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2017年7月 2日 (日)

骨までしゃぶり尽くすハーレクィン 「公爵と内気な乙女」 

   もう作家買い。「公爵と内気な乙女」さちみりほ、いえレンタルサイトの広告作品だったし。

   古き良き時代のロンドン、それなりの資産家の娘、ペネロピちゃんはいきなり兄ちゃんに大好きな本を取上げられます。買うのも読むのも全面禁止。いい年して本ばっか読んで社交しない嫁に行かない。パパは資産を遺してくれてるけど、それは結婚するまではボクが管理中。うちに居候するなら家長たるボクに従え! ……実は兄ちゃん投資がヘタで穴埋めにペニーちゃんの資産を狙ってるとかいないとか。
   本が好きっていっても原語でギリシャの古典詩を読んで自分で訳したい! という硬派オタで新聞も政治欄まで毎日熟読なペニーちゃん、ただ泣き崩れたりしません、じいやに荷物をまとめさせてすぐ家出です。

   「理想の夫を捜す旅に出るわ」

   

行動力のあるペニーちゃんです。←ここ大切。
   あんた冒頭、
   「新しく届いた本とお気に入りの椅子
   お気に入りのお茶を淹れて
   ページをめくるひととき

   きっと天国ってこんな所だわ
   いいえ きっと天国より
   すばらしいに違いないわ」って言っといて。社交界デビュウで地味子に対する冷たい洗礼を受けて引きこもったらしいけど、いやいや、充分逞しいではないですか。やっぱね、ハーレクィンヒロインはどの作品も地味に逞しいです。そこんところが、花ゆめヒロインに通じるところがあって好きなんだなあ。

   対するにヒーローはどうかというと、飲んだくれています。それは、自分の身の上を嘆いてはいますが、それなりにしたたかな作戦のためです。モノローグでかれのせっぱ詰まった状況が語られ……今回は「契約結婚」タグらしいです。
   けっこー卑下しながら語ってますが、冷静に検討するとその行動は漢(ナイスガイ)です。2年続きの凶作に小作料を免除してやっていたら資産を失い、起死回生を賭けた貿易船は嵐で沈み、破産寸前。どうせ死ぬなら事故死で保険金を遺そうという覚悟の独宴であったようで。そのみじめ公爵様が飛び込んだのが、都合の良い男を引っかけて駆け落ち村へ直行しようとしていたペニーちゃんの馬車だったというわけ。

   「もし、わたしが見えますか」
   「うん、見えるよ、天使だ」

   地味に繰り返されるのが「天国」「天使」という言い回し。かくて運命により出会った2人はお互いの困った点をカヴァーし合うために結婚するのでした。ペニーちゃんのたくみな誘導に、
   「うん !
   結婚しよハァト
   100万ポンドの笑顔ですよ、このヘタレヒーロー。もうこの笑顔だけでいいわ。

   今回もヘタレヒーローかなーとわくわくしながらページを繰っていたんですが、じゃあマッチョいや英語でマスキュリン♪な JETヒーローだったらこの話どうなるんだろうと考えてみたら……意外といけるかな。ハードボイルドな公爵様が自分のふがいなさに苛立つ飲んだくれシーンになって、そこから、ヒロインに介抱されてふっと心が溶かされて……

   「ああ
   結婚しよう」
   これはこれでアリだな。

   当然少女漫画の特殊効果である点描は飛びまくり……になるはずですが、やっぱ、ハァトは付かないな。やっぱり作品世界に合致した作画のひとを選んでるんですかねえ。   
   閑話休題。
   グレトナ・グリーンという実在の駆け落ち村で結婚する(鍛冶屋さんが立ち会って宣誓するだけ!?)と、手製の結婚承諾書を出してくるペニーちゃんの計画性に読者はやや引き。泥酔状態でもちゃんと結婚承諾書にフルネームでサインして印章も押しちゃう公爵のお育ちのよさっぷりに脱帽。翌朝、自分がとんでもないひとと結婚してしまったと蒼くなるペニーちゃんとじいやに酒が抜けた公爵ももう諦め。
   「扱いやすい夫が見つかったらどうするつもりだったんだ?」
   「夫には毎年2万ポンドほど渡して、自由に過ごして貰えばよいかと」
   ここ注目。ペニーちゃんの資産は年収3万ポンド。旦那の方に多くあげちゃうと言うのです。そりゃ公爵も「素面なら土下座求婚してた」な。
   そこであと出してもやっとけよ。そしたら揉めなかったのに。
   めんどくさい時代考証調べるのイヤだから、公爵様が破産して自害するくらいの借財(作中は15万ポンド)ってどのくらいかなーって、小さい会社の社長さんぐらいなら千五百万? 公爵って貴族のトップだから、もう一桁あげて一億かなー。いやーペニーちゃん大金持ち。着てるものもよく見ればレースぶりぶりじゃないけど地味にお素敵だったからなあ。でも平民。難しいねイギリスって。スルーされてたけど、次の爵位はやっぱ弟の方に行くのかね?

   さて、公爵様ともなれば結婚が新聞記事になる時代。わりと遊び人な公爵のお友だち連中がたかってきて大変。ペニーちゃんは上流階級のいや~んな人間関係にもみくちゃにされますが、最初のハードル「結婚披露舞踏会」をクリアするに当たって強い味方が!

   やっぱさ、歩かないと犬も棒に当たらない! 叩けよさらば開かれん!
   「プロクストン夫人は外せない」という小さな情報にも耳を留めていたペニーちゃんは、先代公爵夫人行きつけの洋装店で、今の店主がそのプロクストン夫人のメイドさんにコネがあるというネタに飛びつくのでした!

   「あなたがもしわたしの知りたいささやかな情報を教えてくださるなら、
   わたしはこちらで外套からデイドレスまですべて揃えさせていただくわ
   ボンネットから……ペチコートに至るまでね」
   正しいお金の使い方です、奥様! ちゃんと、流行遅れと自称するその店のものも、
   「ここにある若草色やスミレ色のドレスもどれもとても素敵としか思えないわ」って言ってるし。ウィンウィンだよ! 女性は好きで似合うものを身につければいいんだよ!

   ただ、そのメイドさん勤務先の情報流してるよね? 招待客とか皿数とか食品の発注量とか。
   …………古き良き時代だからいいことにしよう。パーティでは本人に「評判なので丸パクさせていただきました」ってゲロって認められてたし♪

   ヒロインはお助け情報をもとに自分のできることを絡めてがんばるし、ヒーローはヘタレながらも要所で侠気を見せるし。横恋慕イヴェントも乗り切って、やっぱり2人はベストカップルになるのでした。

   うぅ~ん、☆5つ!!

   ペネロピって不思議な名前だなーって思って調べたら(当方自分の趣味のために西洋の名前がナニ系でどういう意味かを調べたサイトのリンクを持ってる)、ギリシャ神話のオデュッセウスの奥さんの名前だそうで。そういえば兄ちゃんはへクターだったな。こっちはトロイア戦争の英雄の名前だ。地味に古典好きなパパをイメージできてペニーちゃんの「ホメロス! ホメロス!」なギリシャ趣味のバックグラウンドもうかがい知れて、芸コマ。

   ただ苦言を呈せば、タイトルの「内気な少女」って誰やねん。ペニーちゃんは実年齢出てませんが結婚適齢期過ぎ加減の成人女性ですよ。新聞熟読で投資は兄ちゃんよりうまいぐらい、原稿に手を入れて公爵に議会で名演説させちゃうぐらいの才媛。内気はあるかもしれんけど、舞踏会を成功させなきゃと奔走するところはとてもそうは見えなかったな~バーサーカー状態だったのかな。日本版シリーズタイトルとの調和もあるのかも知れないけど、原題は直訳して「ウィンスロープ嬢の駆け落ち」。どこにも少女って書いてないやないかーい! ……日本版は毎度タイトルがヘンと言うことで。

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コメント

 >ただ苦言を呈せば、タイトルの「内気な少女」って誰やねん。
「乙女ならいいのよ乙女は……」って、タイトル2度見したら乙女だった。なにトチ狂ってたんだろう。反省。
 少女は初潮前からスクールガール程度。乙女は心の状態が多く要素を占めるのでまあママになるまでぐらい許容かなあ……。この作品ではペニーちゃんは結婚適齢期外れかけらしいので、少女は違うだろと思ったの。

投稿: まいね | 2017年7月 2日 (日) 19時31分

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