりすると、そういう特異な時代背景の中の特異な人々と、それに対して批判的な目を向ける語り手(=作者)を味わうものらしいので、なにこの低俗な連中というざらっとした感想も作者の意図したものらしいんですけどほんとお付き合いしたくないわあ。本は娯楽として読みたいんで、時代を読み解くためにキョーヨー人の義務として読んでるんじゃないんで。

   全然血湧き肉躍らないしその時代のお素敵な雰囲気教えていただいてありがとうッとも思わないし、学校の図書館で借りて読んで「ああ、読んだよ?」と解った振りだけできればいい本と思いましたです。ふーん、アメリカ東部と中西部ってそういう精神的断絶があるの~? ッてカンジ。

   おかあさんバッドエンドものは引きずるから嫌なのよね。どこの分岐でだれがどうすればよかったかずるずる考え込んじゃうから。要は、物語として好きじゃないです。

   映画館でパーティ・シーンに圧倒されて、ああ、レオ様可哀相ッてしみじみして明るいところ出てきてさくっと忘れる映画としてなら我慢できたのかも知れないけれど。そういうライト・ユーザー向けの性格もあるのかな?
   「やっぱり過去にしがみついちゃダメだよね、未来に生きなくちゃ」 
   アメリカ版金色夜叉と解釈すればよいのか。最初から、語り手キャラウェイ君の目からは「こいつやべえよ」と見られてるようですが。

   ああ、そんで、レオ様版映画は気合いをいれすぎた衣装とかが前に出すぎでストーリーを圧倒しちゃってぼんやりした出来になっちゃったらしいですな。TV落ちしたら見たいかも。

   作劇上のこと。
   どの場面で雨を降らせると効果的かという点においては満点。すんごい惨めな顔してキャラウェイ君ちのお茶の会の日に時計をチラチラ見てるレオ様が目に浮かびました。そんでもってそのあと晴れるし。ありえねえハッピーエンドを一瞬だけ心に描けたりして。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年2月16日 (月)

発表! 2014年の本

   いやほんと、暮れからお引っ越しの準備しつつ買った本を整理してたけど、去年はまったく本を買って読む余裕がなかった! 「オリ咎」シリーズも出てなかったみたいだし。
   辛うじて東日本大震災のときに石巻? の製紙工場が大変だった話を日本の製紙業界の現状をからめつつ描いてくれた本は読んだけど、どっかいっちゃったわ。寝ても覚めてもなくらいに心に深く食い込んだって程でもないし。

   情けない。

   それで、2012年と被りますが、「マルタ・サギーは探偵ですか」が再び選出となりました。虎美が発掘して読み返してたのに付き合ってたら、なんと加筆再版で、新しいヴァージョンも読んだら、あー作者さんこういうところをもっと膨らませたかったのね~と胸がいっぱいになったり。

   あと、旧版では学校になじめず、父母からの「金は十分渡してる筈だ」というネグレクトを受けていた主人公に温かく目配りしてくれていた先生がそれでもいたのが、新版ではバッサリカットされていた辺りの事情を作者さんがご自分のツィッターで説明していたとか言う話がなんともイマドキーでした。
   そういう、出版社の公報や、雑誌のインタヴュウでなく作品について語る場があるっていいわよねーと、時代の流れに溜め息を吐いたと言うことと。
   明らかにネグレクトを受けている生徒をそれと知って学校側が手をさしのべないというのは2013年時点では有り得ないということでカットになった云々の事情が。
   ニュースとかで、この子も救えなかった、この子の命も失われてしまったというのばかり見聞きしますと行政はなにをやっておるのかと思うことが多いのですが、それなりに頑張っておるし、頑張らないといけないように環境は変わっているのだそうです。
   悪くないじゃん日本。

   想像世界のオスタス(この作品で主人公が飛ばされた異世界)もすてきな場所ではありますが、それなりに悪の組織とかあって、無碍に失われる命とか、ある訳ですが、現実世界の日本も、なかなか悪くはないのではないかと思うしだい。それが十全ではなく、メリットよりまだデメリットの方が多い感じで歯がゆくもあるでしょうが、世の中そんな捨てたもんじゃないと思ったので、2014年という年にこの本に触れて良かったと思ったのでした。

   こういう年もありでいいでしょ? でも、今年はもっと本をじっくり読みたいです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧