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2012年11月15日 (木)

「蘭陵王」 どぶ川に甘露2滴

   仮面の男イン・チャイナ、正真正銘の美形武人であります蘭陵王高長恭の伝記を、田中芳樹が書いたというなら読まずばなるまいッ! と買ったんですが、あまりにもその、中国歴史物スタンダードすぎてしばらく積ん読になってたのを発掘して何とか読み通しました。いやー登場人物多いし。そんで親類縁者多くて名前似てるし。銀(河)英(雄)伝(説)若いうちに読んどいて良かった、今だとあの大河(登場人物が脇役まで入れてン百人いるらしい)無理かも。

   ♪インシュウシンカンサンゴクシン、中国の王朝名を受験生向けに並べた替え歌です。「もしもし亀よ~」で歌います。ナンボクズイトウゴダイソウと続きます。その、みんな大好き三国志、の後。晋も滅びて北方は異民族が流入して南北朝になった6世紀の中国のお話。北斉の皇族にあまりの美貌に鬼面に顔を隠して戦いに赴いた武人がいました。ただ顔が美しかっただけでなく、勇猛果敢、そして、貴人としても真面目で教養高く女性に淡泊……。その彼と乱れた北斉の宮廷を牛耳る奸臣の娘とが出会って恋に落ちる……筈なんだけど。

   これは乱れに乱れた国が滅びる様を描く話になっていて、どれだけ蘭陵王様がかっこよくてヒロイン月琴様が爽快でいろんな戦いに一緒の2人が微笑ましくっても全然清涼剤にならない。合戦シーンもラヴコメシーンも血湧き肉躍らない。やばいわこりゃ。

   えーと、蘭陵王様は優等生的ハンサムで、完成されすぎていて取っつきにくいです。弟のわんぱく安徳王の方がまだ親しみやすいな。ご褒美に美女20人賜ったけれど辞退したとかさ。草食系過ぎ。せっかく月琴ちゃんが妾(実はスパイ)として潜入してきたのに手を付けないってのはどうよ? ユニークな月琴ちゃんのことを好ましいと思ってお側に置いてるのは解るだけにもどかしい。すでに正妃がいる身で(これも抹香臭い真面目奥様)、いくら自分が身分低すぎる生母から生まれていて少しそれをコンプレックスに思ってる解釈があったとしてもだよ。やっぱ不倫はいかんという価値観ですかね? 6世紀中国でそれを出すか?

   月琴ちゃんはこれは正しく田中ヒロインとして、頭が良くって正義の心はあるんだけどひとをくっていてチャーミングで(そんでもって武術の達人! でヒーローの役に立つ)、気持ちが良いのは良いんだけど、やっぱそこはエロスが皆無で。もう田中ヒロインにキュンキュンとかいちゃいちゃとかお色気とかは期待しないんだけどやっぱり残念でした。

   こんな国滅びてしまえとほんとページを繰る度に嫌になる北斉朝廷の腐りっぷりがそれだけすごかったです。漢の呂后とかさ、則天武后とか、伝説レヴェルのダッキちゃんとかホウジちゃんとか、ザンコクで乱れるときは激しいってのは知識としてはあったんですが、それを代が変っても延々やってるってのが信じられません。囚人とか、逆らえない人に対する残虐行為とか、気に入らないやつを陥れるときのクズっぷりとか。結婚できない関係の美人を攻略するときの方法とか、およそ文明人と思えない。そりゃ日本じゃあ奈良時代(以前?)だもんな、って失礼か。
   周囲の人間はなんで立たないんだ、正しい謀反(それを易姓革命という?)を行えよ。ホントに不愉快な王朝でした。

   こんなにお素敵な蘭陵王様が非業の死を遂げる。ご本人も、真に国のためを思うなら命を掛けて諫言すべきだったのに、軍功を上げることで国を守っている、国の役に立っていると思ってそれをしなかった、それが自分の罪、と認めていたのが惜しいと言えば惜しい。ただ美しくあるということは罪なのか。血に、泥に塗れても正義を行うべきだったのか。月琴ちゃんも、爽快に生きて、したいことをしてそれが正義という幸せなひとですが、それは小さな正義であって大きく世界を救ってない。本人は恋しい人と死に別れて心を引き裂かれる想いもしたでしょうか、淡々としているようで内心は後悔の嵐の後半生だったのでしょうか。なかなかしょっぱい作品でありました。

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