花の都の油売り
めっきり寒くなりました。職場でも、炬燵は出したか、エアコンは入れたかもう毎朝お互い冬支度を確認し合ってたりして。うちは風邪をひく方が損! とばかりに寒いと思ったらスイッチ入れてますけどね。そんなだからお金が貯まらないのよ。
でも、ドコのおうちもそろそろなようで、とうとうこの週末、灯油売りのトラックが音楽をならしながら通ってるのを聞きました! 呼び止めて、ポリタンクに入れてもらって、お会計をするんでしょう? ……実はわたし自分で石油ストーヴを給油したことないんです。小学校4年まで住んでた前のうちで石油ストーヴ使ってましたけど、新築したとき、新しもの好きな父がセントラルヒーティングとやらにして、以来石油ストーヴとは縁が切れて。金沢の早乙女のおうちでも据え置き型タンクから直接管で引っ張ってくる石油ファンヒータだし。あの灯油ちゅるちゅるを使ったことがないのです、実は!
……仙台にいたころはそんなこと言ったらとんでもない箱入り扱いされるから口が裂けても言いませんでしたけどね。
というわけで、流しの灯油売りには実は切実感がないのですが、それなりに季節の風物詩として耳を留めておりますのよ。
「……仙台は月の砂漠だった」
サウジアラビアから持ってきていることを思えば正しい選曲と言えましょう。
「♪たららーららーらららーらーってのはなに?」
豹太に話を振ったらすぐ飲み込んで、聞き覚えのある曲を出して来ました。たしか前の山の灯油売りはこの曲。
「あれはアニーローリー。連合王国のどこかの民謡だから北海油田には相応しい」
「……へー」
「こっちの山ではペチカなんだよな。これはロシアから持ってきてんのかね。でも、旧ソ連なんとかスタンだったりしたらペチカってのもなあ」
「……母はもしかして産地ごとに曲が違うと思ってるの?」
「いや、だったら楽しいなーと思っただけ。
『まいどー今ちょっと早じまいしたいから安くしとくよ』なんて碧い眼のおっちゃんがマトリョーシカなんかつけてくれちゃって、
『きなくさいもんねおたくんとこ。大将どんどん顔怖くなってきてるよ』
『へへ、わかりますか? とりあえず手持ちを売り切って米ドルにしときたいんで。
奥さんよかったらお友だちご紹介してくださいよ』
『サトーさんちがそろそろ切れるっていってたかしらね、待って、電話してみる』……なんてイヤだわあ、平和な日本の住宅地でそんなの。
実際は石油メジャーのところにブレンダーがいてちゃんといろんなリスクを加味しながらまんべんなくいろんなところから買って一定の品質にして流しているのであろうとも」
でも、産地によっていろいろばらつきがあってお値段も色々だったら面白いなあ。
「奥さーん! こっちは近場から持ってきてるからその分安いよ!」
「マダ~ム! 品質はうちが一番ネ! 10L買ってくれたらミニ絨毯付けるヨ!」
「うちのはゲリラの資金源には絶対なってない! 戦場から遠く離れた新大陸のフェア・トレード油だよ! 意識高い奥さんには解るでしょ!」
うちの前にトラックが2,3台も集まって値引き合戦になっても楽しい……いやめんどい。
……というようにおかあさんの妄想はなにからでも広がってゆくのでした。
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