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2020年5月24日 (日)

「異世界に救世主として喚ばれましたが、アラサーには無理なので、ひっそりブックカフェ始めました」 ー 異世界にはアラサーから ―

   タイトル長げぇよ。読点まで入ってる。

   最近のおかあさんはもう家事はほとんど投げて、おうちに帰ったらもうなろう小説を読むこととブラウザゲームをすることしかしてません。いやマジ。勤労と納税はしとるからええやろ。子供を学校に通わすことは最後はおじいちゃん(と奨学金)に投げたけど。

   そのなろう小説ですが。異世界に行って英雄になるってのも、若さに任せてチャンバラやればいい時代は終わり、今は、アラサーである程度経験を積んだ人が、その知識と経験をもとに頑張っています。

   「宝くじで40憶当たったんだけど異世界に移住する」カズラさんは、異世界と往復できるトンネルもさることながら、やはり40憶をパワフルに使いこなす大人の経験と知恵あってのことでしょう。荷物運ぶ道具が欲しい→道端にリヤカー放置→札ビラ切って借りていくとか、水車欲しい→業者探す→断られそうになると前金即金で押し切るってところは中学生には無理でしょ。

   「理想のヒモ生活」の善治郎さんも、ブラック企業でいろいろ経験した結果の交渉力や判断力がかれをただの「女王のヒモ」以上の油断ならない優秀な王配たらしめています。最初に召喚されて白羽の矢が立った事情を聴いて、自分に求められることを的確に推理して交渉するあたりがすごい。この作品の第一の見どころは婿入りまでにあります。魔法の絨毯で持ち込んだ現代日本の文明のチート(ずる)もあるけどね。

   「異世界のんびり農家」のヒラクさんも、一農夫としてのんびりしたいとかいいながら、いざという時の調整力や胆力(そして武力)でガルガルド魔王国の一部地域ではなくてはならない存在になってますしね。ヒラクさんが在職中どんなご苦労なさったかはあんまり描かれてないけど(長い療養生活のせいもあろうが)、その分仏のような寛大さ、動じなさがつちかわれちゃってる。ヒラクさんの魅力は「そうなのか?」でスルーして、「じゃあこうしよう」っておっとり受け入れて対応しちゃうところね。竜が来ようが呪いの岩が発掘されようが。

   やっぱり、読者は疲れた勤め人? なので、うまくいかない日常といえどもその積み重ねは無駄なことではない、自分の中に何かは残っていて、いざとなったらそれで社会に貢献して認められるのだと思いたいんですね、わたしもです。

   さて、表題作「異世界に救世主として喚ばれましたが、アラサーには無理なので、ひっそりブックカフェ始めました」の水森月奈さんもある意味豪傑。

 「え? 異世界転移?
  嫌です」

  お、おう。それなりに生きていけてるアラサー社会人なら環境の激変は望まないわな。こちらの世界から転移した救世主だけが使える大魔法があるので、それで世界を救ってもらいたいって、現れた神様(と名乗る球体)は必死に口説きます。もう静かに暮らしてもらうだけでいいからって、なにの投げ売り? 異世界からの人間の魔法でないとと安定できない世界って世界として破綻しとるやん。おまえその世界の神として恥ずかしくないんかとわたし思いますけど。
 
  そのへん、やはり血気盛んな中高生ではないので月奈さんきれーに論破して拒否りますが、

  「代わりに君の願いはなんでも叶えよう」って、神様も必死。

  したたかな月奈さん、そこはよく考えつつ、自分に向いてる転移先をいろいろリクエスト、願い事もよくよく吟味して、その他追加の願い事をカタログで通販するノリで手に入れられるペンダント(神様が細かい要求に根負けしてプレゼントしてくれた)までゲットして、準備万端の転移です。もう、このイントロだけで思いっきり読みでがありました

   そして、月奈さんが趣味と実益で選んだのがブックカフェの店主でした。

   えーとあのー食べ物飲み食いしながら本を読むって、「本好きの下剋上」の麗乃さんに怒られそうなんですが。いまこういう形態のお店ってあるんですか、10年? ほど前、書店に喫茶店が併設されて、お会計前の本も持ち込んで読める? とかいうの見聞きしたかもですが、図書館に入る前には手を洗う、物を飲み食いしながら借りた本を読まないとか叩き込まれた世代なんで(自分の本は当然左手に持って読みながら飲み食いしますけど)、なんか微妙。お行儀悪いんじゃないの? わたしはこういう形態のお店利用したことないです。学生用カフェレストランで置いてあるジャンプよみながらスパゲティ掻きこんだことはあるけど。

   地球だって近世に至るまで本は貴重なんで、ものを飲み食いしながら閲覧ってのはあり得ないと思うんですが。うーん、それで物語世界の登場人物はありがたがっているからいいか。とりあえず月奈さんのお店の本は汚れないよう魔法がガードしているそうです。

   まあ、お客はほとんど、相手役のイケメン騎士イルしか来ないし。

   もう一人、この世界には先に転移した救世主ちゃんがいて、全然自覚がなくちやほやされることだけを享受するダメ異世界人だったので、お城のみんなはストレスが限界、イルもそれで癒しを求めてこの店にたどり着いたという事情がありまして。

   本好きの二人は運命の出会いに心を寄り添わせていくのでした。

   このへん、疲れたイルに対し最初のお客さんだからときめ細やかなサーヴィスをするのがぴたりぴたりをはまってゆくあたりがだいご味。やっぱ社会に出てそれなりに揉まれているからこそのサーヴィスです。……まあ、居心地の良い場所を提供して、おいしい食事を出して、ほんの少し、癒しの魔法もかけて、とままごとっぽいですけどね。

   神様としては、月奈には普通にこの世界に存在してくれるだけでいいらしいので、ブックカフェが採算取れてるかどうかは問題ないんだろうな。お会計とか、仕入れとか、細かいところはスルーでした。いいのかこんなんで。

   そして、彼女の対照として、自覚も覚悟もないもうひとりの救世主のダメダメっぷりも描かれてゆき、世界はとうとう破滅を迎えます……。

   月奈は平凡な異世界ライフを守り切れるのか!?

   もう一人のダメ救世主や、彼女を受け入れ甘やかしてしまう王子など、固有名詞さえない割り切りっぷりのシンプル電車道な物語。あっさり終わりますけど、それだけに終わったときにはガッツポーズが出ました。これでいいよ。足りないぐらいでいい。お幸せに! 

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