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2018年9月24日 (月)

背すじをピン! と ― 妻をめとらばパートナー ― 

   うちの母というのは思い付きで物を申すので、幼いころから振り回されてまいりました。
   「舞子ちゃん! 社交ダンスのサークルに入りなさい! 東大や早稲田の社交ダンスのサークルには外交官の卵が入っているから、そうでなくても世界に羽ばたくエリートの方とお知り合いになれるわっ!」
   いやそんな世界に羽ばたくダーリン捕まえたいわけじゃないけど、まあ、普通に幼児期にシンデレラ読んでりゃ舞踏会には憧れますって。

   てなわけで大人になったらダンスパーティでひらひらドレス着て踊ってみたいとは思ってました。ちょうど、高校生ぐらいのときにあの名香智子のスーパー少女漫画「パートナー」を友人が貸してくれたのではまって。競技ダンスが結構ハードなスポーツだってのは知ってたんですけど。

   映画も「ダンシング・ヒーロー」や「Shall we ダンス?」は胸アツで見てたんですよ。
   だから競技ダンス漫画もそれなりに興味がありました。
   「ボールルームへようこそ」の方も結構追っかけてたんですが。少年漫画の方で社交ダンスって、やるなあ、とは思っていて。
   「10ダンス」はぎりぎりBLくさい(いやあれはモロか?)ライヴァル関係がどきどきで読んでます。掲載誌かわって青年誌になったらしいんですが、イマドキはすごいなあと思ってて。買ってますよ。

   さて、「背すピン」はなんといっても王道、ジャンプ掲載ってことで、娘が一気にはまってイマドキ本で全巻揃えたというから、この四十九日の帰省で読まされてきました。
   「顔が地味」
   「おたふくじゃん」と辛口に始まって。
   「いい子だなあ」
   「おい、熱いなあ」
   「これだよ、こういう細かい心の交流、いいよな!」
   「くぅ~~~~熱いぜ!」
   「このライヴァルいいやつだなあ。パートナーがもうできた女房で」
   「おい、次どうなる!?」
   と、どんどんはまって、完結まで10巻、読破してきました。

   主人公つっちーは身体能力が低く背もちっちゃい地味男くんですが、新入学の部活紹介で見た競技ダンス部の先輩のカッコよさに圧倒されてました。種目がラテンで、女性は露出の多い派手な衣装だったのにも魅了されて、若人らしいスケベ心もあって友人たちと部室に体験入部しにいって、豪快なオネエ(?)の部長に捕まって初心者への指導を受けることになります。スケベ心で集まった新入生がみんな逃亡する中、ひとり残った女子のわたりさんと、苦しいけれどなんだかスッキリする指導を受けて、体はへとへとだけどなんだか楽しかった、また行こうね、と偶然帰りが同じ方向だったので帰りの電車で感想を述べあって笑いあうという運命的な出会いをするのでした。
   かわいいボーイ・ミーツ・ガール
   競技ダンスは全然チャラチャラしてない、マジ体育会系、というのをやりながらも、年の近い男女が心を一つにしなくてはいけない、そういうドキドキも描いてくれて部活物として面白い作品です。

   そして、男女が組んで行うほぼ唯一のスポーツ(まああとは混合ダブルスとか、同様にフィギュアのペアだな)として、先輩たち、ライヴァルたちみんながカップルで現れるんですよね。
   外国人のパートナー(女子)と語学の壁でまだコミュニケイションの取れない元ジュニアチャンピオンの御木くん、パートナーのことだけは女の子扱いしてあげられなくてケンカップルになっている女たらしの八卷くん。
   おぼっちゃんの金龍院さんをおおらかに支える神宮寺さん、真面目で優秀すぎて本音を包み隠さず言ってしまう天然の宮大工を必死にフォローする柏さん。俺が、俺がと暴走する畔田くんをいじりつつ巧みに手綱を取る仙崎さん。
   みんな、さすがに勝ち進んでくるだけあって、お互いを知り尽くしていて補い合ってしっくりいってるんですよね。見ていてしみじみ来ます。

   初心者が新しいスポーツを始める部活物ですけど、つっちーは実力相応。妙に勝ち上がったりしない。トップレヴェルで勝ったり負けたりに鎬を削るのは先輩たち黄金世代。それでも、合理的な「必殺技」は出て、主人公が注目されてスカッとする瞬間は用意されている。イマドキはスポーツものでもうまく話が練られています。さすが。
   あとは、特にうまいわけじゃない、美男美女じゃないけど、基本に忠実で、心から楽しそうに踊る、そこが、応援したくなる、そういう魅力の設定は、大多数の地味な存在である読者にかえって夢を与えると思いました。夢でいけなければ元気というか希望だよ。
   つっちーの魅力は、パートナーの心に寄り添おうとするところ。
   デビュウ戦で、いままでつっちーを励ましてくれて、同じ心でダンスに挑もうとしてくれていたわたりさんが緊張とトラウマのフラッシュバックから動けなくなっても、怒鳴りつけたり、むっとしたりしない。おろおろして、途方に暮れて哀しくなるにしても、わたりさんの心を察して、なんとか自分ができることを考え、励まして、最後まで力を尽くそうとする。胸が暖かくなりました。そうだよ、男の子なんだから。リーダーはパートナーを心から労わって、輝けるようにしてあげなきゃならない。それは、人生においても同じ。

   平凡な主人公のできることは、平凡な読者にもできること。

   必殺技を繰り出したり、特別な血筋に伝わる能力を発揮することなんて、読者にはできないけれど、漫画を読んで、せめて読者がやってみようと思って、実際に行うことができて、そして読者の生活をよりよくさせることができる。
   そういうことを教えるとまでいかなくても、提案できるなら、この作品は血沸き肉躍るバトルファンタジーよりよっぽど読者のためになっている、わたしはそう思います。

   あとは、伏線回収のスッキリ。ごめん、ネタバレです。
   八巻先輩のパートナーは、空手家の娘である秋子。センスがあり気性の激しい美人ですが、空手を修めていて、ケンカップルである八巻とは何かと衝突して、足が出る。そういう、慣れ合わない二人は合うときはキレッキレで華のあるダンスを見せるんですが、食い違うと、ばらばらで見ていられない出来に。また、独自の魅力を出そうとして、八巻はその勢いのある足技を振りに取り入れて、空回り、採点対象外となり、点数が伸びずに低迷。所作に切れがあるだけに、転倒した際にリーダー(男子)である八巻の顔を切ってしまって、流血、失格に……。
   ここで二人がお互いを見つめなおし、恋愛としてステップアップを経て得難い相手として再起するのかなーとか恋愛脳は思いましたけれども、そういうことはなく、お互いを切磋琢磨の相手とすることで再起し、その足技を、いままで「準決勝まで必要ない種目」として封印、紹介されなかった5番目の種目、ジャイヴでの振付に活かすという逆転ホームランをかっ飛ばしてくれてカタルシスをもたらしてくれたんですよね。

   もう、大喝采。

   それも、主人公つっちーはみんな脇で見て、読者と一緒にハラハラしてドキドキして感動する役目なんですけど。
   まあ、それもありか。
   ライヴァルたちはつっちーと出会うことによってそれぞれパートナーとの関係を見つめなおし、ちゃんと手を握り直し、より高みに上っていくんですから。

   つっちーは全国大会優勝とかしないみたいですけど、いいじゃない。その手の中に、自分に寄り添ってくれる、同じ心で同じものをいいと感じられるパートナーを得ることができたんだから。平凡な主人公には、それこそが宝なんじゃないの。

   妻をめとらばパートナー。
   
   世界なんか救わなくていい。10年も20年も連載しなくていい。ほんのちょっとの努力で、自分と、周りの人が幸せになるふるまいを身に着けられるなら、そうして欲しい。そういう青春も描いてほしい。少年漫画は、地味でもそういう話があっていいと思うの。

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