2017年10月21日 (土)

「天竺熱風録」 ― ナイスBBA登場 ―

   いや買いに行ったのは加藤ミステリのコンビなんだけれども。
   やっぱり書店巡回しなくなったから新刊に疎くなって。

   「天竺熱風録」田中芳樹&伊藤勢のマサラ・ロマン2巻目です!

   いやもうすごい、前の巻で脱獄した王玄策と蒋師仁(ごめん「しょう」の字拾えなかった)、謎の三面の男に見つかっていきなり大立ち回り。文官とか言っちゃって王正使どのの生き残りスキルの高いこと高いこと!
   場所がインドだけに圧倒的迫力の牛ー! 猿ー! 馬ー! そしてなんか知らん猛獣ーッ! 

   そして出ましたかわいいヒロインちゃんとナイスBBA
   そのまま読んではいけません。
    
    RIGHT
    BRILLIANT
    ARISTOCRAT

    な大お姉様です(ブライトもブリリアントもほぼ同じ意味だけども)。殿下です。高貴な女性の全盛期すぎながらも内面から麗しいたたずまいが非常に良かったです。作画の伊藤氏への尊敬度がまた上がりました。同じような顔のぴっちぴちの美少女しか描けない絵師なんかお呼びじゃないですよ、ほんと。

    高貴で聡明な方は別に自ら軍を率いて戦場に赴かなくても良いのです。時制を見極め、人を見極め、必要なときに必要な指示と支援を行えば。そういうなんでも腕力で解決するやんちゃ少年漫画ノリより上をいった感覚がグッと来ます。いやそこで鼻息荒くなるところがまだ坊やちゃんなんだけどね。読んだ当時は(すでに三十路越えだったと思うけど)いたく感じ入った次第。今も胸アツでしたわ。

   「子曰く」の中華に対して「如是我聞」の天竺。
   
   教典の語り起こしスタイルから初めて彼我の違いを説明する王正使殿がカッコイイ!
   まず自分という王があって、そして世界があるという感覚。ナットクリョクがありました。
   そういうね、代表作の「銀英伝」以来、文化ってのは日本と西洋だけじゃあないという感覚を、青少年の読み物というジャンルで教えてくれた作者田中氏をわたしは尊敬しています。

   そういう、陽は中天にあり、明々と輝いていた、あの頃の名作を、こんなに読みやすく、陰影濃く描いてくれたこの作品を、もっといろんなひとに知って貰いたいです。

   ……いや今が落日だっていってんじゃないのよ、ええと、風呂敷をたたみ始めたのよね? いろいろ時の流れを感じてね。アルスラーン最終刊待ってますからね!

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2017年10月 1日 (日)

「あずみさんは倒せないっ」 これはこれでアリ。

   「野崎くん」がらみでガンガンのオンラインコミックを一通りチェックしているおかあさんです。日常系がレヴェル高いです。アニメにもなった「田中くんはいつもけだるげ」とか。無事に完結を迎えた(ってことは打ち切りかい?)「ケーキ王子の名推理」とか。「高嶺の花なら落ちてこい!!」は「野崎くん」の鹿島くんみたいなキャラから発展させてできた話だと思うな。結構好き。

   今回きゃう~んとなって単行本大人買いしたのは「あずみさんは倒せないっ」鳴海けい。

    某地方のデパートのイマドキ珍しい屋上のヒーローショー(当然閑古鳥が啼く状態)の救世主は巨乳天然の美人女子大生バイトのあずみさん。敵方、悪の女帝ヴィラニア様役として熱演して、固定ファンの大きいお兄さんを呼んでくれてますが、なによりそのほんわかとろりんとした美貌と気だてがぎすぎすしたバイトのヒーロー達の心を和ませてくれるのでした。それぞれいろいろあって疲れているフォーチュンレッド&ブルー&ピンクの心もほぐれ、田舎から出てきていろいろ危なっかしいあずみさんを守るべくいろいろ奮闘してくれます。その日常を読ませてもらっていると毎度ほわほわにやにやさせてくれるのでした。

   大学のお友達もそういうあずみさんを得難いと思って尊重しているようで、ほんといいわあ~。和む。でもまあ、個々人はいろいろヘンな人だったりするのがイマドキよね。こういうみんな違ってみんないい、ちょっとヘンな所を持ってる人が、ごくふつーに日常生活を送って、それでも日々はそれなりに波瀾万丈、これが日常。無理に異世界行ったり命に関わるようなケンカしたり世界を救わなくっていいです。高度に人との交わりが複雑になっているこの世においては、ちょっとしたすれ違いをどう克服するかが当人にとってはえらい過酷なミッションになってる。だから、ほんのささいな出来事も目を留めて描くに値する。読む方も感じ入るポイントがある。今はそういうジャンルがアリになって、ガンガンはそれがある種売りで、いいんじゃないの。

   今日の所はそういう結論。

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2017年9月 9日 (土)

「彼方のアストラ」 行ってこい

   

刺客の正体キター!!!

   2ちゃんの当該スレでは
   「カナタの性格から本当にアレが刺客だったとしたら危険な囮役はカナタが自分で引き受けただろう」とあって、大納得!
   「それって自分が消されるだけでは?」と囮役も突っ込んでたけど。

   話を戻すと、前々回、これまでのことを回想しつつ、推理を進めるキャプテン・カナタ、とうとう仮説を立てるに至って、映像記憶能力を持つヒロイン・アリエスに確認に行くところが、夜這いにまちがわれてちょっと大変になって。
   前回では、謎の諸悪の根源(携帯型?)ワームホールに追い回されて、アリエスを巻き込みそうになったとたんにそれが消えたところから、彼は確信を抱いたわけですが……。

   刺客を引っかける2重の罠にもうドキドキ。

   カナタ、あんたウルちゃんを信頼して、アリスペードの襲撃のあとも銃を預け直したじゃん! ウルちゃんも、馴れ合わないそぶりを通してたのに、
   「アイ・イェー」って、仲間内の合い言葉を使って見せたじゃん!!

   いやー、やられた。

   多くは語るまい。行ってこい、そして見てこい。2度でも、3度でも、全話通してでも。

   ユリウス・カエサルの言葉に従えば、「私は来た、私は見た」その後には

   「私は勝った」が続くのは必然でしょう。

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2017年9月 3日 (日)

「魔王の秘書 1」 すでに地獄を見ていた。

   イマドキはネットで広告を流し、あまつさえ数ページ試し読みさせてくれるから、書店で手にとってなんじゃこの出版社聞いたことない(失敬) ってところがコミックス出してますよね。そんでもって、大手とは違うからちょっといい値段して、お会計の時にビビリます。この本も600円でした。税別。
   バブル崩壊からこっち、ものの値段が下がってるといいますが、本だけは順調に上がってますよね。困るわ。
   まあそのぶんこっちはマイナーな面白い作品を手に取れて楽しい思いをさせて貰ってるんだけど。

   と言うわけで、いろんな所でちょっとだけ目にして、なんじゃこれ面白そうってことでとうとう買っちゃいました。「魔王の秘書」鴨鍋かもつ。いえね、ほんとは別の本探しに言ったんだけどね、そっちはなくて、こっちがあったからもうご縁だと思って。立ち読み用リーフレットも出てました。書店の方でも地味に力が入ってるのかも知れません(2017年上半期ウェブ漫画第一位 ニコニコ漫画調べ)。

   勇者がいて魔王がいるRPGの世界で、何千回めかの封印から復活した魔王が、今度こそ野望達成のために、作戦を考えた!

   「まずは人間を捕え
    魔王軍にその知能を
    捧げさせるのだ!!」

   「敵を知れば
   世界征服はたやすい!!」

   魔王頭使ってますね。ところが、さらってくる人間に婚活なみの条件をつけたモノだから、某先進国の国王秘書に立つ白羽の矢!
   
   「頑張って世界から

   人間を根絶やしに
   しましょう!!」
って秘書嬢割り切りすぎ!

   ちょっとふっくらめの(だが決してでぶではない)グリーンアイズブルネット眼鏡ちゃんは、その驚くべき割り切りぶりと有能ぶりでぐだぐだな魔王陣営を刷新してゆくのでした……。

   

えろーすな展開になりそうでならないのがイイッ!

   「我々魔物は
   人間とのあいだに
   子を成すことが
   できるのだ」と振られても、
   「お仕えしてすぐ
   産休に入るわけには
   いかないので無理です」とスパーンッと拒否。

   その後で抑圧された本能を解放する魔法などかけられても、
   「世界を征服するには
   今のままでは手ぬるいです
   人間たちをもっと
   恐怖と絶望に
   染めねばなりません」って、魔族の方がどん引き。
   「秘書の方から求めてきたら意思を尊重して……」とか言いながら汗かいてる魔王が可愛い。
   それでいてときどーき絶妙なアングルのサーヴィス・シーンがあったりもして。

   いいぞもっとやれ。

   そして魔王との間によくわかんない絆ができてしまうのか、みごとに割り切ってみせておいて、最後の最後に裏切って人間側に勝利をもたらすのか………。こりゃ楽しみだわ。この秘書嬢(名前はまだない)なら、勇者に敗れ城を追われても小言をいいながらついてきてくれそうv

    

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2017年8月26日 (土)

「カルバニア物語」 誰が彼女を止めるというのか

   虎ちゃん最近はネタバレを避けるために母のブログは全力でスルーしているそうですが。
  ごめんね
。母堪えられない。

   可愛い絵のフェミニズムの教科書
、おろかな母との相克から、女の子らしさって何? 女の子がガキ大将になると周囲全てを傷つけるの? どうして? 女性が社会進出して何が悪い、自己主張する女性になれていないおっさんとの付き合い方から自立する女性の足枷としての良識派の善意をどうけっ飛ばすか、などなどがてんこもりのおひめさまコミック、「カルバニア物語」、17巻にしてとうとう若き女王タニアが恋を自覚しました! でも立場を考えて自重するタニアに親友エキューから強力サポート! 

   「ざけんなよ
    コンラッド!!
    アポなし
    突撃は
    てめえの
    おはこ
だろうが!」

   「うちのタニアに
    このあしらい
    このままで終わると
    思うなよクソッたれ!!」

   近隣国で最強の優等生王子に向かってこれですよ。大使館の門前で。現役の女性公爵閣下が。さすが野人。そんで女王タニアに
   「このおせっかいのでしゃばり!」とかいってひっぱたかれてますが。すげーなこのロイヤル乳姉妹。

   まあたしかに先にタニアに恋して暴走中だったのはコンラッド王子の方だが。さすがに優等生だけあってところどころで踏みとどまって自重したり深謀遠慮で真心を尽くしていたわけで。

   これまで苦労に苦労を重ね、読者の紅涙を注がれてきた真面目女王タニアの恋ですから! 誰が止めるというの。ここはちょっとコンラッド引きますが、絶対立て直して戻ってきてくれるでしょう。そうでないともう許さない。

   ここは「からくりサーカス」から、最高のトリック・スターの言葉を引いて祝福するしかないでしょう。

   「幸せに おなり

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2017年8月12日 (土)

「月刊少女野崎くん」 違うそうじゃない

   武骨無神経男子高校生にして少女漫画家の野崎くんの高校生活を描いた「月刊少女野崎くん」ですが。前回で自分の理想の男じゃなくて女も鹿島くん(ボーイッシュ美人) であることに思い至った堀先輩、ここからどうなるか固唾を呑んで見守っていたら!


   違 う そ う じゃ な い。

   そりゃわたしは作中のカップルでは堀カシ(堀先輩と鹿島くんの関係をより注視して見守りたい)派ですが。

   堀先輩が可哀相すぎる。

   当たり前にらぶらぶカップルにしてあげてよう(号泣)。まあこれギャグというかコメディだし。堀先輩可哀相担当だし。

   鹿島くんがいろいろハイスペックなのに頭だけ残念(いや学校の成績は良いらしい)なのがいけないのか、堀先輩がプロデューサー気質過ぎるのか。あ、鹿島くんが残念なのはお胸回りもです。本人(と堀先輩)あんまり気にしてないみたいだけど。

   今月末には9巻も出るし。まだまだ予断を許さない展開です。

   そして、連載5周年を記念していろいろ作品の展開についてアンケートを採ったらしいですが、御子柴くんにだけ相手がいないのをどうするべきか(1人でいいという意見が多数派だったようだ、2次元の彼女がいるからとか、野崎くんの弟とくっつけばいいじゃないとか←オイ! いろいろ理由はあるにせよ)、作中の時間をちゃんと進めて堀先輩を卒業させるべきか、サザエさん時空で永遠に高校生活を描くべきかとか(サザエさん時空でいいらしい。まあ、5年かけてまだ物語開始時の学年の夏休みだけどな)。いや~わたしはカタツムリの歩みでも進展がほしいんだけど。堀先輩卒業イヴェントやろうよ。

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2017年8月10日 (木)

「魔法使いの娘」 リカヴァリーは可能

   イマドキはレンタルコミックやらライン配信のサーヴィスやらで、過去の名作やらドラマ化の話題作を無料で読めるようになっていて、ほんと貧乏人にはやさしい世の中です。まあそこで「課金して続き全部読んじゃった」「既刊を買って読みました!」とか感想が付いてるから、みんな乗せられて作家さんにお金が回ってるらしいからいいかな。それも実はサクラだったりして。

   ということで、読んでて密かに楽しみにしてました。「魔法使いの娘」那須雪絵。そしたら、波多利郎さんが「よかったら」といって続篇の「魔法使いの娘に非ず」までセットで貸してくれました。もう相模原の方に足向けて寝られない。福島もだし、これから死ぬまで北枕だな。

   女子高生の初音ちゃんは美人だけど気が強いのが玉に瑕。死んだ父親の友人というパパと今は2人暮らし。実は死んだ父親は陰陽師として高い能力を持っており、友人であった現「パパ」も最強レヴェルの現役陰陽師。……でも、一芸に秀ですぎて社会人としてはダメダメ。能力のある初音ちゃんにあとを継いでもらいたいらしいパパですが、初音ちゃんは拒否。子供のようなパパを抱えてめっぽう所帯臭くなってしまった初音ちゃんに、ある日パパからの指令です。
   「今おまえの許にいる2人だが
    片方は私の弟子、
    もう片方は私が放った
    鬼だ」

   「命が惜しくば
   おまえは
   私が帰るまでに
   どちらが鬼か見極め
   自分で退治てみよ」

   いやーパパそれはスパルタンでしょ。
   そんでもって味方は敵となり。
   ちょっとしたどんでん返しに生き延びた初音ちゃんぶち切れの第一話。

   いやー殺伐としたオカルトホームコメディだなー。

   それから人でないものの起こす事件に無理矢理巻き込まれていく初音ちゃんは健全な一般女子高生の感覚で人の心の闇に向き合ったり自分の出生の秘密を暴いていったりするのでした。

   いやまさか弟子がね。弟子がね、弟子がね。初登場時うさんくささ100%だったあの弟子がね。初音ちゃんに弱みを握られてこき使われるあの弟子がね。

   まさかの結末でした。

   その昔、真面目に(?)オリジナルを書く修行をしていた頃、当時賞を取ったラノベを一通り読んでたんですが、その中にあったなあ。
   「セレーネ・セイレーン」とみなが貴和。
   「普通」でない2人が、障害を乗り越えて心を通わせ、結ばれる。しかし、ストーカーが割り込んで、「彼女」の身体を乗っ取って、「彼」を殺してしまう。「彼女」はかけがえのない「彼」の殺人犯として裁かれる……どんなに彼らを理解し、大切に思ってくれた人たちが弁護し、罪はないと言い聞かせてくれても、自分自身が「乗っ取られ」た自分を許せない……。そういう悲劇と読みましたけど。

   それまで、かれの負い目はほんの少しずつ描かれてはいたようだけれど。
   終盤、滂沱の涙で懺悔する彼に、その昔の作品が思い浮かびました。
   愛してるだの好きだのとは一言もいっていなかったのに。
   大切な相手を守れないどころか、殺そうとしてしまったことは負い目であったのだと。
   ふたりでいろんな経験をしてきて、信頼は芽生えていただろうけれど、数々の局面でかれは心ならずも初音ちゃんの「敵」になっていた。
   その事実はどうしようもない負い目であったようでした。

   へらへらした彼、兵吾の時折見せる激情が、わたしに2度読み3度読みを強いるのです。ここ数年でこんなに心を支配された作品はありませんでした

   ガンバレ。パパが初音にとって大切な存在となり、大人が考えてこれはきっとこうなるだろうと予測した未来を覆したように、きみと初音との日々も、出会いの最悪さを覆すでしょう。絆って、そういうもの。

   波多利郎さん、良い出会いをまたもありがとうございました。


 

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2017年7月 2日 (日)

骨までしゃぶり尽くすハーレクィン 「公爵と内気な乙女」 

   もう作家買い。「公爵と内気な乙女」さちみりほ、いえレンタルサイトの広告作品だったし。

   古き良き時代のロンドン、それなりの資産家の娘、ペネロピちゃんはいきなり兄ちゃんに大好きな本を取上げられます。買うのも読むのも全面禁止。いい年して本ばっか読んで社交しない嫁に行かない。パパは資産を遺してくれてるけど、それは結婚するまではボクが管理中。うちに居候するなら家長たるボクに従え! ……実は兄ちゃん投資がヘタで穴埋めにペニーちゃんの資産を狙ってるとかいないとか。
   本が好きっていっても原語でギリシャの古典詩を読んで自分で訳したい! という硬派オタで新聞も政治欄まで毎日熟読なペニーちゃん、ただ泣き崩れたりしません、じいやに荷物をまとめさせてすぐ家出です。

   「理想の夫を捜す旅に出るわ」

   

行動力のあるペニーちゃんです。←ここ大切。
   あんた冒頭、
   「新しく届いた本とお気に入りの椅子
   お気に入りのお茶を淹れて
   ページをめくるひととき

   きっと天国ってこんな所だわ
   いいえ きっと天国より
   すばらしいに違いないわ」って言っといて。社交界デビュウで地味子に対する冷たい洗礼を受けて引きこもったらしいけど、いやいや、充分逞しいではないですか。やっぱね、ハーレクィンヒロインはどの作品も地味に逞しいです。そこんところが、花ゆめヒロインに通じるところがあって好きなんだなあ。

   対するにヒーローはどうかというと、飲んだくれています。それは、自分の身の上を嘆いてはいますが、それなりにしたたかな作戦のためです。モノローグでかれのせっぱ詰まった状況が語られ……今回は「契約結婚」タグらしいです。
   けっこー卑下しながら語ってますが、冷静に検討するとその行動は漢(ナイスガイ)です。2年続きの凶作に小作料を免除してやっていたら資産を失い、起死回生を賭けた貿易船は嵐で沈み、破産寸前。どうせ死ぬなら事故死で保険金を遺そうという覚悟の独宴であったようで。そのみじめ公爵様が飛び込んだのが、都合の良い男を引っかけて駆け落ち村へ直行しようとしていたペニーちゃんの馬車だったというわけ。

   「もし、わたしが見えますか」
   「うん、見えるよ、天使だ」

   地味に繰り返されるのが「天国」「天使」という言い回し。かくて運命により出会った2人はお互いの困った点をカヴァーし合うために結婚するのでした。ペニーちゃんのたくみな誘導に、
   「うん !
   結婚しよハァト
   100万ポンドの笑顔ですよ、このヘタレヒーロー。もうこの笑顔だけでいいわ。

   今回もヘタレヒーローかなーとわくわくしながらページを繰っていたんですが、じゃあマッチョいや英語でマスキュリン♪な JETヒーローだったらこの話どうなるんだろうと考えてみたら……意外といけるかな。ハードボイルドな公爵様が自分のふがいなさに苛立つ飲んだくれシーンになって、そこから、ヒロインに介抱されてふっと心が溶かされて……

   「ああ
   結婚しよう」
   これはこれでアリだな。

   当然少女漫画の特殊効果である点描は飛びまくり……になるはずですが、やっぱ、ハァトは付かないな。やっぱり作品世界に合致した作画のひとを選んでるんですかねえ。   
   閑話休題。
   グレトナ・グリーンという実在の駆け落ち村で結婚する(鍛冶屋さんが立ち会って宣誓するだけ!?)と、手製の結婚承諾書を出してくるペニーちゃんの計画性に読者はやや引き。泥酔状態でもちゃんと結婚承諾書にフルネームでサインして印章も押しちゃう公爵のお育ちのよさっぷりに脱帽。翌朝、自分がとんでもないひとと結婚してしまったと蒼くなるペニーちゃんとじいやに酒が抜けた公爵ももう諦め。
   「扱いやすい夫が見つかったらどうするつもりだったんだ?」
   「夫には毎年2万ポンドほど渡して、自由に過ごして貰えばよいかと」
   ここ注目。ペニーちゃんの資産は年収3万ポンド。旦那の方に多くあげちゃうと言うのです。そりゃ公爵も「素面なら土下座求婚してた」な。
   そこであと出してもやっとけよ。そしたら揉めなかったのに。
   めんどくさい時代考証調べるのイヤだから、公爵様が破産して自害するくらいの借財(作中は15万ポンド)ってどのくらいかなーって、小さい会社の社長さんぐらいなら千五百万? 公爵って貴族のトップだから、もう一桁あげて一億かなー。いやーペニーちゃん大金持ち。着てるものもよく見ればレースぶりぶりじゃないけど地味にお素敵だったからなあ。でも平民。難しいねイギリスって。スルーされてたけど、次の爵位はやっぱ弟の方に行くのかね?

   さて、公爵様ともなれば結婚が新聞記事になる時代。わりと遊び人な公爵のお友だち連中がたかってきて大変。ペニーちゃんは上流階級のいや~んな人間関係にもみくちゃにされますが、最初のハードル「結婚披露舞踏会」をクリアするに当たって強い味方が!

   やっぱさ、歩かないと犬も棒に当たらない! 叩けよさらば開かれん!
   「プロクストン夫人は外せない」という小さな情報にも耳を留めていたペニーちゃんは、先代公爵夫人行きつけの洋装店で、今の店主がそのプロクストン夫人のメイドさんにコネがあるというネタに飛びつくのでした!

   「あなたがもしわたしの知りたいささやかな情報を教えてくださるなら、
   わたしはこちらで外套からデイドレスまですべて揃えさせていただくわ
   ボンネットから……ペチコートに至るまでね」
   正しいお金の使い方です、奥様! ちゃんと、流行遅れと自称するその店のものも、
   「ここにある若草色やスミレ色のドレスもどれもとても素敵としか思えないわ」って言ってるし。ウィンウィンだよ! 女性は好きで似合うものを身につければいいんだよ!

   ただ、そのメイドさん勤務先の情報流してるよね? 招待客とか皿数とか食品の発注量とか。
   …………古き良き時代だからいいことにしよう。パーティでは本人に「評判なので丸パクさせていただきました」ってゲロって認められてたし♪

   ヒロインはお助け情報をもとに自分のできることを絡めてがんばるし、ヒーローはヘタレながらも要所で侠気を見せるし。横恋慕イヴェントも乗り切って、やっぱり2人はベストカップルになるのでした。

   うぅ~ん、☆5つ!!

   ペネロピって不思議な名前だなーって思って調べたら(当方自分の趣味のために西洋の名前がナニ系でどういう意味かを調べたサイトのリンクを持ってる)、ギリシャ神話のオデュッセウスの奥さんの名前だそうで。そういえば兄ちゃんはへクターだったな。こっちはトロイア戦争の英雄の名前だ。地味に古典好きなパパをイメージできてペニーちゃんの「ホメロス! ホメロス!」なギリシャ趣味のバックグラウンドもうかがい知れて、芸コマ。

   ただ苦言を呈せば、タイトルの「内気な少女」って誰やねん。ペニーちゃんは実年齢出てませんが結婚適齢期過ぎ加減の成人女性ですよ。新聞熟読で投資は兄ちゃんよりうまいぐらい、原稿に手を入れて公爵に議会で名演説させちゃうぐらいの才媛。内気はあるかもしれんけど、舞踏会を成功させなきゃと奔走するところはとてもそうは見えなかったな~バーサーカー状態だったのかな。日本版シリーズタイトルとの調和もあるのかも知れないけど、原題は直訳して「ウィンスロープ嬢の駆け落ち」。どこにも少女って書いてないやないかーい! ……日本版は毎度タイトルがヘンと言うことで。

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2017年6月17日 (土)

「天竺熱風録」 ― あんたが大将 ―

   いや買いに行ったのは「ファイアパンチ」なんだけど。

   新刊の棚の真ん中にどど~んと積んであって。原作に「田中芳樹」とあって、タイトルが「天竺熱風録」とあったら、ああ、ちい昔ノヴェルスででたあの熱い話ね、と即お買い上げ。作画は伊藤勢ってう~ん知らないかも。

   唐の時代に、あの三蔵法師のほぼ同時代、天竺と唐を3往復した官吏が居たらしい、しかも、2度目の訪問の時には当のインド側、マガダ国では世界史の教科書にも載ってるハルシャ・ヴァルダナ王が卒し、アルジュナとか言う簒奪者が宮廷を支配していた!? 修好の礼物は取上げられ公の使節は牢屋に叩き込まれ、その正使だった彼、王玄策は辛うじて脱出、ネパール・チベットの兵を引き込み大暴れ……だったかな。田中芳樹もよくまあこういう人掘り出してくるもんだ。ノヴェルス版の挿絵はあの富士鷹じゃない藤田和日郎で、アツい冒険に胸躍ったものよ。ただ、ロマンス分は例によって乏しかった覚えが……。

   期待してページをめくれば、陰影に富んだ画風。居並ぶは威儀を整えた馬上の将。対するは威容を誇る戦象部隊。オープニングのナレーションに熱い国の風俗が巧みに描かれ、まずは適度な露出の冴えた美貌のヒロインが問いかける。
   「王正使殿
   勝算はありましょうか?」
   「きかんでくれや~」答えるは主人公。頼りなさげだけど、精神がタフで神のごとき計略をもって仲間を何度も窮地から救い出す魔法のオタマジャクシ。正しき田中作品のヒーローじゃないですか。「一介の外交官だっての」とかいろいろ事情を打ち明けてくれながらも、ついには、

   「なんとかするしかあるめぇよ」と、冷や汗かいて虚ろな目で、3枚目の線ながら堂々の登場でした。

   大丈夫?

   いやいや。その後のシーンはその第2回訪問時のヒマラヤ越えでの難所に巻戻り、崖崩れに遭って、随行の学僧智岸(理知的な美少年)と濁流に呑まれながらも無事に生還するエピソード。危機に即応する瞬発力、守るべきものを正しく守ろうとする心意気、それでいて役目だからとかいってツンデレしたり恩に着せたりしない、からっと太陽のような笑顔

   「誰1人欠けちゃなんねえぞ!!
   おうちに帰るまでが修好使節です!!」

   そのあとたぶん高山病で一同ひっくり返ってうごけなくなって一行の理性(たぶん族弟の王玄廓)に「世界の屋根ではしゃがないこと」と雷を落とされるまでがナイスな掴み。もう原作忘れちゃったけどこんなイントロだったかしらあ~伊藤氏の創作でもどっちでもいい、最高よ。

   「あ ん た が 大 将 !

                                    いいえ、正使です。

   せっかくたどり着いたマガダ国の都カナウジで、問答無用で護衛の士4人を殺され、いきり立つ副使の蒋師仁(かなり使えるようす)を、憤怒に震えながら、

   「徒死(いぬじに)は許さん」と抑えるところが圧巻。

   彼らを捕えに来た武将(まだ名前は明らかになっていない?)にも、引きだされた簒奪者アルジュナにも堂々言葉で渡り合うところがさすがの外交官。
   獄に繋がれながらも、
   「便所事情が
   悲惨だよ」とすぐさま事態を正しく把握して一行に告知。
   予想もしなかった事態に当たって、少ない情報から状況を正しく推理し、皆がバラバラにならないよう心を配ってできることをすぐに考え実行に移す。真実と、自分の立場上言うべき事を正しく分別してその場の頼れるリーダーを演ずることができる。

   立派なリーダーの姿ではないですか。

   獄中、なんとも頼れる(?)導師を味方に得てなんとか副使とともに脱出に成功、さて、王正使の冒険は始まったばかり……。なにせあのヒロインちゃんとすてきなそのご主人(ネタバレしようにももう記憶にない)に出会わないと!

   お楽しみはこれからだ!! 

   いやほんと、絵がいいのよ、インド~な陰影で、描き込みが濃くて。美人は色っぽい武人は凛々しいし、導師は胡散臭いし。最高。ジャストフィット!

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2017年5月 6日 (土)

骨までしゃぶり尽くすハーレクィン久々 「熱いヴァレンタイン」

   ハーレクィンといえばセレブで美マッチョなわからず屋俺様ヒーローと判で押したようで、最近おかあさん飽きて来ちゃったんだけどさ。

   「熱いヴァレンタイン」さちみりほ 作はヴィッキー・L・トンプソンでは違ってたんだよォォ! 会社のカフェテリアで知り合いの青年を叱咤する世話焼ヒロインのクリスタはゆるふわのかわいこちゃんだけど、そのカレはほんと眼鏡にぼさぼさ長髪のさえないおたくくんで。すぐ次のページでヒロインをデイトに誘おうとする部長の方がエリートイケメンのハーレクィン・ヒーローだと思ったら、どうも今回はこっちは当て馬だったらしく……。

   おたくくんの夜更かしの理由はゲームじゃなくって、鬱勃たるパトスを結晶させるロマンス小説執筆だったんだよ! それが、甘い乙女向け小説を男名前で投稿したらいくらなんでも門前払いと思って「キャンディ・ヴァレンタイン」なんてあまーい名前で応募した新人賞獲っちゃって大変! ここでむっさいおたくくんが名乗り出たら入賞取り消しになっちゃう! たすけてクリスタえもん! ヒロインの設定そのままのゆるふわ乙女に見えるクリスタが作者の代役で授賞式に出席、それに飛びついた出版社がアイドル作家として売り出しを掛けることに! 授賞式出席のドキドキ! ニューヨーク・ツアーで2人の仲は急進展……!?

   シンデレラでなりすましで磨けば光る系クロスオーヴァーのあま~いお話のできあがり! いやーおかあさん試し読みのうん十ページでもうテンション上がってカード切って即決ご購入! おたくくんが眼鏡取ったら細マッチョ(肉体労働してたから)美形って、どんぶり三杯いけます! ひったくりを捕まえたせいで眼鏡壊して髪の毛切られて服ドロドロから大変身へと話の持って生き方がもう芸術品! いよッ 大統領! もうね、ハーレクィンで希少種であるヘタレヒーローを描かせたらさちみりほ以外ありえない! 最高!

   いいものを見せてもらいました。ごちそうさま。

   いやね、ハーレクィンには日本人ヒーローが皆無であることを長年残念に思っていたのです。イタリアとかスペイン、ギリシャは情熱的っぽいというイメージに舞台の風光明媚なところも相まって、結構ジャンル化しており、中東の石油王とかも、ゴージャスさが魅力、西洋の論理が通じないところを障害にするためによく登場してるのです。
   しかしながら前述のハーレクィン・ヒーローの条件に合致する日本人青年って現実ではいないわーと思ってあきらめの境地に達していました。
   でも、ヘタレでもおたくでも料理のしかたではアリかなーっとちょっと希望を持ち直しました。
   いやーしかし眼鏡はコンタクトでなんとかしても、ヒーローはマッチョであるべしという条件はアメリカでは外せないみたいね。

 

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