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2015年6月25日 (木)

老婆は虎よりも猛き話

   夏至も近きある夜、わたくしの携帯が鳴ったと思し召せ。取ってみれば老母の声。

   「まいこちゃん元気やったぁ? ごめんおかあさん今週忙しくて」

   怒濤の勢いで詫びことをぶつけてくる母を労いながら先を促すと。

   「達川さん死ねてんよ(お亡くなりになったのよ)」
   達川さん(仮名)といえば母の唯一の姉。兵庫に嫁いでそれなりの奥様となって、わたくしの思春期にはそこんちの子のアイヴィー・ファッションのお下がりをくれたりしてたありがたいおばちゃんではないですか。
   息子達の奥方とはうまくいかず、とうとう去年の暮れには施設に入ったとかでもう最後のお別れを言いに行ってきたとか言ってたような。
   それから半年には足りないけどあっけなかったなあと思って聞いていると、
   「そんで切符を取ってお葬式行ってきて帰って来たと思ったら今度は引田さんの奥様が亡くなられて
   「あら」
   それは母が長い間洋裁を習うという名目の元、お裁縫とお喋りを楽しみに通っていた金沢の某ホテルのフレンチのシェフの奥様。わたくしは実際お目に掛かったことはそんなになかったけれど、長く母と親しくしてくださっていて感謝の気持ちは持っていました。
   「もう胃瘻で病院に入っておいでたんやけどとうとうで。わたしまたお通夜と葬式行って」
   「疲れが出ないようにしんないかんよ」
   「おいね!(=そうよ!) それがわたしそのあと友達の竹内さんと新幹線に乗って東京に日帰りで遊びに行く計画やったんにこのせいで4日も延期になっとったがを行ってきて、目ぇまわるかと思った」
   「ぱーどん?」
   「東京行って遊んできたわね!
   「おかあさんなにもその週のうちに……」
   この老女には穢れとか忌中とか言う概念がないのだろうか。
   「だって、4日もこっちの都合で延ばしてもろてんもん悪いし」

   母は昭和14年の生まれ。誕生日来てますから76でございますよ。

   兵庫に葬式に行って金沢で通夜いって葬式行ってその後で東京日帰りツアーするか老女!

   「なーん! りょーこ姉ちゃんの葬式でみんな集まったけどあの子もあの嫁もみんな身体悪うしといてわたしが一番元気やったわ!

   そうでしょうとも。

   一週間の移動距離どんだけなんだこの老女。なんでJRにはマイルがないのだろうかって、独占企業だからだよ。わたくし聞いただけでどっと疲れました。

   

虎は一日に千里行って千里帰るそうですが、このパワフル老女は虎に負けないんじゃないかな。ええと東京金沢間は新幹線開通の時の情報で450キロぐらいですか? 西宮は解らないけどとりあえず大阪まではサンダーバードとして267キロ。引田様のご葬儀は金沢としてもこの一週間の移動距離はスゴイ。じゃあ虎の千里ってどのくらい……中国古典の一里は何キロなんだろう?
   中国では短かい里の時代と長い里の時代があるとかで。まあ長くて90メートル説だと90キロ? 長いほうだと435メートルだそうなんで(Yahoo!さんありがとう)。かける千ってことはキロ換算に計算要らないはずなのに電卓まで出してきたわたしは既に耄碌しております。一日と一週間という期間の違いはあるが母、虎に勝ってる!?

   という老婆は虎よりも猛なるかもしれない話でした。楽しかったそうですよ。やっぱすげえな戦中派は。おかあさんはもうドンキー未満で(それ以前にキリンだった頃があるのか)。

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コメント

 ええとこれは「麒麟も老いれば駄馬にも劣る」という警句を元ネタにしておりますが駄馬とロバ(=donkey)を掛けておってさらにジョジョの名台詞「お前はこのディオにとってのモンキーなんだよジョジョォォォーーーッ!!」というのもかかっているという非常に解りにくい修辞技巧です。あとで説明のいるような表現をするな恥ずかしい。
 おかあさんがイマイチ表現者としてパッとしないのはそのせいかもしれません。

投稿: まいね | 2015年8月 1日 (土) 10時12分

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