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2020年8月31日 (月)

十角館の殺人 ― コミカライズに感謝 ―

   ミステリにもいろいろあって、「映像化不能作品」というのがあります。

   物語の中で、犯人や社会状況がミステリ、「なんでこうなるの!」っていう事件を作り上げてしまうのではなく、お話の語り手がいろいろ工夫をしていて、あり得ない状況を作り上げていたというお話。たとえば主にに動いて謎を解き明かして行く立場だったひとが実の犯人だったり、男性だと思われていた人物が女性で犯人だったり。

   これって、小説だからできるんであって、映画や漫画では読者には絵として情報が提供されるから騙されないでしょう! って。

   「十角館の殺人」綾辻行人作画清原紘は、ごめん、そういう作品です。

   大学の推理サークル、どんだけ痛い人々かって、有名なミステリ作家の名前をサークル内のあだ名として名乗って、それで普段も呼びかけているようなガクセイ! その作家のファンで自ら名乗っているのか、作家のキャラクターや作風に本人が通じるところがあるのか、作中描かれたかな、覚えてない。

   そういう痛い学生たちが、近年4重殺人事件があったといういわくつきの孤島のコテージに出かけていこうという企画。その留守に、その痛いメンバーとはとある事情で袂を分かった状態(?)の学生たちに怪文書が届いて、離脱組もなんだか事情を調べに動き出してしまう……。いったいやつらは何をやらかしたのか。島に出かけた連中も、「第一の被害者」「第二の被害者」なんてプレートを見せつけられて、自分たちが余裕こいて創作物のミステリをああだこうだ論じる立場から、被害者や被疑者にされるご身分になったことを暗示される。……大丈夫?

   そして惨劇の幕は開いた!

   痛い学生たちは醜い内輪もめの末……!?

   これ、原作読んでるときは、明らかに名探偵ぽい名前の離脱組がいろいろ本土で過去の事件のしがらみを調べてる間にどんどん離島組が殺されて行って、ハラハラドキドキしましたけど!

   ただ、わたしはそのころはあんまりミステリ読んでなかったからシマダキヨシって名前がピンときませんでしたけど。ミタライキヨシって名探偵がいるんですって。島田荘司って作家さんのシリーズで。そういうギリギリ、マニアにアピールする仕掛けがしてあったみたいで。

   もうひとつの仕掛けは解った。江南とかいてかわみなみくんと守須くんが離脱組で、潔探偵が「コナン君」って呼びかけると「その名では呼ばないでください」むっちゃ嫌がるけど、かわみなみくん自体は守須くんには「ドイル」って呼ばれてる。ああ、じゃあ、守須くんは名探偵コナンみたいにルパンの作者でペアなのねって、と、思うじゃん!

   かわみなみくんはそういう痛いノリがいやで離脱したのかというと……。

   ちょっと前、サークルではメンバー女子が死んじゃうという痛々しい事故があったのでした。

   じゃあ、怪文書どおり、逆恨みの責任追及で亡くなった千織ちゃんの父親が地獄から舞い戻って連続殺人をやってるの???

   とりあえず島のどろどろが片付いたあとで、潔探偵は聞きます。その答えが、さらっとすべての答えになっている。今までの前提が全部ひっくり返って、あ、そっかーとなる。

   だから、「一文ですべてがひっくり返る」ミステリの金字塔とされているんですが。

   いや、無理でしょ。

   絵にしたら一目瞭然じゃん。

   ところが、やってくれました。コミカライズに当たって、いきなりかわみなみくんがきゃわいいおんにゃのこになっていて、未読組を混乱させています。いや、読んだのうん年前組も。そして現れる犯人も。

   美しい。

   存在感ある。

   こいつ、いや、このお方ならあれだけの大犯罪やっても許せる。いや許せないけど。

   そして、ここをこうやればあのネックはかわせるなーとか思えるスタイルで。ま、メタなことをいえば絵師さんの書き分けがあれで似たような美形が被っちゃったぐらいでスルーできそう。

   未読の方はここまで語っといて申し訳ないけど、今からでも読んでください。大丈夫。そして、伝説の一文であなたも叫んでください。

   たぶん、そこであれをああして見得を切るんだろうなーと今からそのシーンを思い描いて待っています。

   あまりの大トリックに、当時、登場人物が類型的で血が通っていない云々重箱の隅ポイントとして突かれたあのミステリ研のメンバーをそれぞれ個性豊かに立ち上げた絵師さんの力量を尊敬。スピンオフで、このミステリ研の日常を見てみたいとまでネットで言われてました。それくらい、ちゃんと血が通ってみえました! 誰と誰とが幼馴染で目を配ってるとか、ライヴァル心を抱いているとか、細かくて好ましかったですけどね。

   あと、ネットとかPCとかは現代に時代を移して配慮してしてましたが、原作はなにせ昭和から平成入ったころですので、男子学生さんは多くが煙草をふかしていたのが印象的。原作ではそれぞれの煙草の銘柄まで決めてあったそうで、読者の細かい人はそこをチェックしていたそうです。この辺はどう描かれるのかな。潔探偵が一日いっぽんを首から提げていたのはわたしも覚えてたけど。

   こういうカンジで、最近はなろうのコミカライズばかり見ていましたけど、ミステリのコミカライズも色々大変なんですから、うまくコミックに写し取れていっそうの作品の周知に貢献した絵師さんを評価するシステムがあればいいと思いました。頑張って!

 

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2020年8月16日 (日)

テルマエ ナーロッパエ

   なろう小説によく出てくるような古き良き中世ヨーロッパっぽい世界のことをナーロッパというんだそうで。蒸気機関はこれなく、活版印刷や火薬や羅針盤という三大発明がまだされていなくて近代科学が定着していない世界。義務教育終わったくらいの現代日本人が手を貸してやってすぐ生活が向上する程度という位置づけです。

   その、ナーロッパ世界において、もと日本人たる主人公がえーっこれないなんて信じられない生きていけない、頑張って再現しちゃうぞ、でなんとか作れて、現地の人々にもうっわすごいなんていいものだ、こんないいものを作ってくれた主人公大好き、えらいヒト、何でも言うこと聞いちゃう……ってなるのかお風呂。ヤマザキマリは偉かった。

   あと、お風呂となると皆さん生まれたままの格好になられるので、コミカライズとしてはサーヴィス・シーンになるという利点もあるのでしょう、各作品、お風呂シーンはマストみたいです。

   今回それを証明していこうかってたとえば、おかあさん大好きな佳作「異世界のんびり農家」では、2年目以降、初期メンバーがそろってきて、水路を村まで引けて水の供給が安定してから。ハイエルフの一団が加入して人手的にも土木知識的にも向上してからです。それまでは……井戸はあったから水で体は拭いていた模様。ま、一冬過ぎたら魔法を使える奥さんができたので、たぶんそっちで清潔にはしていたでしょう……最初の年がどんだけ悲惨だったかわかるわ。塩も採れなかったらしいし。「健康な肉体」という初期プレゼントがあればこそですね。

   村長、ヒラクさんはその後、熱いお湯が沸いている山があると噂を聞いて温泉探検隊まで組織して温泉を探しに行ったりします。

   そこで村のメンバーがかかわったダンジョンの大崩落から、とんでもない秘密にかかわってこの世界を大きく変えてしまうのですが……
   「なんだかいやな気がしたので耕しておいた」で大きな災いを事前に封じてしまうんだからスゴイ。そして、それを村長本人以外、ドラゴンや吸血鬼の始祖さんや魔王などの大物連中も関知していないっぽいのがすごい。いや、始祖さんと竜王とかはうっすら気が付いていてそれで村長はもうほぼ神でしょう、というスタンスで接しているのかもしれず。その辺の奥ゆかしさもこの作品の魅力です。
   多大な犠牲(?)を払って作った温泉場は皆の心をぎゅっと捉えて、始祖さんは入りびたるし竜王はドラゴンのまま寝っ転がって入るようになるし牛は温泉につかりたくて脱走するし、大樹の村には入浴の習慣は楽しいものとしてしっかり根付いたようです。

   その他となると。

   「理想のヒモ生活」では、善次郎さんが招かれたカープァ王国は熱帯ぽい異世界だけど、なんといっても女王の婿殿として迎えられたのでお風呂は最初から大きなのがあります。魔法も普通にある世界なので、お湯も使い放題のようです。二人して入ったりしてこれはお色気シーン要素。
   ただ、化学製品たるシャンプーはないようなので、魔法の絨毯で持ち込んでみた善次郎さんもロングで量もたっぷりな女王様、アウラさんが使っていくうちに思ったより早くなくなりそうで焦ってました。ま、もともとある素材のもので洗ってもらってください。水質が汚染されないかちょっと心配。

   「宝くじで40憶当たったので異世界で移住する」カズラさんも、移住先のグリセア村は生きるか死ぬかの寒村で、とても各戸にお風呂なんかついてなさそう。ただ、肥料を導入して皆で農作業して泥まみれになったから、と戸外の流し場で謎のトンネルで日本から持ち込んだ石鹸を使って汚れを落とすシーンがあります。これは、カズラさんが便利なものをくれる、という主人公上げと、ヒロインが素直で可愛いヒロイン上げと両建てでおいしい。
   話が進んでカズラさんがご領主さまにスカウトされると、ご領主さまは一応下の方とは言え支配者階級なのでお屋敷にお風呂があり、お嬢様のリーゼが剣のお稽古の後汗を流したり、カズラ様をしっかり捕まえておくためにメイドさんたちが夜伽をする準備でお風呂入るシーンとかがあってドキドキします。メイドさんたちは覚悟を決めたり決められなかったりしますが、カズラさんはなろう男児なので(ナニソレ!?)まったく意味に気が付いてなくてあっさりかわしてますが。下手するとご領主さまの奥さんさえ(仮面夫婦なので)カズラ様ハーレムに名乗りを上げそうです。

   じゃあ、同様に貧しい家庭からはじまった「本好きの下剋上」はどうかというと……お風呂シーン、1部はなかったんじゃ? お風呂がないって初期のウザマインのころはパニックになってたんじゃなかったかしら。せめて体を拭いてとお姉ちゃんのトゥーリに訴えていたような。髪を洗いたいという心の叫びとなんでも手作りを体験させられていた記憶がうまく絡み合ってリンシャンの発明に繋がり、下剋上がはじまったという名構成。やっぱり清潔にしていたいと心掛ける、自分の身の回りのことは自分でする、現代文明を享受しつつもこれはどういう仕組みでできているかを頭に入れておく、というのがなろう世界で成功する秘訣? 

   2部で神殿に入ってからはそれなりにきれいにしてたと思うけど、神殿ではお風呂あるでしょうさすがに。3部でお姫様になったら、ばあやさんに野菜のようにわしわし洗われてましたね。それもまた成人女性の意識があったらつらいかも。

   そういう、身分によってお風呂事情が違うというのが出ていて「本好きの下剋上」は世界観がしっかりしていたという結論。

   ナーロッパではありませんが、戦国世界にタイムスリップする「戦国小町苦労譚」も、最初はお風呂に入りたーいとヒロイン静子は泣いてたと思います。なにせ「農学で仕えます!」と織田信長に大見得切っちゃったから、とり潰し寸前の農村に入って体を張って農業指導してたので。そりゃお風呂入りたいよ。

   こちらも、温泉を見つけて大喜び、そのころには一応指導者として信任を得ていたので村人総出で湯殿を建てて「わーい!」ってところで信長に見つかって、「入らせろ!」ってなりました。一応、タイムスリップしてきた年の夏ごろの様子。静子ちゃんおつかれでした。それから信長様お風呂にはまって、静子ちゃんの温泉に入りに来たり、京都の屋敷にも湯殿を作れと言ったりとワガママほうだい。静子ちゃんの出世のきっかけにもしっかりなっています。

   まあ、転生して主人公じしんが温泉になっちゃうっていう作品もありますので。

   お風呂は日本人には切っても切れない生活の一部なんですねえ。

   さて、その他、なろうの出世ポイントとしてはおいしいご飯を作って皆をもてなしてしまうってのもあります。

   ヒラクさんといい、カズラさんといい、マインといい、静子といい、やはり食は生の源ですから。

   じゃあ、お風呂が住? 日本食が食なら日本の衣生活はナーロッパではなにも貢献しないのか?

   今の家庭科教育で衣についてはあんまり重点を置いてないかもですけど。

   日本らしい衣料って、浴衣作ってもなあ。そもそも今は浴衣とか作らないでしょ。

   「異世界のんびり農家」では、初期メンバーの蜘蛛さん:ザブトンが冬が来る前に加入して、お召し物一切作ってくれてます。お布団、カーテン等ファブリックから、毛皮付きのコート、貴族っぽいジャケット、下着からドレス・水着まで。蜘蛛の糸は高級素材なので、途中から綿花を渡せば木綿素材のお手頃な衣料品も作ってくれるようになったんじゃ? その辺がご都合というかファンタジーのいいところ。

   現代人が布織るところから始めたらきついし。一枚布からお洋服作るのもハードル高いし。それこそローマ風一枚布巻き巻きになるわ。

   あ! 「理想のヒモ生活」の善次郎さんは日本の衣料を持ち込んで騒ぎになってた♪ アウラさんも苦笑してた。 

   「本好きの下剋上」では髪飾りをつくるところから、翌々年? 自分の七五三(ちゃうわ!)、神殿参りでお姉ちゃんのお下がりをうまくリフォームするのはアイディアだけ出してお母さんに実際はやってもらってましたよね? その辺が限界、そのあたりのリアル加減もよかった。現代日本女性、本の虫でハンドクラフトはそんなにやってない子が記憶だけで実際7歳児で周囲の目を惹く作品つくれたらおかしい。

   朝ドラ、「カーネーション」で仕立ての女性の視点から戦前戦中の時代を描いてたのは独特で面白かったけど、そういうカンジで、ナーロッパも服飾で下剋上する話があっても面白いかも。

   ナーロッパというか、転生ではないけど「指輪が決めた婚約者」は、そこのところが興味深かったかな。ヒロインが刺繍大好きで、ドレスの刺繍、小物の刺繍で大貴族や魔法使いたちと渡り合ってイケメン・ヒーローのパートナーにふさわしいレディであることを自ら証明するストーリーが良かった。

   とまあ、まだまだ独自性の出しようもある世界みたいです。面白い話、どうぞ読ませてください! ご紹介ください!

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2020年8月 8日 (土)

転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す ― 愉快痛快大誤解 ―

   おかあさんもはやめに連休突入ですって、じつは夏風邪で頭とのど痛かったので3日寝て暮らしました。いやほんとただ純粋に寝てた。

   いやいや、それで、なかなかケッサクに出会ったのでご紹介。

   「転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す」十夜。原作はなろう。コミカライズはアース・スターでやってます。「魔王の秘書」とか、「戦国小町苦労譚」の。今回も戦国小町の更新見に行って拾ったの。

   転生聖女ものですが、現代日本は関係なし。その異世界で、騎士になりたいと絶望的な努力を積むヒロイン、フィーアちゃんが、死の間際に自分が300年前の国を救った大聖女だったことを思い出して、なかったはずの聖女パワーで成り上がる話

   オリジナルな味付けは、その300年前の大聖女は、魔王封印のクライマックスで自分が支援して苦楽を共にしてきた兄王子たちに裏切られて、敵地に捨てられ、魔王の残党に恨みをぶつけられて惨死したってとこ。死に当たっては、「聖女として転生したらまた殺しに行く」と呪いをかけられたことを現在まざまざと思い出してしまったということ。15の、成人の試練の最中のいたいけな乙女がですよ!

   しかも、そのせいでせっかく思い出して使えるようになった聖女パワーを親兄弟同僚上司にも隠し通さなくてはならないハンデ!

   あと、物語前半は。前世を思い出すきっかけ、死に瀕した魔獣を助けたら、それが伝説の魔物、黒竜で、そんなものと契約してしまったらVIP扱いになり、魔力の源を探られて前世がばれるから黒竜ザビリアのことも隠し通さなくてはならないというダブルハンデがついてました!

   騎士能力もほっとんどないせいで騎士の脳筋ファミリーにはネグレクトされていたのになにこの天然ポジティヴ、洗練された宮廷人としての高度なイヤミや皮肉(騎士と疑わしいぐらいみんな言語表現力とネゴシエイション力がある)も非常識なほどの鈍感さでスルーして楽しく騎士団生活送れてしまうのは尊敬します! この誤解と鈍感のすれ違いっぷりがたまらない!

   そして、少女漫画の古典パターン、ヒロインが信じられないほどの清らかなポジティヴさで人の心をつかんで受け入れられていくというのを騎士団ものとしてやってくれるのでした。当然、色とりどりの美形逆ハーレムが形成されますが、その持ち上げられ方は胸がかゆいラヴロマンではなく悶絶爆笑ものです。王族の血を引くエレガント団長もワイルド美形団長もウソでしょッとキリキリさせられていつもと違う面を見せてくれるおかしさ。かえって、キラ効果付き王子様の同僚騎士が最初から変わらずほんわりと癒しになっているのが貴重なくらい。

   そのうち、兄王子たちに裏切られたあと、300年の年を経て聖女というものがイヤな感じに変わってしまった社会背景の謎も解いてくれるのでしょうか。フィーちゃんが「くそったれ」と評して団長さんたちを瞬間冷凍してしまうような。

   秘密がばれたら殺されちゃう! はずなのにあんた秘密を守り切る気ないやろ、というふうに突発時には聖女パワーをいかんなく解放してしまい、どんどん聖女ばれしていくフィーちゃん、20人いる騎士団長さんたちがどんどん秘密を知っていって真っ青になりながらフィーちゃん対策に頭を悩ませるのが、「本好きの下剋上」の4部あたりに似ているかもしれません。

   いやー先行き楽しみな元聖女様です。

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