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2013年7月17日 (水)

続・骨までしゃぶり尽くすハーレクィン 「罪深きワルツ」

   疲れたときには甘いもの。肉体労働に従事するおかあさんの楽しみはハーレクィン・コミック。今回はなかなか良いのに当たりました。

   「罪深きワルツ」原題 Rebecca’s Rogue 作者はポーラ・マーシャル 作画 さちみりほ。作者は知りませんが、さちみりほさんはお姫様系のお話がホームグラウンドなのでしょうか、オリジナル・ストーリーでもレンタルコミックが出ていました。巻き髪やドレスがお上手でとってもロマンティック

   ジャンルは古き良き時代の偽装/契約結婚もののようです。ハーレクィンの公式あらすじは以下の通り。

   「私と結婚していただきたいのです」レベッカは“財産狙い”の結婚詐欺師と噂のウィルにそう切りだした。見せかけの夫をつくること。それは莫大な遺産を相続したせいで舞いこむ縁談に困り果てた彼女の苦肉の作戦だった。男をよせつけない“氷のレディ”からの突然のプロポーズにウィルは驚くが、亡き父の借金を返済してもらえるのはありがたい。監獄送り寸前の評判も払拭できればロンドン社交界にかえり咲くこともできるだろう。かくして一大偽装結婚は動きだし……!?

   ものが日本だと地方のお嬢さんが実家に呼び返されて見合いってのは一昔前のよくあるエピソードですが、分からず屋の親の出してきた命令とか親戚の遺言により遺産相続に条件がどうとかで、期日を決めてこの日までに結婚しないと財産が入らないってネタは結構ハーレクィンでは常識です。それに、ヒロイン側に、親が騙されて借金背負ってたり、思い出の家を手放さなくてはならなかったり、家族の入院/手術費用が必要だったりしてお金に困ってる事情とコンボで、そういう契約結婚はジャンルとして成立してます。そんで、ハンサムだけど分からず屋だったり、過去に誤解から行き違いのあった相手と恥を忍んで結婚して、心を通わせていって名実ともにベストパートナーとなるハッピーエンドが待ってるわけですな。毎度楽しませて貰っています。

   今回はヒーロー側から話がはじまっていて、ハンサムだけどヘタレでなにかというと横座りになって涙にくれつつ親友の弁護士君に愚痴る彼が、ミステリアスな美女と逆玉婚にこぎ着けて、彼女の事情を曝いていって相思相愛になるまでを描いていて楽しかったです。

   面白かった理由は、
   1) ヒーロー、ウィルくんがいいヘタレ
   ハーレクィン・ヒーローはセレブで成功者なので(時々貧乏国の王子だったりしますがそれでもそういうときは地位だけはあります。今回のウィルくんもどちらかというと後者)、「俺様!」で高圧的、人の話を聞かなくてイライラしますが(ハーレクィンではそこが話を進めるポイントなのである意味しょうがない)、ウィルくんは自分に自信のないヘタレなのでちょっとホッとします。母性本能を刺激される、とでもいうのでしょうか。それでいて、借金を全部自分で背負ってか弱い母妹を庇い通していたという事実には、だからこそ、感心させられます。いちいち落ち込むので、最初大丈夫かと思っていても、クライマックスではならず者相手にボクシングで渡り合ったりするので、逆にギャップが好もしいです。
   観劇の場面ではヒロインを庇って、女性を尊敬・尊重する啖呵をきったりもできますしね。
   その時、手ひどい振られ方をした後なのに、もとカノを持ち上げる言い方をしたのはエレガントでした。今カノの前とはいえ、元カノを下げる発言は見ていていいもんじゃありません。そういう、人間としての立ち居の美しさが彼にはありました。

   2) ヒロインのレベッカが凛々しい。
   対するレベッカはひたすら凛々しいです。もともと従妹の交際相手として見知ってはいたようですが、金目当てに心ならずも機嫌をとっているウィルくんの心情を察しながら、逆玉ねらいなんかするひとには見えない、と人を見る目もありそう。
   DVをする資産家の父のもとで悲惨な少女時代を過ごし、父の死後は遺産目当ての求婚者を退け続け、「氷の貴婦人」とまで言われるようになったというのは、書くのは楽ですが実際そう過ごすのはかなり大変だったと思います。バッスル・スタイルで鉄道も電信もある頃って言うと19世紀末ぐらいですか、まだまだ女性の行動の自由はなかった頃と思いますよ。そこを理性的に、「変わり者」とか、「女性解放活動家」とか言われない程度に社交をこなしながら強かに意志を通して独身を貫いたのは相当頭が良く、意志も強かったと思われます。「氷の貴婦人」というのは、ギリギリのあだ名だったかも知れませんね。
   自由を守るために偽装の夫としてウィルくんを得たあと、彼の体面を守るために、
   「彼は逆玉ねらいなんかじゃない、だって英国一の大富豪のわたしのことを振ったくらいだもの。実はずっと憧れていた。彼が従妹と交際していたので、二心を持つのも失礼と思って、他の求婚者を退けていたまで」と観劇の席でお芝居をして見せ、ロマンティックに演出して女性達の好意を勝ち取った辺りはどこまで計算していたか不明ですが、とりあえず読んでいるこちらはスッキリ! &うっとり! しました。
   ウィルくんが彼女への愛情を自覚し、男として正々堂々求婚できるようにと去った後も、彼の真実の姿を見極めるために、辛いだろうに彼を捜して旅立つところも凛々しかったです。そう、行動力ね。冒頭、ウィルくんが逆玉ねらいがばれて元カノのうちを叩き出されても、その日のうちに彼を拾いに行くぐらいパワフル。逆プロポーズ(時代背景的に有り得ない!)は一応翌日。レディなのに。
   そんでもって、田舎で肉体労働に疲れたウィルくんを追っかけて追いつくぐらいに逞しいしね。
   まあ、ハーレクィン・ヒロインはだいたいが逞しいですが、レベッカさんは心が強く、理性的というところが魅力でした。そんでもって美人だし。

   というわけで、ハーレクィン的に有り得ない! ストーリー展開でしたが逆に楽しませて貰いました。もう10点のところ15でも20でも付けたいぐらい!

   ただ、タイトルが、「罪深きワルツ」ってどうよ? 「罪深き」で偽装結婚というところを暗示しているのでしょう、そこをこそ見込んでわたしも手に取ったのですが、ワルツ踊ってないじゃん。啖呵を切ったのはオペラの劇場の広間ってゆーかホワイエっていうんですかね、席に入る手前の、あらごきげんようととかお互いあいさつする辺り。その後社交シーンはなくて、彼の書斎でウィルくんが親友相手に愚痴ったりするだけ。もしかして、かれの愚痴にあった「紳士と淑女としてデイトするだけ」の内容のエピソードが具体的に原作にあったのかも知れませんけど(そこはイメージ・シーンとしてでも入れといて欲しかったなあ、目の保養として)。社交界ではベスト・カップルとして認められ、今宵も華やかにステップを踏んでいるけれど、実際はちがう、彼の借金を返し体面を守り、彼女が望まぬ結婚を強いられ、おぞましい男と触れあわなくてよくするためだけの偽りの関係……的な葛藤の独白があってのタイトルだと、もっとタイトルとの親和性があって錦上花を添えたかも知れません。以上余計なお世話。

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