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2014年2月28日 (金)

「双晶宮」 職業選択の自由

   おかあさん最近は書店にいくこともできなくなって、読むのはネット・レンタルのコミックばかり。目がほとんど見えないので、お店を冷やかす楽しみも8割減。ロセッティの絵が来ているらしいと言うのに、見えないんじゃあ行っても無駄ね、ハア。更新も間が開いてしまってスイマセン。画面に顔を擦りつけて何とかやってみます。

   「双晶宮」遠野一実。絵はそんなに好きな作者さんじゃありません。ヒロイン達のふんわりした髪のかんじとか、のっぺりした主人公たちの顔立ちとか。でもまあ複雑な話を楽しませて貰ったので。

   高校1年の片岡晶くんは、歌舞伎の名門片岡家の次男坊。死んだじいちゃんもパパもあにきも有名な歌舞伎役者なのに、本人は早い頃に役者にならない宣言をして、ちゃらちゃらと日々を過ごしております。ママが交通事故にあったという知らせに新幹線に飛び乗ると、またこれが事故って大変。知り合いの歌舞伎役者のおじさんと、和装の美少女を助けて避難する途中気を失うと、「まだ死なれては困るのよ」の言葉とともに別の意識がかれの身体を乗っ取って前述の2人をはじめ乗客の避難を助けて一躍ヒーローになってしまう。それ以降、度々彼は「千晶」と名乗る女性らしい人格に身体を乗っ取られてしまうようになるのです!

   これは、双子として生まれるはずだった片方がなにかの拍子で成長しないまま、もう片方の無事生まれた兄弟に吸収されてしまうという事例:ヴァニッシング・ツインのお話。それを、「男女が入れ替わっても通ってしまう世界」として歌舞伎の世界で描いてみたお話なんだそうで。

   一緒に生まれるはずだった双子の妹と名乗る人格に度々身体を乗っ取られるようになって、晶くんのちゃらい生活はどんどん乱されていきます。複数いた恋人達とは全て別れさせられ、やめたはずの歌舞伎役者の修業を再開することになり、懇意の日本舞踊の家元のもとへ稽古にいくことに。そこにはモデルもやっている生意気な同級生花蓮とそっくりな美少女が。彼女、咲耶は花蓮の双子の妹で、新幹線での事故の時彼に命を救われていたあの子でした。
   自分しか存在を感知できないものに自分が脅かされていくサスペンスを明確にするために、その存在を感知してくれる登場人物が配されます。それが、この日舞姉妹。霊感体質で、花蓮は見える方。咲耶は存在の重みを物理的に引き受けてしまう方。2人は幼いときに晶と面識があり、そのときから「千晶」のことも見えていたと証言するのでした。
   さらに、かれらを相争わせる要ともいうべき人物、空也。
   かれは晶のうちに住み込みで芸を教えて貰うための特別な弟子「部屋子」で、晶とは幼いときから家族同然に過ごしてきたのですが、かれも、時々入れ替わっていた「千晶」のことを知っている1人です。しかし、現実主義なかれはそれを「幼いときのままごとの設定」と認識していたのが当然ながら悲劇のもとだったのでした。

   姉妹の家も日舞の宗家で、それを継ぐために空也は咲耶と婚約しています。しかし、幼い頃からイトコ同士として親しく育ったために、花蓮もまた空也に想いを寄せていたのです。しかし、ここへきて「千晶」の存在に苦しむ晶に共感し、見えるもの、感じるものとして助言を与えていくうちに姉妹は晶や自分の心と向き合っていくことになります。また、千晶の現世に執着するよすが、つまり想いを寄せる相手もまた空也で、晶が歌舞伎役者になることをやめたのも、空也とライヴァル関係になりたくないから……。思いもよらぬ四角(五角?)関係のもつれは姉妹の家、坂西流のおさらい会での娘道成寺の演目に集約されていきます。

   まずは、その「後見」という舞台上のアシスタント役に晶が抜擢されます。公私混同の扱きをおこなう空也。なにか思惑があるのか、晶や咲耶の身体を自在に乗っ取って想うままの行動をとり、関係を悪化させる千晶。晶は花蓮とのスキャンダルをでっちあげられ、空也と咲耶は破約に追い込まれます。
   本番三週間前に咲耶が晶の身に起きている臓器不全を引き受けるかたちで倒れ、踊りの主役たる花子役をつとめることができなくなります。代役は、やはり才能を認められながら踊りをやめていた花蓮。わたしにやらせてと詰め寄る千晶、「名取り」(踊りの道でのランク)でないものに断じてそれは許せないと突っぱねる花蓮。しかし、当日、足をくじいたことにして花蓮はそれを「千晶」に譲ります。「宗家」がそれをお望みだから、と。姉妹の父、家元である「宗家」が「千晶」の練習を見て、晶の母の若い頃の踊りとの類似を見たのだと……。思わぬ助けを得て夢の舞台を踏んだ千晶の踊りは……? 千晶は果たして何を求めていたのか……?

   あれですね、伝統芸能の世界は怖い。幼い頃から一緒にしておいて、好きあってるみたいから一緒にさせようで簡単に結婚が決まってしまうのね。かれらはイトコ同士なのに血族婚を気にしないのか。まあ、親類縁者以外にもそのときどきの成り上がりのパトロンのうちから嫁をとるのでそんなにも血が濃くなったりもしないのであろう。

   テーマというと、あなたは他人の望んでも得られない才を持ち、その血でしか開けられない扉の奥に足を踏み入れることができるのだから、大切な人を傷つけたくない、争いたくないとかごたくを述べていないで素直にベストを尽くせという、ある意味「ジャイアント・キリング」の最新刊(30巻)と似たような内容だったのかも知れません。ってそのために名門の血を引いていないが努力でのし上がってきた空也を要に据えたのかも知れませんが、ただのツンデレ(いやデレはない!)メガネにーさんにしか見えなくて、そこまで皆が入れ込む相手とも思えない。倒れた咲耶が無意識に空也の手を握り締めていたのを、意識を取り戻した本人はぱっと手を放す、それを乙女の恥じらいとみずに「そんなに嫌われていたとは」と皮肉るような朴念仁、咲耶よこのまま破談になって結構、おまえは晶の嫁になってしまえと握り拳を作ってしまったというのに……。

   まあ、伝統芸能を継承するひとたちはがんばってるんですね、今この時も。どうぞ芸の道を繋いでいってください。
   それにしても、こいつらこんな世界にいたんじゃ婚活いらないよな。幸せだのう。

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