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2013年1月16日 (水)

「ワンパンマン」 21世紀に生き残る文豪

   ええとおかあさん今回は正当なレヴューの範疇を超えるかもなのでご理解ください。
   具体的に言うと、2次創作の方向・内容まで取り込んだ内容考察です。

   先のレヴューでもご紹介しましたが、「ワンパンマン」というのは、WEBコミックであるところのONE氏の「ワンパンマン」を、村田雄介氏によってリメイクされ、WEB公開のあとこの12月に紙媒体で単行本化された作品であります。強くなりたいという意志と自分を追い込むトレーニングで「人としてのリミッターを外した」強さを得たサイタマが、趣味で悪を倒すヒーロー活動をするという話。彼はむなしさや孤独と付き合いつつ他のヒーローと出会い、更に新たな敵と出会い、ヒーローとはなにかという問いに向き合う事になるのでした。

   最初は文字通りパンチ1つで敵を吹っ飛ばす爽快ギャグだったのですが、強くなりすぎてふと人間らしい感覚を失っていくとサイタマが自覚するあたりから、物語はなんというか哲学的な色合いを纏いはじめます。強くなりたかったはずなのに、力を手に入れても虚しい、正義を実行しても周囲から評価されない、自分は評価されたくて正義の味方になりたかったのか、ふと疑問に取り付かれるサイタマに、押しかけ弟子が現われます。

   押しかけ弟子ジェノスは、明確な目的を持っています。暴走したサイボーグに故郷を襲われ、家も家族も失い、自らも瀕死のところをサイボーグ化で生還した彼は、そのサイボーグに復讐を誓って独立して悪を退治しつつ情報を求めてさまよっていたのでした。群を抜いたサイタマのパワーに魅せられ、その力の秘密を教えて貰うために押しかけ弟子になるのです。

   彼は美形サイボーグなのに残念なことに頭がわるいです。

   サイボーグ化時点で15歳、現在19歳と申告してますが、その年頃の少年そのままに直情で素直は素直だけれど、物をよく考えないところがあります。戦い方も、自らの機能頼りで力押しばかり、悪の天才科学者のアジトに乗り込んでいっても、その地上8階のアジトを真っ正面から吹き飛ばしてしまって、サイタマに「えげつないなお前」と心から言わせています。ちょっと考えれば、直接破壊には手を染めていない助手とか事務員、拉致されて実験対象にされている生物などがいる可能性があったでしょうに。ま、いなかったんですけどね。もう不可逆な改造を施された一般人とかに、「もう楽にしてくれ」とか言われたら消耗するしね、それは見ない方が正しかったカモだけどね。
   そういう直線的なところがありますね彼は。サイボーグとしての記号かも知れませんが。

   そういう彼は、正しき引き立て役として、真っ直ぐ敵に挑んで油断したり機能が純粋に劣っていたりしてすぐにやられて手足引きちぎられたりアタマを爆風でアフロにされたりと毎回ひどい目にあっているわけですが。
   彼が更なる強さをもとめるのは良いとしても、パンチ一発で敵を葬るサイタマに弟子入りするのはまず間違っています。もっと戦略とかを考えて、やや劣る現有戦力を工夫してなんとか勝ちを収めるというやり方のヒーローか、そうでなければ登場済みの、武道の達人であるヒーローに教えを請うて、型を色々修めることで強さを磨く道を選んだ方が良かった気がします。そこに作者の哲学があるのかも知れません。策を弄して勝つようなのがヒーロー(物語の主人公ではなく、正義の味方として世界の規範たる人物)でいいのかという美学がね。
   サイタマは覚悟でリミッターを振り切ったので(彼の語るスクワット、腕立て伏せ、上体起こしそれぞれ100回ずつってのは作中ジェノスも突っ込む位に普通のトレーニングでしかないようです。わたしもダイエットでスクワット30回ぐらいならやってたし。それを朝昼晩なら100回はすぐだ)、サイボーグたる彼に援用できるような秘訣ではないのです。いえ、彼は脳だけは人間なので、覚悟というなら覚悟だけは彼にも取り入れる余地があるのですが。困ったサイタマはそれ(ヒーローとしての意識を持つ)を提案して彼の怒濤の押しを振り切ったようです。

   で、そういう容姿が整ったサイボーグであり、主人公サイタマに純粋な憧れの感情をあからさまにするジェノスに、読者の方は解りやすく食いついたわけですね。ええ、BL2次創作の対象として。ああいうのは、登場人物の関係性に萌えるものなのだそうで、必ずしも容姿が整っている必要はないそうですが、ジェノスはイケメンサイボーグですから。まあ、気持ちは解ります。もともとサイボーグとか機械の存在が、ないはずの感情、とくに恋愛感情を持って悩むというのはありがちな話ですから、そっちの方で話を展開させるひとはいくらでも出てくるわけです。いろんなファンが、サイボーグの彼(とそれを見るサイタマ)が不思議な感情を持てあます様をさまざまに描いてくれていて楽しませて貰っています。

   2次とはいえ、その関係性を昇華させたものには見るべき物があります。ちょっと際どい表現が入っていますので、お嫌な方、免疫のない方にはお奨めしませんが、以下の作品はなかなか双方の内面を掘り下げていたように想いましたのでご紹介しておきます。
   http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=manga&illust_id=32875546
   ピクシヴ登録、「あさみず」さんの作品。原作にない同性愛的関係が描写されていますのでご注意。

   少年の想いを突き放すべきなのに、それができない、相手役の方も、もどかしいなにかを抱えていて悩んでいて、想いを向けられて、ほんの少し嬉しく思う気持ちもあり、いけないと思いながらも相手をしてしまう……なんだっけこれ、どっかで見た覚えがあると思ったらアレだよ!

   「三  四  郎  」! 漱石の!

   自分で読んだときにはなんだこりゃ意味不明! という美禰子のあれは、自分がノノミヤだっけ? 先輩とうまくいってなくて、もういい加減関係を切って親の言うとおり嫁に行かなきゃならない鬱屈を三四郎で晴らしていたんだったそうで(大塚女子大学国文学講義講読より)。本気になるつもりはないけど、三四郎を振りまわしているとその初々しさがかわいくて面白い、いけないことと知りつつ構ってしまう……あとで事情を聞いて三四郎はああ、迷子ってそういうことだったんだ、と得心する青春のもやもや。

   原作者はそういうつもりないとは思うけど、読者はサイタマとジェノスの関係性にそれを見つけて共感しておったのでした。

   文豪というものの強さを21世紀にして思い知りました。文学の普遍性というのはこういうものだったのですね。

   そして、ギャグ漫画としての体裁ながらそういうものを内包している「ワンパンマン」の世界の奥深さを、再びみなさんにご紹介したく長々書き連ねたわけであります。どうぞご一読を。   

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コメント

直リンクは許可取ってるのか?

投稿: | 2013年1月17日 (木) 22時46分

ああ、うん、だいじょぶ、多分。

投稿: まいね | 2013年1月19日 (土) 03時19分

 更新ありました。
 2週間あけて、予告からさらに一日取っての更新もこれはむべなるかな。
 オリジナルのインターミッションを取って、物語は隕石破壊篇へと入り、サイタマとジェノスは他のS級ヒーロー達と関わっていきます。まず登場は3位のバング。原作の現時点で一番まともなヒーローでありましょう(次点は無免ライダーであろう)。自分で道場も構える武道の師範で、「温厚」との記述もされています。地上激突35分前と告げられた巨大隕石の破壊、かなわぬと見えて他のS級ヒーローが全て(ジェノス以外)姿を見せなかった墜落予測地点に現われ、任務を果たそうとする姿はこの登場シーンだけでも「いいじいさん」と強く印象づけられました(そんでもって「バックレた」他のヒーローについても淡々と語っていて人格者としみじみ解る)。
 この冒頭、サイタマとジェノスがのんびり日常を過ごしているゴーストタウンからずっと鳥瞰になっていって宇宙空間にまで到るカメラワークというかその描き込みが、濃い15日間をお使いになりましたねありがとうございますという気持ちにさせられます。ご馳走様。
 そんでもってジェノスのパーカに鹿+金というような字が書いてあって、それが「みなごろし」という漢字というのにはじまる小ネタがまたすごい。全身全霊で楽しませていただいております。

投稿: まいね | 2013年2月 2日 (土) 01時56分

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