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2015年1月26日 (月)

王様の仕立て屋 - 人情もの×蘊蓄=長期連載 -

   最近のおかあさんのお気に入りはこれ。

   お集まりの方にちょっと本音の質問。麒麟も老いればドンキー以下だとかで、バブルの頃には一世を風靡したグルメ漫画、「美味しんぼ」の原作者が21世紀に入っては上からのもの言いが鼻につく、政治的に偏っているようなところが作品にどんどん出てきて見ていられない、さらに震災復興支援を目的としたはずのシリーズでご当地の方の神経を逆撫でするような内容の著述をしたとかで、わたくしの目にする範囲ではもうあの漫画原作者は終わってる、「美味しんぼ」は結局高く評価すべき作品ではないという雰囲気になってるように思いますよ。

   でも、ほんとうにそれで良いのか?

   バブルの頃に学生~新前社会人だった世代の人は、あの作品でワクワクドキドキしたんでしょ? たべものについて真剣に考えることを初めて考えさせられたわけでしょ? それ以外にも、ストーリー面ではグッド・ルーザー団社長の男ぶりに胸を打たれ、岡星の主人の毎度山岡さんにムチャ振りされながらそれに応じようとする職人として誠実さに頭の下がる思いをしたんでしょ? とんかつ大王やらの人情噺にじんわり来なかったと言いますか? 「美味しんぼ」の魅力は、毎度やや強引に食の啓蒙と蘊蓄話に人情をからめながらもちゃんちゃんとそれでハッピーエンドに持っていく職人技だったんじゃないですかね?

   ご安心を。後継作はちゃんとあります。

   「王様の仕立て屋~サルト・フィニート~」大河原遁 掲載誌がええと大人向けジャンプなんで知る人ぞ知るになっちゃいますし、「美味しんぼ」のスピリッツとはライヴァルですけどね。一応シリーズが一段落して掲載誌も変わってサブタイトルが「サルトレア・ナポレターナ」になった続篇がまだやってます。

   これは、職業が仕立屋さんの「美味しんぼ」で「ブラック・ジャック」。ナポリで「ミケランジェロ」とあだ名された天才職人が唯一取った弟子が主人公。その師匠が職人気質の故に残した多額の借金を肩代わりしたためにまともな商いのできない主人公織部悠が、わけありの仕事をこなして紳士服にまつわる蘊蓄やらなにやらを紹介して客のトラブルをそれで解決し、お客の尊敬と大金をもらうという噺。着ていることを感じさせないぐらいの自然な仕立て上がりを目指し、そのためには数ヶ月をかけて何度も仮縫い、試着を行うのが常というナポリ仕立てを数日で行うために毎度毎度「特急料金戴きますぜ」というところがブラック・ジャック風というわけ。

   敵役として、もとはバザーで手作り洋服を売ってた女子大生のサークルという美女軍団のカジュアル・ブランドが登場。女性社長はなんと織部君の弟弟子(でも、ナポリ仕立てを学びに来たとあるミラノ・ファッションのブランドの総帥)の家出中の娘で、向こうは勝手にライヴァル視してカリカリしてるけど、こっちは年も下だしジャンルも違うしでマトモに相手しない、かえってナポリの習慣やら注文紳士服の掟にうといお嬢さん達の面倒をみてやることになって腐れ縁ができちゃって、かえってその仲間のお嬢ちゃん達には頼れる助っ人として認識されてるところが楽しい。あ、これもわたしの造語「グウェンダル型苦労人」のパターンだな。美女に使役される羨ましい主人公であります。お嬢ちゃんたちはご令嬢ありもとシスターあり、手癖が悪い過去持ちやらめがねっこに貧乳に褐色肌にと男性のツボを突いてくる豪華絢爛のキャラ設定です、よう知らんけど。

   

そういう、人間関係がどんどん拡がっていって、個性的な脇役たちが入れ替わり立ち替わり問題を持ち込んで話がどんどん転がってゆくあたりの世界観も、古き良き時代の「美味しんぼ」を感じさせるんですよね。

   難を言うなら主人公織部君がいいひと過ぎる?
   作品紹介では「偏屈」って言われることもありますが、基本、ムチャ振りされて一度は断ったり、ブラック・ジャック張りの高額の要求でお客を怒らせたりしても、突っ込んで事情を聴いてあげたあとは意気に感じて肉体の限界を超えた仕事ぶりを見せたりあっといわせるセンスの良さを見せたりしてくれるお人好しだと思います。第2話の、跡目争いに負けて全財産差し押さえられる前にせめて恩ある親父さんのスーツを元通りに、というマフィアの話に小切手を突っ返しておいて「3日間損したじゃねえか」には痺れました。
   作品進行上の大人の事情かもですが、生意気な「小動物」靴職人見習いのマルコやフランスのブランドの御曹司で仕立て職人見習いのセルジュを引き受けて、一緒に暮らしたりもしてますし。やっぱ、ブラック・ジャックにはピノコがいないといけないのよさ。
   モデルもやってた美少年のセルジュくんは扉絵ページを何度も飾ったりもしておりますが、それってやっぱり女性読者対策なんでしょうか。モーニングはわりとお買い求めのお父さんがおうちに持ち帰ったあとの奥様読者が多く、そちらを意識した作品なんかもあったように記憶してますが、スーパージャンプ? グランドジャンプ? もそうなのかしら(美人でスタイルも良いお嬢さん社長ユーリアのセクシー扉絵も当然多い)。けしからん、もっとやれ。
 とりあえず、「美味しんぼ」にあったような父子の相克はなく、織部君には敵というべきキャラがいません。ユーリア社長のパパも、どっちかというと喧嘩は娘とやってて織部君のことは後援する立場っぽいし、地元ナポリのおしゃれ貴族様も、セルジュ君のパパンも、みんな織部君のことを認めて応援してくれてます。そういう日本人ガンバレ、失われ行く職人仕事ガンバレ的な優しい世界観は、バブルも弾けて元気のない世相を反映してるんでしょうかね?
   ぶっちゃけ、作者が単行本カヴァー折り返しで吐露しているが如く、お洋服をオーダーできるひとはそれなりに余裕のある人で、お洋服を仕立てれば悩みは万事解決、というのはちょっと苦しい物語の枠組みです。織部君は職人の仕事でお客の背を押してあげるだけ。メスを振るって命を救う「ブラック・ジャック」や、ほんとに命の瀬戸際で生きたいという気持ちを呼び起こさせるようなおいしいものを提供する「美味しんぼ」には切実度で叶わないかもしれませんが。やっぱり世知辛いご時世、こういう「魔法使い」の出てくるお話はあってもいいと思いますよ。

   応援したいんだけど、「~フィニート」の方が既刊32巻、「~ナポレターナ」が8巻、しかも青年誌サイズの500円超えコミックスでは今から揃えるのは大変なのよ~。
   ブックオフへ行くべきか、ネット書店でダウンロードすべきか。最近のコミック読みは結局この悩みにたどり着きますな。

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