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2019年3月24日 (日)

異世界薬局 ― 誠実×誠実 ―

   最近異世界転生ものにはまっているおかあさんです。はやりには周回遅れで乗る主義です。
   異世界へは赤ん坊として生まれ直してその世界での家族とかネットワークとかちゃんと持ちつつ現代日本の知識を小出しにして認められていく転生型と、それなりの年で日本人としての容姿や能力のままで移動する召喚型とがありますが、手っ取り早く異世界のギャップを出しつつ主人公が力を発揮できるから召喚型の方が面白いのかな?
   「本好きの下剋上」は転生型だけど、ある程度年を取ってから瀕死を期に前世の記憶が蘇ってますから、両者折衷の序盤スピードアップが……うーん、そこんとこまだまだローギアで、リアリティある分読む方の忍耐を要求しましたね。
    こちらの「異世界薬局」も、すでに異世界である程度教育を受けていたショタ少年が落雷で瀕死だったところへ乗り移り元の人格を消しちゃった感じなので、より合理的なのかもしれません。所々この世の常識とかは残っているらしいし。瀕死からの蘇生ということで世界の常識を超えた知識を出しても「薬神の加護を受けたから」でごまかせているし。
   というわけで、「異世界薬局」なかなか設定がしっかりしています。
   難病の妹のために新薬開発に勤しむ准教授の薬谷完治先生(31)、ハードワークがたたって過労死しました。その浮かばれない魂が中世ヨーロッパっぽい異世界で雷に打たれて瀕死の貴族少年ファルマ・ド・メディシスに宿ったところがありがちな第一話。
   ところが、この坊ちゃまの父上は神術を駆使して人々の病を癒し公爵様より偉い尊爵の位を賜るこの国最高の宮廷薬師で子供たちにも家業で世界への貢献を求める意識高いスパルタとーちゃんだったのです!
   おうちの方針と本人の志向がぴったり一致したファルマくんは、転生のボーナスらしいその世界でも珍しい無限の神力に最新日本の薬学知識で貴族に限らず人々を病から救いたいと幼いながら活躍し始めるのでした!
   異世界で教育程度の低い人々相手にも細かく丁寧に病気の状態と治療方針を説明する誠実さ! ちゃんと原作小説では要所で査読がはいっているという真面目さ! なろうなのに原作テキスト開けたら黒くてびっくりしたよ! 何この書き込み!(大いに失礼!)高圧的なパパ上も地位に驕(おご)らず独自に研究をしていてその世界としては最高峰に近づいていた(が、限界を認めており、それでも患者に誠実に、政治に影響が出ないように治療方針を考えていた)辺りが医療ものにありがちな腕に逸って患者さんのことを考えていない医者とは一線を画していて目を開かせられる! そういう誠実な医療従事者を描いていてくれて胸を打たれます。
   医療分野だけでない細かい考証と描写。それをまたちゃんと絵に落とし込む作画の担当の方の誠実さ! 
   奥様や皇帝(女性なのに簡単に「女帝」と表現しないデリカシィが好きっ!)のお召し物の麗しさ。考証しながらも現代人が見て魅力的に感じるように描いてくれて眼福。お母様の腰痛を癒してあげるシーンのコルセット外した腰の艶めかしさ! 女性の神術使いの尊爵さまのガラス工房での作業着のエレガンス&エロス! 読み応えたっぷりです。
   男性もイケメン、イケオジ、イケショタもりもりでどこを見てもおいしい! 宮殿や貴族のお館や町の商店の描写も手を抜いてなくてもう! ありがとうございます!
   神術を使ったことで異端審問に引っかかるアクションシーンも圧巻。そして疑いをかけた異端審問官を赦し、さらに、自分で落馬して骨折した異端審問官を緊急手術で救うシーンにはスッキリ! 生前の資格としてはT大出の准教授でも「薬学者」なので、医療行為はしてはいけないという医師法の縛りに馬鹿正直に従い葛藤する、全能感に暴走しないあたりがもう誠実でただ慕わしいっ!
   というわけで「異世界薬局」原作:高山理図、作画:高野聖 は原作と作画の誠実さが相乗効果で魅力倍増! でございます。

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2019年3月23日 (土)

忘却バッテリー ― 悪魔のコロッセオ ―

   虎美とうとう帰ってきました。
   「おかーさんこれ読んで!」
   荷物をほどくなり持ってくる持ってくる。「ワールドトリガー」全巻とか「腐女子交流記」とか。
   「いや母忙しいからそんな立て続けに読めない」
   「忘却バッテリー」ってあれでしょ? 前お試しリーフレット読んだよ。
   「ほんといいから!」
   「わかった後で読むから」

   「葵 様 ほ ん と ア バ ッ キ オ だ か ら 絶対お母さん好きだから3巻読んだら絶対好きになるから!」

    あのな。

    しょうがないから茶髪のロン毛のお兄さんが表紙の3巻だけ読みましたよ。
   「アバッキオや! むっちゃアバッキオやん!
    おかあさんったら。

    説明しよう! アバッキオというのは「ジョジョの奇妙な冒険」5部でいきなり主人公ジョルノに初対面で自ら淹れたエクセレントティーwをふるまってくれる体育会系なごつい先輩である。身長約1.9Mのガタイを胸がバックリ割れたいかすモードなコートジャケットに包みプラチナブロンドのロン毛にダークな口紅のヴィジュアル系ギャングである。そんでもって×依存〇尊敬するリーダーの連れてきた新入りを温かく受け入れたりできずいちいちつっかかる困った先輩だったのだがその超能力「スタンド」はまるっきりバトルに役立たない……いや情報が死命を制する現代社会に非常にマッチしたインテリジェントでアンビバレントな存在であるっ! むっちゃ強烈な新人いびりをやっておいて実は真面目で気配り屋さんだったというミスマッチに実は元警官で先輩を死に追いやったという十字架を負っているあたりがおかあさんの最推しキャラなんですけど。
   ええとね、それより先に「忘却バッテリー」の説明をね。
   ジャンプ+でやってる高校野球漫画。超高校級の幼馴染バッテリーが高校入学前に突然噂から消えた、と思ったら、なんと都立のふつーのゆるい高校に行ってた、なんでって、剛腕ピッチャーの球を捕れるキャッチャーの方が記憶喪失になってまるきり使い物にならなくなったからって。
   おい。
   記憶喪失になって地が出たのかまるきり怠惰で下ネタバリバリのお調子者になってしまった要くんが野球を忘れて高校生活エンジョイしたいと都立を選んじゃったので、「圭じゃなきゃ俺の球は取れない」って剛腕ピッチャー清峰くんもスパっと都立に来ちゃうところが。
   まあ二人の幼馴染共生関係は好きな人がネタにすればいいんじゃないかな。おかあさんどーでもいいし。
   無敵な分ひとの心に頓着しない蒸気機関車みたいだったらしいバッテリーに少年野球時代心を折られまくったライヴァルたちがかれらの今の姿を見てもううちのめされることされること。
   それでもこの憧れの二人と野球ができるなら面白いんじゃないかと集うのが狂言回しの山田太郎くん、藤堂葵くん、千早瞬平くん。
   まだまだメンバーはは足りないけれど、同好会から少しずつ野球の面白さを思い出していくのでした。
   ヴィジュアル系な「おお振り」かな? 第二人格の要くんの分ギャグとシリアスとの落差が大きいですが。
   そんでもって2巻は「おお振り」での対三星学園戦のように強豪チームとの練習試合で問題点やらライヴァルやらを出してきて。
   要くんがもうまともにキャッチャーできないことが描かれ、皆で強くなってライヴァルとの再戦を誓いまとまったところで藤堂くんが告白。

   「じゃあ遊撃手(ショート)は他のヤツを探そう」
   「一塁送球が出来ねぇんだ
   「最悪一生治らんと思う」
    おいぃぃぃぃぃい! あんたまえの試合でふつーに? いや、なかったわそーいえば。最初は三者三振で、あとは打たれまくりでまともな守備シーンなかったわ。この辺シーン運びが神わざ。
   「おお振り」のさあ、あとで悪役として登場した桐青のリオのお兄ちゃん、甲子園かかった試合で逆転を許すエラーやったひと。あのヒトみたいなミスをやってしまったらしい。
    あのひとは自分が3年だったから自分を含め最後の夏がなくなったって十字架だけど、藤堂くんの場合は自分が2年生で、先輩の未来(名門からのスカウト)を消してしまったという。それなのに自分にはスカウトが来てしまったという身の置き所のなさ。
   
   IPPSって、話には聞きます。相手にぶつけてしまった投手がかかる心理的なものという感覚でした。心の傷で投げられなくなってしまう障害みたいな……。悪送球してしまった野手もなるんだ? でも、三遊間ってボールが一番飛ぶとことで1塁送球できないって、そりゃプレイヤーとして致命的……。

   それで野球漬けの少年のよくある転落として喧嘩して不良のようになって3巻表紙のような絵に描いたヤンキーになってしまったわけですね。いやヤンキーちゃうな。
   うん、おかあさんのハートジャストミートや。虎美わかっとる。

   それを、素人がえりした要くんの無心のアイディアで克服して、なんとかショートは再生? 早いな。

   3巻後半は中堅手(センター)探しで、野球の体育会系なシステムが息苦しくてなじめなかったおたくくん土屋が引っかかります。そういうひとりひとりの弱点に向き合い、みんなで克服していこうとする仲間がやさしいです。そこも柔軟ながら理詰めでね、ここにこう引っかかていてこういう動きを見せる、ならこういうアプローチをとってみよう、そういう作者さんのスタンスがわたしの感性に合います。
   
   山田くんは皆に寄り添おうとする、千早くんは理詰めで解き明かそうとする、藤堂くんはひたむきさでこじ開けようとする。それに、要くんの虚心の言葉が打開策を生み出す……。それは名門校の努力と才能と野球だけを求める心とは全く別次元で、だからこその漫画の痛快さなんでしょうが。
   清峰くんは真逆です。皆がふざけたり要くんにへきえきしているシーンでも、清峰くんは両手に握力を鍛えるキカイを握って無表情に地道にトレイニングをしています。もう甲子園のマウンドに立つような高校球児としての成功は望めないのに、要くんがこうなってしまう前の、優れた野球選手になることしか考えていない態勢から一歩もずれていないんです。自分一人で名門に入ればいいじゃないかと皆が問い、そして清峰は否定する。
   それは友情物語としては熱くて、この話でも所々でこの子の「要と野球をやりたい」だけというセリフには作中のみんなも読者も胸を熱くさせてもらっているのですが。
   彼はこれで大丈夫なの?
   高校野球というシステムについては、最近はいろいろ問題提起されているようですが、未来ある子供を一つの夢に縛り付けて心身を激しく損なっているのではというところに気づかされます。そういう、少年たちのいろんな屍の上に築かれたコロッセオなのかなあ、甲子園って。
   それじゃあ、自分はただ親友とプレイを全力で楽しみたいだけなんだと言い続けて行動に示し続ける清宮くんはそれで正しいのかもしれない。
   それでも、まあ、物語としては、戻ってきた子たちは「野球ができてうれしい」と言っている、なんて恐ろしい魅力を持つ娯楽なんだろうと。まあ逆説的にね。読んで楽しませてもらっておいて、わたしはそう考えました。
   そんでもってわたしは「おお振り」のときも、ひいきの阿部くんが大きく傷ついていたことをもって心身のフォローがないシニアリーグはこわいところだとかここに描いたような記憶がよみがえって、自分が気に入ったキャラがそういう目に遭っていたからってまたほんとに……恥ずかしいわ。

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