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2013年5月 2日 (木)

「11人いる!」 ― 古典はやっぱり古かった ―

   そういうわけで娘の借りてきた「11人いる!」萩尾望都をウン年振りに読み直しました。初読はもしかして雑誌掲載時かもしれません、カラーページに見覚えがあるから。’76年の文庫になったときに一度まとめて読んで、’86年に映画になったときにたぶん読み返して。それで虎美の借りてきたのは’94年版らしいです。ウィキペディアありがとう。

   フロルがあんまり女の子女の子してるのでびっくりしました。

   フロルはたしかにヒロイン・キャラなのですが、生物学的には第二次性徴前まで両性体の種族で、分化前の両性状態、大学合格が(世間の通例に逆らって)男性を選択するための条件であったので、合格にムキになるし、男性らしくありたい(そして自分の肉体の現状はそうではない)と思いこみすぎて周りとトラブルを起こす問題児なのです。このフロルと、主人公で、最終試験の会場、宇宙船白号と過去にいきさつのあるタダとが当初から悪目立ちして、チームの中心、腕試しのために受験に来たとある国の青年王マヤ王バセスカ:王さまに目を付けられて精神的にも肉体的にもきつい試練を受けるという筋書きなのですが。

   初読のときは、美少年もどきとして好意的に見られたフロルですが、今見ると実に痛々しいです。ヘルメットを取ってお互い顔を見せる初対面シーンから、豊かな金髪を揺らして登場し、一同の注目を集めておいて、「女性!」という驚きの声に
   「オレが なにーっ!?
    どこが女に見える!!」と側によって取りなしたタダに食ってかかるのです。

   ここのところ、76年版では、「女性が最終試験に残るなんて……」的な台詞(たしかアマゾン)のあと、タダのとりなしは「女性だって優秀ならいたっておかしくない」というようなものだったと思うのですが、「男性(マン)チームって言ってたじゃないか」(大意)に、「女性も人間(マン)だよ」というように変わってました。ここんとこ引っかかったんですが。あとの方で岩石人間とか出てきますから、よその星系では非人間タイプの宇宙人もいたんだろうかと30年の歳月を考えてしまいましたが、別の事情のようで。今回の注目点もここなのよ。

   発表時は、こういう「国際的」な試験に臨む女性が少なかったということを反映していたのではないかと。

   今こういうSF的な話を描くとしたら、女性が一人もいないチームって有り得ないでしょう。あ、少女のそういう趣味向けのジャンルは別として。
   「宇宙兄弟」は、NASAの宇宙飛行士のセレクションの話だったと思いますけど、女性いましたよね? 「プラネテス」はあれは実務に就いてるひとだったけど、いたいた。目の保養的にも、ジェンダー的にもいないと成立しないと思います。

   でも、当時は、「女の子だ珍しい!」が目くじら立てられなかった時代だったという証拠の化石のようなものになってしまっていました。ウィキペディアによると、その続篇の「東の地平・西の永遠」では宇宙大学では女子の学生(作中は生徒と呼ばれていたような)も相当数いたので、つじつまを合わせるために、的なことを書いてありました。確かにそれもそうだ。

   その後のフロルの言動を見ていくと、自分が男性的でないと見られることに敏感で、いちいち突っかかっていくのでとうとう王さまに「やつにかまうな」と言われてしまいます。そうでなくても感情的で、自分を中心にしかものを考えられない、行動が直感的で論理的でない……といった特徴が見られて……なんか嫌な意味で女の子じゃん。
   ただ、孤立するタダに対する面倒見がよかったり、性格がからっとしていて単純なのは重いサスペンスの中で救いになっていました。容姿も可愛らしいしね。
   陰口をきくとか、内にこもった悪意の表し方をするとかいった、嫌な意味の年頃の女の子っぽさはなかったです。フロル自身、そういうのを見て「女なんてクズだ」と男性化を求めたのかも知れませんから。
   ’86年に映画化されたときに余りにも美少女っぽく描かれていて、監督が映画のパンフレットの中で「フロルを男になりたい女の子として捉えました」って言ってたのにショックを覚えたのですが、今となってみれば確かに、無理に男っぽく振る舞おうとしている痛々しい年頃の女の子で合ってる気がします。
   あとはとくに女の子らしい特徴は出していなかったから、当時の自分としては受けいれられたんじゃないかと思います。料理が得意とも、逆に(得意であるべきなのに)ヘタとも描かれていなかったし、ガンガの事故の際も、執刀するタダの助手を、とくに気負わず「TVで見ただけ」のキャリアで勤めてましたし(あとの連中はそれ以下だったのであろう。そういえばあのメンツは医療系弱い感じ。よく生き残れたな)。あれは「仲間」の危機にできる協力は何でもする気持ちの表れだったんでしょうね。女の子だから看護とかそういうニュアンスは欠片も感じられませんでした。……それにしてもたしかに王さまは指示するだけで具体的なスキルのない能なしだな。

   続篇の「東の地平・西の永遠」になると、4世の妹チュチュはいよいよ「女の子」で困っちゃう! 最初長いドレスでお花を摘んで登場し、伝え聞いた噂を検討せず兄にぶつけて悩ませる、悲劇のあとは短絡してみごと黒幕に乗せられ、国際紛争の場で悲劇の女性という道化を演じさせられる。負の感情をそのまま相手にぶつけてしまう。とにかく主観的、感情的でもうヘキエキしました(それはタダ側の敵として描かれていたせいもあるけれど)。事態の重さに硬直し黙り込む男性陣に対し、そのチュチュに食ってかかっ真実を告げたのがまた「感情的」なフロルだったのがもうなんて言ったらいいのか。やっぱりフロルの直情は男女を超えて得がたいものと言うことなのか。
   映画化の時に、これに続いて続篇ももっと脚光を浴びればいいのにと言ったら、先輩は「こんな暗い続篇はアニメにしなくていい」と苦笑していた気持ちが今にして解りました。板挟みの4世もどんどんドツボにはまる王さまも可哀相すぎる話だったよ……。ハッピーエンドも、当時はホッとしたけど、今は、そんなクソ女に引っかかるなーとか思わず叫んじゃった……。

   今のSF作品でこういうヒロインを出すとちょっと、古くさいとか言われちゃうんじゃないかしら?

   「ブレーメンⅡ」川原泉は、これも一昔前の作品になっちゃいましたが(1998~2004)、ヒロイン(というのもなんだかな気がする)キラ・ナルセは、イレブンナイン(99.999999999%の正確さという意味)の異名を持つ冷静沈着な女性宇宙飛行士で、若くして所属会社の最年少船長となる優秀さを持っています。まあ川原作品なので、ちょっと情緒に乏しいです。動物に生体改造を施すことによって人間との意思の疎通、作業の補助を行うことを可能にしたブレーメン(働く動物たち)にも柔軟に対応して、お互い信頼で結ばれ、いろいろトラブル続きの処女航海を終えるまでに至っています。
   この作品に至っては、感情的でよく考えずにトラブルを次々引き起こすのは男性であるバカ社長、ナッシュ・レギオンの方なんですね。ま、この人は帝王学が行きすぎて壊れちゃっていて、気まぐれな子供っぽいところをキラにしか見せられないという川原ワールドな設定があるにせよ。

   少女漫画も時代が21世紀になると、女性の船長がいても「当たり前」、女性が冷静沈着でも「そういう人もいるでしょう」。まあ変わり者という設定ではあるけれど。武器の扱いに長けていても、電子機器の操作に慣れていたり、コンピュータの権威であっても珍しくない。そういう設定のSF作品、そこら中にあるでしょ? 少女漫画でなくっても、ライトノヴェルでも、少年向けのアニメだって。

   それは、作品が発表された’75年のころとは時代が変わって、女性がさまざまな分野で 活躍して、地位を占めてきたことの現われなんでしょう。超難関の宇宙大学の入試に女子が挑んでも当然。意志と能力と努力があれば、船長にも博士にもパイロットにも閣僚にも大統領にもなれるんです。がんばってくれた皆さんありがとう。あ、受け入れてくれた、支えてくれた男性の皆さんもありがとう(これ大事)。

   そういうことを考えてみれば、「11人いる!」はやっぱり「昔の作品」なんでした。悪いって言ってるんじゃないのよ。時代が変わったことを表わしてくれているんだって言ってるのよ。

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コメント

 >少女漫画も時代が21世紀になると、女性の船長がいても「当たり前」、女性が冷静沈着でも「そういう人もいるでしょう」。
「当たり前」っちゅうか、手の届く夢になってきたってことよね。「当たり前」だと主人公の特徴がなくなっちゃうから。
 女の子のプロ野球チームだってできたそうだし(「メイプル戦記」はONが揃って監督やってた時代の話だ)。
 ほんと、いい時代になりました。

投稿: まいね | 2013年5月 2日 (木) 16時10分

女性の船長や船員というのは嘗ては考えられなかったそうです。
これは、船自体が“女性”なので、乗員に女性がいると嫉妬すると言われていたため。
後、女性宇宙飛行士も、単になり手が少ないだけで、公募に応じれば大歓迎受けるはずです(資格は医・歯・薬・理・工、つまり数学科以外の理系大卒であることだそうな)。

投稿: | 2016年9月 3日 (土) 21時29分

 あーそうか、能力じゃなくて社会通念的に。なるほどなるほど。鉱山とか、トンネル工事とかも、山の神が嫉妬するとか言いますもんね。今はその辺どうなんでしょう?
 リケジョの向こうを張って、土木女子、ドボジョというのを流行らせろうとしているらしいですけどね(語感が最低。ドジョウとオコジョのミックスか)。コッコーショウのお仕事去年しまして。HPで見ました。女性を活躍させようとしてるらしいけど大丈夫なのかしら。人手不足は禁忌を簡単に凌駕するのか。

投稿: まいね | 2016年9月13日 (火) 20時47分

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