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2013年1月 2日 (水)

「ワンパンマン」 スキッと解決!?

   とりあえず作品じたいの魅力とかについては後日になるかも。

   堂々完結の「バクマン」は、いろいろ面白かったけど、あれは大場つぐみが漫画原作者だってところが実は強く出ていて、漫画家としての苦労ポイントが「面白い話を作っていかに他の漫画家と勝負し、読者を魅了するか」の分野に限られてたような気がしますよね。
   実際自分もペンを握って絵を描いてる漫画家なら、素人でも思いつく限りで、
   「ああッ初期の恥ずかしい絵と今の絵を比べないでッ!」という魂の叫びをどうごまかしてプロとしてやっていくか、
   「ヒロインの私服がダサイ」と言わせないためにファッション誌を買う恥ずかしさをどう乗り越えるかとか、
   「やべーアシスタントさんの方が絵が巧い」というコンプレックスとどう付き合うかとかもあると思うんですけど、そういう絵についての悩みは一切無かったですね。作中の真城くんはとっても絵が巧くて、さらに超人のように努力して絵を早く描いたりするスキルを確実に上げていってました。そーいやー、美大生のアシと知り合って、下書きを軽めにすませてペン入れする方法に開眼して時間短縮に結びつけてましたかね、絵についてのエピソードはそれくらいしか思いつかないですよ。

   結局漫画家は大変、でもなにかに打ち込むのは楽しい、という表テーマとは別に、いい漫画ってのはストーリーがちゃんとしてるもののことだ、漫画(原作)家がそれに全てを賭けている姿は尊い、ってのがあったように感じますけどいかがでしょう? 少女漫画家だった青木嬢は絵が少年漫画向けじゃないということで作画の人を付けて貰ってジャンプで再デビュー、結局そのひととは決別して自分で絵を描くようになったけど、女性らしい細やかな心理(ラヴコメ?)描写でそこそこヒットを飛ばす、みたいな話の流れも脇筋であったでしょ? ただ絵が巧ければいいというメッセージはほとんど無かったと思います。

   そこには永遠のテーマに対する答えがあったと思います。

   「漫画というものは、絵が主体なのか、物語が主体なのか」

   それは、手塚御大がただの面白おかしいポンチ絵をつなげて、映画のようなストーリー性をもった芸術に押し上げたそもそもの発端から既に答えは出ているわけですが。

   「漫画は作者のメッセージ(哲学的、文学的ものから娯楽性を重視したものまでさまざま)を視覚的に読者に伝わるように絵画表現を進化させたものであり、それを欠いては漫画たり得ない」と、とりあえずわたしはそう定義しますね。

   究極の選択、絵は一こま一こまため息が出るほど美しい、パースの狂いもなく、デフォルメも適度でリアルな絵とも違った魅力がある、けれどストーリーは行き当たりばったりというか読者置いてけぼりで何が言いたいのかわからない、という漫画と、絵はヘタクソで等身がおかしい、ちょっとその上半身でその足の長さは人類じゃないでしょとかその動物はええと犬ですか猫ですかみたいな絵でも、起承転結がしっかりしていて、ぐいぐい読者を引き込んで泣かせる、笑わせる漫画とではどっちがいいですかって話。
   絵の下手さにも依るけど、わたしは後者の方がまだ好きだなあ。

   だから、「バクマン」のストーリー至上主義にも頷けていたんですが。

   片や、ネットで話題の「ワンパンマン」。「アイシールド21」の作画の村田雄介さんが、ネットで連載をしていたという原作をリメイクしたというもので、余りにも強くなりすぎたヒーロー志望の青年が、五月雨式に来襲する「怪人」どもを文字通りパンチひとつでやっつけてむなしさに取り付かれる……という話です。
   絵が凄いです。
   もともと「アイシールド21」でも、絵を描くのが好きで好きでしょうがない! といったサーヴィス精神にあふれた作風だったんですが、強さの代償に頭髪をうしなってしまったヒーローの素朴~な顔をギャグ・シーンはかわいく、シリアス・シーンでは男前に描いてくれてます。怪人の造形も確か、度重なる来襲に荒廃した都市のさまも巧み、戦闘のシーンもスピード感に溢れていて、ああ、こんないいものをネットで無料で見られるなんていい時代、やっぱり電子と紙とではもう電子媒体の方がありがたい……と思うところだったのですが。

   原作の方も見られると伝え聞いて、じゃあ原作のONE氏の「ワンパンマン」も見に行ってみたんですよ。ストーリーの先が楽しみだったので。
   「小説ではない。ネーム(下書き)レヴェルでもない。殴り書きのようなコミック形式である」という噂だったのですが、確かに一応コミックの形式でした。コマ割りがあって、吹き出しでちゃんと台詞(も説明)も入ってる。
   原作も凄かったです。
   絵はたしかに殴り書き、というよりは、ちゃんと描いているけどスキルがそんなに高度じゃないという感じですが、それなりに漫画の作法は心得ている感じです。立て続けに無茶を言って迫ってくる相手(弟子入志願の少年ジェノス)に、主人公ワンパンマンが一言ずつ言い返すシーンがちゃんとユーモラスな対比で描かれていて、秀逸。

   ハッキリ言って、この絵でもじゅうぶん面白いです。

   生き生きした個性的なキャラクター。とんでもない世界設定を信じさせる話の運び。押しかけ弟子ジェノスくんの情報からどんどん世界が広がってゆく物語の進め方。それぞれがそれぞれに問題を抱えていて、それでも生きてゆかねばならないというほろ苦さを、怪人と、それを退治するヒーローたちという世界観に集約させた物語の構造。これはとてもよく練られた話です。原作もネット連載継続中で、実に楽しみです。

   読者は、原作版でストーリーを楽しみつつ、村田版でそれがどう絵に昇華されるかを楽しんでいるようでした。
   村田氏は原作に忠実な性分のようで、一こま一こまのアングルなんかは結構原作のままだったりするので、あのシーンをこの画力で描くとこうなるか! とファンはもう感動しまくっておるようです。前述、ジェノスくんの押しかけシーンでは、
   ドサッと背に負った大荷物を下ろしておいて、
   「ここに住んでもいいですか?」と弟子入り宣言する金髪のサイボーグジェノスくん。
   「うん」 「絶対ダメ」と青ざめつつ二言で返すシンプルな顔だちのワンパンマン(サイタマ氏)。
   モノローグでは、「マジかこいつ」とどん引きしています。
   ページは見開き左に移って、まったく同じコマ割りで、同じく、
   ドサッと万札の束(10万どころではない、おそらく100万であろうという塊)を置いて、
   「部屋代払います」とやや顎を引いて凄んでみせるジェノスくんです。
   「ちゃんと歯ブラシ持ってきたか?」と顔の影が消えて、冷や汗をたらしつつもすぐに日和って受け入れる、そのサイタマ氏の小人物ぶりがクスリとさせるのです。
   これがまた、原作通りで。それをすぐウェブで見比べられるのがまた凄い! そして、ファンは、
   「あの原作の名シーンはどうなるの?」と期待しておると。

   「漫画はストーリーが命、しかし、それを活かしきる絵があって優れた漫画たり得る!」ということになってしまいました。

   あと、クリックでページをめくる感覚のネットコミックなので、かちかちやっていると戦闘シーンなどはパラパラ漫画のような楽しみ方で、本当に動いているような躍動感を味わえます。またこれがネットで公開されているものだから、勝手にデータを使ってほんとにそれなりのソフトを使ってつなげて適当に効果音も入れて、動画にして然るべきところ(ええと、ニコニコ?)で流しておるファンもおったり。おいそれチョサッケン……でも実際見ましたが溜め息出ました。ここんとこは、絵描きさんご苦労さんと心から言えるところです。

   ……とまあ、ネットならではの楽しみ方のできる作品なんですが。

   それが、この12月に単行本化されまして。
   アホなの? 頭固いの?
   無料でネットで誰でも読めるものに、なんでお金払って買うの?
   入院中のよい子(病院でもネットってできますか?)にでも見せるの?

   買う奴いねーよと思っていたら、なんと、ネットのそこら中で、
   「ワンパンマン買ったよ! 凄い!」
   「ワンパンマン読んだ!」
   「ワンパンマン買いに行ったら売り切れだったよ」
   「アマゾンでもだめだったよ」という声が響いていて。

   おいマジかよとおかあさんはそれでも腰を上げなかったのですが、
   「加筆が凄い!」というのと、
   「おまけページで××とサイタマの過去が描いてあった」というのとでとうとう昨日買いに行きました。即行重版がかかったようで、わたしが買い求めたのは2刷でした。

   「ネットでただで読める作品を金を払って紙の本を買って読むファンは存在する」ということになってしまいました。
   まあそれは、うちでは加筆とおまけがあってのことでしたが。
   シンプルライフからまた遠ざかってしまったぜ。

   「おかあさんこれ友達に布教していい!?」
   「いいとも、せいぜいファンに引きずり込むがよい」

   こういうことかな。あとは、ただで楽しませて貰ってすいませんという罪悪感かな。

   とりあえず、まだまだ紙の単行本は生き残っていきそうです。

   そういう、最近の漫画界の問題を2つもスキッと解決してみせた(?)名作ですことよ。とむ影さん、今度お送りしますからどうぞお試しください。その他のお友だちも、是非お声がけください。

   

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コメント

 あー。虎美がさらに先輩からお奨めされたとか言って「ホリミヤ」を買ってきやがって。これも、ネットでとおってもシンプルな絵の4コマ漫画作品としてシリーズ化されていたところを、作画を別なひとにして構成も多少変え、オリジナルな要素を付け加えてストーリー漫画に膨らませて単行本化したようです。
 原作はこちら→http://dka-hero.com/index.html
「堀さんと宮村くん」
 成績優秀、明るく親切でみんなの人気者な堀さんの放課後はみんなに秘密、年の離れた弟の世話でどこへも遊びに行かずに地味目にやつして「主婦」業をやっていたのですが、なんと怪我した弟を保護してくれたちゃらい少年はクラスメイトの友達いなくて暗そうな宮村君だった
!?
 クラスのみんなには秘密の「別な面」を共有し合った2人の距離は近づいていって……といったきゅんきゅんなラヴコメなんですが。
 物語が進んでいくと、お二人さんもお友だちもみんな変人なところが出てきます。堀さんはもう鬼嫁(とりあえず高校卒業して本編終了までは徹夜して読んだ)。どうしてここまで変になっちゃったんだろうとふと思いますけどね。まあ、みんな変に回りに合わせようとせずそれぞれ自分らしさを出して生きているから良いのかなと。時々胸が痛くなるような小さな事件もありますけどね。そこは青春だから。
 支持があるのも当然、と思わせる佳作でありました。

投稿: まいね | 2013年2月21日 (木) 03時02分

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