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2020年4月19日 (日)

千歳ヲチコチ ― 時空を超える共感 ―

   明日っから仕事と思ったら筆がのるのる。

   LINEコミックでおすすめされてたから一巻無料読んだらはまるはまる。シーモアで買いなおそうと思って検索かけたらまさかのシーモアでのサーヴィスなしで、そろそろ電子コミックのサーヴィス一本に絞るために解約しようと思ってたRenta! の方調べたらあったので久々にチャージしてお買い上げ。やっぱりサーヴィスの使い分けって必要? なんでも複数チャンネルを確保しておくことが大切なのかな。

   「千歳ヲチコチ」D・キッサン。平安ものです。
    時は平安、パパが太宰府に単身赴任中なので気楽な女所帯暮らしのお姫様、チコちゃんは平安ものの例にもれずユニークな方。昆虫に思いを寄せたり生き物は積極的に触りに行ったり雷の日はかえってテンション上がったりと、やんごとなきお姫様としては規格外で、いつもおつき女房の長山さんに怒られるけど、学者のお家柄にしてはおおらかな乳母の仙河さんにフォローされて、親友のなり姫ちゃんとも仲良く楽しい日々を送っています。パパは物語がかなり進むまで出て来ないのでどのクラスかわかりにくいですが、「ざ・ちぇんじ」みたいに自分が入内とかは無理メの家柄みたいよ。宮中でそれなりのお方のところにお勤めできれば幸いっていうリアル紫式部クラス?

   事件は例によって昆虫についてアツく語った(とはいえみやびな言葉遣いで、現代人感覚ではおひめさまらしい優しい語りっぷりと読めますが)が突風で飛ばされ行方不明になったこと。これは文の内容を問わず文使いの失態です。個人情報の流出だ。それを拾った公達が読んで、へえ、と興味を持ってなんと返信を認(したため)めてくれたのです!

   拾い主の享(とおる)くんが弁(わきま)えのある公達だったので、強引に恋愛関係へ持っていこうという野心のにじんだ感じにならず、相手に警戒心や羞恥心を起こさせないように貴婦人からの手紙を装った文体や渡し方になったので、物語はそんなに色っぽくもスリリングにもならずに進んでいくのでした。

   「秋の風にとらわれたあなたの手紙が 
    まるで天女の衣のようにわたしの心をとらえました
    はしたない心をお許しください
    私は香りすら残しません」

    問題児なお姫様がはじめて人様と文を交わした、ということでおつきの女房連中もふわーっとなってしまう幕開けでした。親友なりちゃんは乳母同士が姉妹と後でわかる。人間関係狭いね。 

    これうまいですよ。みそひともじになってないからこそ、かえってスルーされないで読者の心に染み入る。そして、平易で穏やかな詠みっぷりから亨くんの真面目で優秀なところがにじみ出る。控えめだしね。
    こんなカンジで、この作品は平安ものとして折々に和歌(らしきもの)が物語に密接に絡んできますが、解りやすくて世界観をちゃんと作ってる。  

    そして始まるすれ違いらぶ♪

    宮中に出仕してないチコちゃんとおうちの方針で同じく大学寮の学生やりながら内舎人やってる亨くんとでは出会う機会もないんですが、そこは、婚活のため出仕することにしたなりちゃんの引きでチコちゃんも宮中に出入りするようになり、例によって平安京の姫君ではあり得ない大活躍をしながらどんどん距離を縮めていくのでした。

    いや、ほんっとハラハラドキドキ、序盤全然かすりもしないんだもん。ハッピーエンド無理か!? とか思っちゃった。いやこれでハッピーエンドならなかったら結末つけようがないけど。
 
    けっこー調べ切った感の平安絵巻が勉強になるなる。五節の舞姫のオーディション事情とか、宮中の年末年始のイヴェントとか、息子を披露するホームパーティとか、平安ものでは裏事情まではあんまり詳しく描写されてなかったと思うけど、すっごく詳しくてそれでいて波乱万丈で面白かった! すっごいまともな平安時代日常ストーリーなのに登場人物が個性的なもんでムッチャ楽しい。チコちゃんだけでなく、留守宅を取り仕切る有能な女房の長山さんが美少年愛好家でなりちゃんの文使いOROSHI(美少年三人組ユニットw)にめろめろだったり、亨くんのエネルギッシュなパパ上とか、亨くんのママ上とそれを支えるパパの愛人さんたちとか(号令ひとつで集合してパパからのプレゼントを見せ合ったりする。怖いw)。割り切った現代語を駆使して楽しくわかりやすく描いてくれてるので、これが1000年前の話という距離感は全然感じませんでした。

   たとえばね。亨くんの仕事仲間のサリーって、実在の藤原佐理(ふじわらのすけまさ)だったらどうしよう。史実どおり能書家ってことになってますが。となると時代は三蹟のほう、コウゼイ、サリ、トーフーなら藤原黄金期になりますね。わりとアバウトなひとだったようですが、作中では結構女性関係が派手。お気に入りの筆がウサギの毛なので「ピーター」、これを怨霊退治で壊しちゃったので代わりに陰陽師の大江さんからもらった筆が狸の毛だから「ラスカル」って名付けちゃったりするノリ。これを面白がれるならおススメですね。楽しかった♪

   氷室冴子の「ざ・ちぇんじ」と「なんて素敵にジャパネスク」に始まったジャンル。これコミカライズの山内直美さんの力量もありましたけど、あと、「きらきら馨る」高橋冴未、これもLINEコミックで読んだ、浸った。そういう、平安時代ものの少女漫画もジャンルとしてちゃんと存続しているってのは、大したもんだと思いました。日本の乙女の趣味の多くはとおくこの時代に源流を発しているので。心を一つにできますよ。全然大丈夫。

   追い風は千年前から柑橘系
    振り返りたい自分に笑う    舞音

 

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