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2020年4月18日 (土)

払暁 ー いろいろもったいない ー

   パティさんから、缶詰生活のお供になにかおススメをと入信がありまして。

   「払暁 男装魔術師と金の騎士」 作:戌島百花 絵:明野たわ。シーモアにリンク張ってみましたけどうまくできてます?

   タイトル落ちで実に趣ある表題にイマドキのサブタイトルついてて残念なんですが、ぶっちゃけこの「男装の魔術師」ってところに引っかかって読んだのでわたしが言える筋合いじゃないです。ほんとベルばら趣味でスイマセン。そして原作小説にもこのサブタイトルついてたのでほんとビッグなお世話ニア。おかあさん少し落ち着こう。

   召喚されたもと女子高生というプロフィールの魔術師ハルカくんはちょっと見美少年。隣国からの侵攻を受けて国民総動員状態の召喚先の国で、赤紙が来たお師匠さん(既に死去)の代わりに男装して従軍しました。間違い召喚で力も必然もなく異郷に放り出されて途方に暮れていた自分に優しくしてくれた村の人たちに報いたい、自分でできることを返したいというけなげな心で立ち向かうには激戦地のヘダリオンは過酷すぎ。魔法で敵を吹っ飛ばし、魔法で味方を癒す獅子奮迅の大活躍。心身ともに限界のハルカくんがであったのは美形の重傷の将校さん? 渾身の救命治療を拒む姿にハルカくんブチ切れて要らん賭けをしてしまう。

   「お前が捨てようとしているその命
    私が拾ってやる

    私のために
    生きて
    私のために
    死ね」 

   なにより心が死にかけだったその将校さん、聞くと伯爵家のお坊ちゃんのリカルドは従属の禁呪まで使って約束を果たし、ハルカくんに懐きまくってしまうのでした。

   しばらくはあの宝石商のリチャードさん並みの金髪美形に傅かれ、元傭兵のアルフレドにボディガードをしてもらって甘々優雅な静養生活を送りますが、激戦地を守り抜いた英雄魔術師の名は高まるばかり、英雄に憧れるショタは飛び込んでくるは、敵国から刺客は忍び込むは、ハルカくんもお屋敷に引っ込んでいられなくなります……。

   社交界にとうとう顔出しするためのパートナーとしてリカルドが調達してくれた才色兼備のご令嬢セラフィちゃんがいいっ! 華やかで勝気なだけでなく、伯爵家のご令嬢として嗜みが優れていて、ハルカちゃんが政治的に利用されないよう巧みに防波堤になったり、女性の友人として精神的な支えになったりと大活躍。

   公式の場に出るときのフォロー要員として以外にも、ハルカちゃんとの文通できゃっきゃしていたように書いてありますが(原作にも記述アリ)、ここんとこもう少し実例エピソード欲しかったわあ。セラフィとはもう仲良し♪ な描写が足りないから横恋慕王女がリカルドを奪おうとしたときの名アシストが唐突に思われて。ついでに主様にガールフレンドができたと思ってジェラシっとるリカルドくんの微妙な表情ももう少しわかりやすくしてほしかったです。対外的にも仲良しが知れ渡ってるからこそ、セラフィちゃんとしては(横恋慕姫に負けちゃダメ!)という渾身のフォロー、めくった右肩大ゴマの

   「今日は特別
    別れがたく
    思いますの……」が効くんじゃないかぁ! もう可憐な中にもちょっとエロスな百合っぽい雰囲気がおおっとなりました。

   そんでもって、一身上の秘密……が二個も三個もあるけどこのヒト、を明かしたあとの、

   「私の大切な友人が
    ありのままで
    いられないなら」という泣かせる(いや言ってる本人が泣いてる)名台詞に繋がるのでした。武辺の家の娘で自らも戦地に赴きたい愛国者という前振りからのこのセリフですから。それだけハルカくんに入れ込んでいるかが知れます。
   
    もう、最高、こんな友人ができたんだからハルカちゃんこの世界来た意味あったよ! セラフィちゃんいい婿捕まえていいマダムになってね! 戦場に出て国民を守れないことを苦にしなくていい、あなたのその魅力でこの国をよくして行って!

    まあ夜会でハルカくんを護る名シーンは他にもありますけど、心でハルカくんとつながって、……もしかして女性? と疑いを抱くシーンを入れておいてほしかったなあ。

    リカルドとしては主様が23才の健康な男性と思ってるからここはらわたがちぎれるような気持になってると思うけど、でも横恋慕姫のアプローチ後だからお泊り容認するしかないつらみィ! そりゃ翌朝即行迎えに来るよなあ! いや成人男性なら過保護だろ。そんでもってこの世界は他のイマドキの小説世界とは違ってまだ同性愛に禁忌感あるっぽくて、リカルド自身も、友人グラハムも、男にそんな気持ち持っちゃうわけ!? ともだもだしているのがおかあさん的に好感を持てます。さいきんは男でもいいじゃんいっちゃえっていう世界観普通なので。

    そして英雄ハルカくんを貶めようとするやつらが放った最大のスキャンダル……ハルカくんは傷心を抱えて旅に出ますが……当て馬アルフはいちいち思わせぶりですがまあ役割だからね、しょうがないね。

    ハルカくんは立ち直り、自分がこの世界に召喚された役割を果たし、そして。

    ここんとこが最大の残念ポイント。打ち切りだったんでしょうか。予算のない大河ドラマ後半の合戦シーンみたいでした。えーっ、原作はそれなりにハルカくん頑張ってたのに。

    なにより心が強い。召喚されてチートついてないなんて十二国記の陽子よりひどい目に遭いながらも自分で魔法を学んで国を救う英雄級にまで成長し、真実を知ってもなお前を向き甘い愛に溺れず自らの役割を果たそうとするハルカくんに敬意が静かに沸き起こります。

    そしてね、残念なのはお師匠。間違って召喚してしまった、これから花開く直前の乙女に対して、何ができるのか。何をもって償えばよいのか。自らの魔術の全てを教えるしかなかったのか。そこんとこ私は突っ込みたかった。木彫りの熊なんか作るくらいしかできなかったのか。マッド・マジカリストだから女性の関心を得る方法にも疎かったのか、追放の身ではわかりやすくドレスや宝飾品を与えて機嫌を取ることもできなかったのか。この世界のことを何にも知らない、自分に依存するしかない乙女を目にして愛欲の方へもつれ込むことはなかったのか……師匠腹上死じゃないよなとまで考えましたよ、ごめん。

    美青年に傅かれながら当惑は最初だけで、母似の美貌にコンプレックスを抱くリカルドを精神的に解放してやったりと、そういう主としてのふるまいのドキドキも楽しめました。従属の契約を受け入れた後は、主としてふるまおうと心掛けているところもあり、所々見せる少年でありながら主という倒錯した雰囲気がちょっとクル。あなたは弱い、守らせろ、とまいど誘惑してくるアルフのこともまいど断って。そういう、悩み苦しみながらも前を向いて立ち上がる、立ち向かうヒロイン。もっと読んでいたかったな。そういう残念。どうぞお試しください。

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コメント

 すいませんネタバレにならずに語るのが難しくって。間違い召喚っていうとなんか違う。でも、詳しく説明するのもなんだし。でも、正しく説明しないと作者さんにも読者さんにも失礼かと思って言い訳追記。

 ネタバレになるかもですが、読んだのを自分で理解してまとめたところでは以下のカンジ。

 とりあえず、その国では召喚術がまだ確立していなくて、ハルカくんは万全の態勢で呼ばれたわけじゃないと。ハルカくん自身を呼びたかったわけではないといういう意味では間違い召喚? でもとくに誰かを呼びたかったのにハルカくんが呼ばれてしまってがっかりというわけではない。間違いというのはそういう意味ではない。

 術式が未熟な状態での実験で、好奇心と探求心の赴くままに必然性もなくでかい術をやって呼ばれた存在にも呼んだ世界にも迷惑かけたって感じかな。そういう、呼んだこと自体が間違っている召喚。

 それで人生っていうか運命狂わせられたらホント迷惑。

 ハルカくんは自分で何とか出来たけど、もうおひと方は……やっぱ意思疎通ってだいじよね。一番不幸だったのはこのこかもしれない。

投稿: まいね | 2020年4月19日 (日) 20時28分

 逆に、召喚術がすごくポピュラーで、アマゾンでポチるノリで日本から勇者を召喚できる世界も怖い。
 冒険も楽々こなせて世界に勇者があり余ってるけど次元の関係上送り返せなくて、元勇者への年金が財政を圧迫している世界。
 ちょっと考えてるけどなかなかむつかしくて形にならない。

投稿: まいね | 2020年4月19日 (日) 20時34分

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