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2019年3月23日 (土)

忘却バッテリー ― 悪魔のコロッセオ ―

   虎美とうとう帰ってきました。
   「おかーさんこれ読んで!」
   荷物をほどくなり持ってくる持ってくる。「ワールドトリガー」全巻とか「腐女子交流記」とか。
   「いや母忙しいからそんな立て続けに読めない」
   「忘却バッテリー」ってあれでしょ? 前お試しリーフレット読んだよ。
   「ほんといいから!」
   「わかった後で読むから」

   「葵 様 ほ ん と ア バ ッ キ オ だ か ら 絶対お母さん好きだから3巻読んだら絶対好きになるから!」

    あのな。

    しょうがないから茶髪のロン毛のお兄さんが表紙の3巻だけ読みましたよ。
   「アバッキオや! むっちゃアバッキオやん!
    おかあさんったら。

    説明しよう! アバッキオというのは「ジョジョの奇妙な冒険」5部でいきなり主人公ジョルノに初対面で自ら淹れたエクセレントティーwをふるまってくれる体育会系なごつい先輩である。身長約1.9Mのガタイを胸がバックリ割れたいかすモードなコートジャケットに包みプラチナブロンドのロン毛にダークな口紅のヴィジュアル系ギャングである。そんでもって×依存〇尊敬するリーダーの連れてきた新入りを温かく受け入れたりできずいちいちつっかかる困った先輩だったのだがその超能力「スタンド」はまるっきりバトルに役立たない……いや情報が死命を制する現代社会に非常にマッチしたインテリジェントでアンビバレントな存在であるっ! むっちゃ強烈な新人いびりをやっておいて実は真面目で気配り屋さんだったというミスマッチに実は元警官で先輩を死に追いやったという十字架を負っているあたりがおかあさんの最推しキャラなんですけど。
   ええとね、それより先に「忘却バッテリー」の説明をね。
   ジャンプ+でやってる高校野球漫画。超高校級の幼馴染バッテリーが高校入学前に突然噂から消えた、と思ったら、なんと都立のふつーのゆるい高校に行ってた、なんでって、剛腕ピッチャーの球を捕れるキャッチャーの方が記憶喪失になってまるきり使い物にならなくなったからって。
   おい。
   記憶喪失になって地が出たのかまるきり怠惰で下ネタバリバリのお調子者になってしまった要くんが野球を忘れて高校生活エンジョイしたいと都立を選んじゃったので、「圭じゃなきゃ俺の球は取れない」って剛腕ピッチャー清峰くんもスパっと都立に来ちゃうところが。
   まあ二人の幼馴染共生関係は好きな人がネタにすればいいんじゃないかな。おかあさんどーでもいいし。
   無敵な分ひとの心に頓着しない蒸気機関車みたいだったらしいバッテリーに少年野球時代心を折られまくったライヴァルたちがかれらの今の姿を見てもううちのめされることされること。
   それでもこの憧れの二人と野球ができるなら面白いんじゃないかと集うのが狂言回しの山田太郎くん、藤堂葵くん、千早瞬平くん。
   まだまだメンバーはは足りないけれど、同好会から少しずつ野球の面白さを思い出していくのでした。
   ヴィジュアル系な「おお振り」かな? 第二人格の要くんの分ギャグとシリアスとの落差が大きいですが。
   そんでもって2巻は「おお振り」での対三星学園戦のように強豪チームとの練習試合で問題点やらライヴァルやらを出してきて。
   要くんがもうまともにキャッチャーできないことが描かれ、皆で強くなってライヴァルとの再戦を誓いまとまったところで藤堂くんが告白。

   「じゃあ遊撃手(ショート)は他のヤツを探そう」
   「一塁送球が出来ねぇんだ
   「最悪一生治らんと思う」
    おいぃぃぃぃぃい! あんたまえの試合でふつーに? いや、なかったわそーいえば。最初は三者三振で、あとは打たれまくりでまともな守備シーンなかったわ。この辺シーン運びが神わざ。
   「おお振り」のさあ、あとで悪役として登場した桐青のリオのお兄ちゃん、甲子園かかった試合で逆転を許すエラーやったひと。あのヒトみたいなミスをやってしまったらしい。
    あのひとは自分が3年だったから自分を含め最後の夏がなくなったって十字架だけど、藤堂くんの場合は自分が2年生で、先輩の未来(名門からのスカウト)を消してしまったという。それなのに自分にはスカウトが来てしまったという身の置き所のなさ。
   
   IPPSって、話には聞きます。相手にぶつけてしまった投手がかかる心理的なものという感覚でした。心の傷で投げられなくなってしまう障害みたいな……。悪送球してしまった野手もなるんだ? でも、三遊間ってボールが一番飛ぶとことで1塁送球できないって、そりゃプレイヤーとして致命的……。

   それで野球漬けの少年のよくある転落として喧嘩して不良のようになって3巻表紙のような絵に描いたヤンキーになってしまったわけですね。いやヤンキーちゃうな。
   うん、おかあさんのハートジャストミートや。虎美わかっとる。

   それを、素人がえりした要くんの無心のアイディアで克服して、なんとかショートは再生? 早いな。

   3巻後半は中堅手(センター)探しで、野球の体育会系なシステムが息苦しくてなじめなかったおたくくん土屋が引っかかります。そういうひとりひとりの弱点に向き合い、みんなで克服していこうとする仲間がやさしいです。そこも柔軟ながら理詰めでね、ここにこう引っかかていてこういう動きを見せる、ならこういうアプローチをとってみよう、そういう作者さんのスタンスがわたしの感性に合います。
   
   山田くんは皆に寄り添おうとする、千早くんは理詰めで解き明かそうとする、藤堂くんはひたむきさでこじ開けようとする。それに、要くんの虚心の言葉が打開策を生み出す……。それは名門校の努力と才能と野球だけを求める心とは全く別次元で、だからこその漫画の痛快さなんでしょうが。
   清峰くんは真逆です。皆がふざけたり要くんにへきえきしているシーンでも、清峰くんは両手に握力を鍛えるキカイを握って無表情に地道にトレイニングをしています。もう甲子園のマウンドに立つような高校球児としての成功は望めないのに、要くんがこうなってしまう前の、優れた野球選手になることしか考えていない態勢から一歩もずれていないんです。自分一人で名門に入ればいいじゃないかと皆が問い、そして清峰は否定する。
   それは友情物語としては熱くて、この話でも所々でこの子の「要と野球をやりたい」だけというセリフには作中のみんなも読者も胸を熱くさせてもらっているのですが。
   彼はこれで大丈夫なの?
   高校野球というシステムについては、最近はいろいろ問題提起されているようですが、未来ある子供を一つの夢に縛り付けて心身を激しく損なっているのではというところに気づかされます。そういう、少年たちのいろんな屍の上に築かれたコロッセオなのかなあ、甲子園って。
   それじゃあ、自分はただ親友とプレイを全力で楽しみたいだけなんだと言い続けて行動に示し続ける清宮くんはそれで正しいのかもしれない。
   それでも、まあ、物語としては、戻ってきた子たちは「野球ができてうれしい」と言っている、なんて恐ろしい魅力を持つ娯楽なんだろうと。まあ逆説的にね。読んで楽しませてもらっておいて、わたしはそう考えました。
   そんでもってわたしは「おお振り」のときも、ひいきの阿部くんが大きく傷ついていたことをもって心身のフォローがないシニアリーグはこわいところだとかここに描いたような記憶がよみがえって、自分が気に入ったキャラがそういう目に遭っていたからってまたほんとに……恥ずかしいわ。

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コメント

   虎美は「メジャー」の高校生編に似ていると言っていましたが、あのね、いろんな一芸選手が集まって弱小チームを再興するのは野球漫画に限らずスポーツものの王道なのよ。

   絵がきれいで、伏線が効いていて、読んでいてアツくなれるいい漫画でした。

   そして。

   「あのなあ、言うに事欠いてアバッキオだから気に入るはずって!? 母の好みを知り尽くしてるみたいに言うな!」
   「だって『田中くんはいつもけだるげ』だって太田くんがアバッキオみたいだって食いついたじゃない」
   「あ」
   「うたプリのカミュだって金髪真ん中わけでアバッキオに近いじゃない!」
   「ああああああ~!」

   娘に趣味がもろばれなおかあさんでした。

投稿: まいね | 2019年3月23日 (土) 21時50分

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