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2013年4月26日 (金)

「最遊記異聞」 11人に候

   リロード、ブラストと来て終わらなかったのでもう金輪際「最遊記」は読まないぞと心に決めたのですが、虎美買って来ちゃってさ。異聞て何よ、あの三蔵の師匠の若い頃って、あんさんこれ以上まだ「最遊記」で商売するつもりですかと冷たい目でページを開いたところが。

   面白かったじゃないの。

   ええと、「最遊記」本編の三蔵は本人が作中よく見得切って名乗っておるように、「唐亜玄奘三蔵」なわけですが、彼のお師匠が光明三蔵なわけです。この世界観では、世界を開いた天地開元経文を5分割したそれぞれを守護する最高僧の称号が「三蔵法師」で、その5人の三蔵法師の継承権をめぐって修行中の光明(峯明)の若い頃のお話、ということらしいです。まあ、チャイナファンタジーっぽいっですが、いろいろ本篇からカオス(三蔵法師が金髪だったりその最高僧がどーどーと妖怪相手とはいえスミスアンドウエッソンをぶっ放したりクレジットカードでレストランのお会計が済ませられたり「西の大陸」のキリスト教徒とおぼしきヨコモジ名前の連中が出てきたり)なので、あんまり気にしない方が楽しめます。

   本篇では高僧らしいものにこだわらないところと確かな人を見る眼を持っておったように記憶してますが、お師匠様(峯明)は若い頃はなるほど問題児だったみたいです。第一回目では、総当たりの模擬戦の真っ最中、木の上に逃げて体力の温存を図り、師範に見つかるや、なんの印も結ばず、真言を唱えることもなしにかなり造形の込み入った水竜を生み出して師範の攻撃を凌いでみせるのですから(ハガレンで言うならエド級だ)。学問も体術も最高水準に修めている文句なしの最高僧候補なのですが、……素行が悪いと。上述の通り訓練をさぼる、妖怪ながら難関に挑む(妖怪僧の受け持ちの経文があるので、一応妖怪にも門戸は開かれている)候補を差別する他の僧のいじめを看過せずに庇って喧嘩する、講義の時間は堂々と居眠り、宿舎の部屋のどこに寝るかをくじ引きではなく賭博で決めようとする、挙げ句の果てには同様に妖怪候補を生命の危機の域までいじめる教官をぶん殴って問責、再試験に掛けられる……。
   これはカッコイイ不良僧でしょう。

   最初は「あの問題児」、と冷ややかだった最終候補たちも、どんどん峯明の器の確かさを認めていくようになるのでした……。

   最終候補の11人をこんなに個性豊かに描けるのはすごいな、と言おうとして、あれ、11人……? 峯明をはじめ、「リーダー」に妖怪候補くん、「秀才」と「兄貴」のコンビ、解りやすい「お耽美」と「メガネ」、「ふとっちょ」に「ヤンキー」に「熱血」とあとは「オッサン」(個々の名前はめんどくさいのでパス)の11人です。最高僧候補なんだからもっとオッサン多くてもいいだろ。そこんとこはやっぱ少女漫画なのね。本人カヴァー袖のコメントでいぶかってましたが。

   そうか、これは「11人いる!?」のオマージュの面もあるんだと気がつきました。ネタバレしますからごめんなさいよ。

   萩尾望都はキャリアが長すぎてどこからが中期なのか良くわかんないですけどまあ、初期の傑作SF。超難関の宇宙大学の入学試験に臨んだ主人公たちが、最終試験で10人一組の実技テストに臨むことになる。指示に従って集まった部屋には、なんと11人いる!? 伝達ミス? しかし、最終試験は始まってしまった、これから入試センターに接触するのは不合格となる。主人公達はどうして11人なのかという謎もさることながら、当初からのテスト項目なのか、さまざまなトラブルの仕掛けられた宇宙船の中で定められた期間集団生活を強いられる……というサスペンス。 

   そう思ってみると、最初から優等生として現われた「兄貴」と「秀才」のコンビはああ、王様と4世だ(正しくは「秀才」の方が王様であろう。能力はあるがプライドが高く狭量)、じゃあ、彼らを攻略して心服させれば物語的には終わりなわけねーと納得。ひとり人生経験豊富な様子で皆を落ち着かせてくれるカーネル(あのチキンやさんの看板人形のような人の良さそうな容姿、だからそういうのを登場人物が言っちゃう世界観)は、ああそういえば僧侶キャラがいたなーと得心。

   そうなると、「11人いる!?」のネタバレになりますが、大学側からのスパイというか試験官キャラは誰なんだろうとふと思ってしまって(「11人いる!?」では11人目は試験官で、議論を誘導したり不和の種を撒いたりして、殺し合いになることは避けつつできるだけ早くギヴ・アップさせようとする。もちろん個々の受験生の行動の採点もしている)。
   「兄貴」と「秀才」は、4世と王様の役どころだし、巻末に彼らは後年光明三蔵の側近になるとネタバレがあったので除外と。「カーネル」も、もともと「試験官かと思った」と何度も作中言われているのでないかなー。臭いのが、かえって最初から峯明とその妖怪候補に親身になってやってる「リーダー」か、関西弁キャラで、三蔵になりたい理由は金儲けのため、といっているが「本心は少し違うものと思われる」と書いてある太っちょくんかもしれません。いやわたしここの文、今確認のため読み返すまで、「真の目的は三蔵になることではない」と間違って記憶してて、うわーわたしすごいことに気付いた! って昂奮したけどそういう伏線には読めないですねここ。おしい。

   まあ、峯明くんが光明三蔵法師になることは間違いないので、今後どういうふうに仲間と心を通わせていくのかを楽しませて貰うことにします。まあ、あとは光明師匠は2つの経文の守護者であるので、今のところ唯一の候補者である妖怪候補くんを押しのけて彼の分の「魔典経文」も授かることになる謎が物語の本筋でありましょう(第一回の締めで後年の光明が唐亜に語りおこす形が示されている)。

   悪辣ないじめ師範をぶん殴ってしまって再試験になった峯明の処分をみんなが心配してそれぞれ反応を見せるところが面白かったです。
   居ても立ってもいられなくなって査問の席をのぞき見するのがふとっちょと「熱血」と「ヤンキー」。ああ、なるほど感情で動く派だ。
   「もともと俺たちは三蔵法師継承権を賭けて戦っている敵だ、助けてやる必要は無い」とうそぶく「お耽美」。
   「あの師範が私怨で候補生達をいたぶる前科があるというのは解っていたから師範の非道を訴えても無意味」と筋道が見えているのは「秀才」。でも、あんたら教官うけイイから事前に「あれは自分が脱落したから私怨でしごきをやるふしがある」ってネタバレされてたよね。だが、第1次試験で峯明にみんな助けられたろ、と筋を出してくるのが「兄貴」。
   「俺を庇ったために再試験なんだ、頼む」と頭を下げるのが妖怪候補くん。
   「1つだけありますよ、彼を助ける方法がね」と、待ってましたとばかりにカーネル。
   あーだこーだ言いながら、候補生達は1つにまとまりはじめます!
   (試験されているのは存外俺達の方かもしれんな)とふとその様子に感慨を抱く「リーダー」、ここはさすが。また、これを「リーダー」=教官側スパイ説でみると、うまいミスディレクションとも見えます。

   みんなの心がやっと1つにまとまって、峯明への助太刀(カンニング)作戦が始まります!

   だいたいその再試験がえぐい。天才であるが故に真言をほっとんど覚えていない峯明に科せられた再試験は真言の108種暗唱。いやーそんなにあるんですね。指を折りながらどんどん脂汗を垂らしていく峯明、残り5分になって、ふとすらすら唱えはじめます。
   ……何か変な匂いがしないか……?
   警護の僧がいぶかるうちに、とうとう時間いっぱいで108の真言を唱え終わり、見事峯明は許されるのですが……!

   カンニングは教官にはバレバレ。しかし、「リーダー」はじめ残り10人が心を1つに堂々と開き直って見せて、ここが一巻の盛り上がりどころ。一同は罰の掃除を申しつけられたものの、みごと裏の試験にも合格した模様。「兄貴」が、峯明がキレる寸前に「子供にも解ることをいい大人が揃って見て見ぬ振りを!」と自嘲して大笑して見せたのもあり、妖怪候補君を集中的にいじめていたのはいじめを見てみぬ振りできるかどうかの試験だったのかもしれません。そこらへん、「秀才」は頭がいいだけに冷たいところがあると自覚して先へ進んで欲しいものです。

   細かいですが、峯明が「眼を開けているのかどうか解らないほど眼が細い」という描写が地味に伏線。それまで目を覆っていた彼が、目から手を外したところから、カンニングによる巻き返しがはじまったんです! これは凄いな(笑)

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コメント

 と娘に向かって滔々と演説したら、虎ちゃんその気になって「11人いる!」を図書館で借りて来ちゃった。借りてくる方も方だがちゃんと蔵書にある方も方だ。おそるべきゲージュツ系甘木高校!
 後年出し直した方の文庫で、続篇の「東の地平・西の永遠」や、タダとフロルの学園生活を描いた短篇コメディも入っていてお得でした。
 それで虎ちゃんのお見立てでは「異聞」におけるスパイキャラはカーネルだそうな。うん、「秀才」のこと手当てしてあげてたしね。

投稿: まいね | 2013年5月 1日 (水) 00時44分

初めまして。
同じく終わりそうで終わらない西遊記は金輪際買うかっ!ヽ(`Д´)ノ
そう決意したものの、その決意が凝固しないうちに『最遊記異聞』に出会ってしまった者です。

自分の中でスパイ(紛れ込んでると予想される三蔵orそれに近しい者)は、ヤンキーかな・・とか(適当に)思ってます。
理由=11人が狐のお面を被っている場面で峯明、桃醍(リーダー)、妖怪くん(玄灰)、そして抄雲(ヤンキー)がきちんと被ってない・・それだけですがw
被っていない中で、唯一その後の足取りが分からない人はこの人だけかな~とw

峯明=光明
桃醍=剛内三蔵(大分禿げちゃってますが)
玄灰=天恢三蔵?(冒頭で桃ちゃんが叫んでる)

冒頭での魔天経文保有者であった玄灰が死にゆく?場面から推察し、その死に関わった峯明が遺志を受け継ぎ(玄灰の先視の遺言?や渡して欲しい人がいる等)一時預かっているのかなぁとか邪推してみたり。
読んだばっかりでテンションMAXの所こちらを発見したので勢いのまま書かせていただきました!

投稿: 南瓜 | 2013年11月19日 (火) 17時20分

 おや釣れた(^^)/
 いらっしゃいませ南瓜さん。拙い妄想に食いついてくれてありがとうございました。どこでも11人いるネタは見かけないので穿ちすぎだったかなーとへこんでいたところです。嬉しいv。
 狐の面ですか、それは見てなかった!
 峰倉さんもそういう伏線はキッチリしておられるようですからこれからが楽しみですね。

投稿: まいね | 2013年11月19日 (火) 19時45分

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