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2014年7月28日 (月)

「Q.E.D. 証明終了」 定期上げ

   新刊出たの先月じゃなかったかしら。「Q.E.D. 証明終了」加藤元浩。今回も凄かったです。今回はどちらの作品も殺人事件がある両A面仕様だったんじゃないかと思いますけど、2篇め(この作品は単行本一冊につき中篇2本収録の体裁)はゲストが容疑者ってわけじゃないからなあ……なぜゲストの少女はマフィアから命を狙われているかという謎解きで。まあ、その事情には殺人も絡んでたわけだけど。
   姉妹編のC.M.B.ともども国際事情をよく調べて、青少年に解りやすく描いてくれているのでうちの子の社会科その他の勉強に役立ってます。現代社会のODAについてのディベートも、神奈川県の地理ネタも、英文の長文問題のネタも、「ああ、加藤作品に出てきたアレね」でなんとかなったという……おまえ、頼むからちゃんとそれについて専門に記した本から知識を得てくれよ。

   それ以外にも、最近はとくに人間の心に深く踏み込んで細かい心の動きとそれに支配された行動を描いてくれているのでじつに趣深いです。ナオキ賞取れるんじゃないかと思う。

   近年のエンタメ系の小説がほとんどミステリ一色になってしまっているのは国文学を専攻してなくっても皆々様認識しておられるでしょうが、じゃあなんでだよ、それは憂うべきことなんかいというと、わたしはべつに何ら憂うべきことでも謎でも無いと思いますね。阿刀田先生のお言葉によると、小説というのは皆ミステリの性格を有する物であるそうですので。「先生」はなんでこんなに暗いのかという謎が解き明かされるのが「こころ」で、洋行帰りのカッコつけ男がどうして悲劇の主人公ぶっているのか逆説的もて噺を聞かされるのが「舞姫」。ゼンチナイグのご立派な持ち物(オイ!?)がどうなるのかついつい読み進めてしまうのが「鼻」だ! ナルホドなあ。
   恋愛系の小説はまだ生きているかもしれませんが、ミステリの他のエンタメ系ってなによ? かえってわたくしはお聞きしたいですね。ああ、歴史・時代小説か。じゃあSFはアリですか? ファンタジーは結局定着しましたか? ミリタリーはどうですか、架空戦記ってまだ生きてますか? 国際謀略ものは過去の物ですか、山は死にますか? 
   文学の主たる対象である生と死とを見つめながら、社会情勢などを取り込み、さまざまなジャンルの知識を裏付けに使用して一つの物語を論理的に作り上げるミステリというジャンルは、エンタメ系文学の主流に相応しいという結論に達したわたくしです。

   だいたい、ナオキ賞取ったからって読んだ本は「王妃の離婚」だけな気がする、わたし。もうそういうオトナの読むべき本ってのが自分の興味の方向じゃないと悟ってしまっていて。ほんとスイマセン。
   べつに字で描いた作品の方がエライとまだ思ってるわけではありませんが、そういう文学の主流たるミステリ小説に太刀打ちできるミステリ・コミックだと思っているのです、加藤作品を。

   この作品はジャンル分けでいうと「ロジック系」なんだそうで。この人物のこの行動にはこういう意味がある。それはこういう理由からと推論できて、それゆえ彼/彼女にはこの犯罪をなしえる/ない。と理詰めで事件の謎を解いてゆくスタイルのミステリです。主人公である探偵役燈馬くんの卓越した推理力がそれを可能にしていると思わせますが、じつは、それ以上に苦労人である燈馬くんの人間観察力も捨てがたいです。人前で不美人に告白されて恥をかかされたから意趣返しにちょっとした事件を起こすなんて、中学生にとっては「あるある」でも、その場にいなかった人間が事件の状況を聞いただけで思いつく回答じゃないですよ……ほんと脱帽。
   トリックはそれに比べると最近力業が目立ちます。可能性としてあり得ることと、それが起きたとして人1人殺せるほどの威力を持っているかということは別物だということをちょっと無視していると思います。まーそりゃ世のミステリにはけっこーありますけどね。

   絵は毎度言いますがなんというか華がない。しかしながら、この作者さん、漫画の背景としての遠近法の解説書を自費出版で出したそうで、そういわれると確かに背景はしっかりしてます。正17角形のお堂とか、内部が特殊な構造になっていて、上まで行って帰ってくるという順路が行きと帰りとで別というお堂、エッシャーのだまし絵、つじつまが合っているようで実は有り得ないという絵を実際に建物にしてみたというホテルなど、絵に自信がないと描けない建物がいろいろトリックに登場しています。さまざまな海外の建物、富豪の豪邸や古代の遺跡も、皆々危なげない筆致だったような。

   そういうわけで、Q.E.D.はもっと人に知られていい作品だと思うんだけどなあ。映像化が失敗だったからなあ。ホント残念。息が長いから新規参入しにくいのかもなあ。どうでしょうその辺。

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