« スーパーで萌えるもの2012 | トップページ | 文学的キョコー散歩 »

2012年5月 2日 (水)

「姫婚オールアバウト」 こはいかに

   「ちょー」シリーズの野梨原花南先生の新作だというのですぐに(娘が)買ってきたのですが。

   バツイチ17才の市井でたくましく生きてるお姫様が今度は魔王の花嫁に!? というレッカ姫の冒険ファンタジーであるらしく。ちょうど、パパ上からのお召しの手紙を持ってきた伝令くんを巻き込んで、「どう見ても男」のメイドを連れて旅立つ……ってあらすじを読んで期待してページを繰ったら、その「どう見ても男」のメイドって、ほんとに男で(事情はあるらしい)、今流行りの男の娘(女装が似あってそこら辺の普通の女の子なんて足元にも寄れない可憐さの美少年)ではなく、怪力無双の武骨なもと下士官ちょっと直情径行ぎみ(?)の世を忍ぶ仮の姿だったのでした。今でこそメイドとしてのお仕事はこなせているようですが、最初は芋の皮も剥けなかったとか……それはそれでイケるな。いえ、最初はそりゃないぜセニョールと叫びました(年は幾つだ)。カヴァーとかにあったような「女言葉」は使ってなかったですね。「左様」とか、「ご立派でございました」とか、サムライとか軍人語かな。これはこれで面白かったですが。うん、イイよ! よくぞ裏切ってくれました。

   挿絵はこれが挿絵デビューの方らしく。
   おかあさんこういうイマドキ絵いやだわー(断言)。
   ラノベってのは挿絵が命なんですが(とくに最近はねー)、この作品だけは挿絵スルーして読みました。なくてもいいし。そこは野梨原クオリティ。はすっぱなもの言いでも、父王からの手紙を拝聴するときのレッカ姫の作法、街道の旅籠の朝の食事、お育ちのイイレッカ姫の前夫(どうも魔王の襲撃による嫁ぎ先の国の滅亡で生別らしい)の愛情表現、どれもこれも文章だけでうっとりな世界に引き込まれるので。かちゃかちゃした薄っぺらい絵は要らん。

   ただ、冒頭たっぷりカッコつけて現れた魔王側の最高指導者なんとか将軍が後半空気だったとか、ところどころうーん、と言うところもありました。ああ、誤字脱字っていうか、これはあからさまに人物名取り違ってるだろというところもありましたんで、担当編集者は猛省してください。結末の投げたような逆ハーレムぶりといい……ほんとどうしちゃったのよ(=此は如何に)。

   レッカ姫が嫁入りにあたっての苦行としての「竜のウロコ集め」、実際のドラゴンはそんなに怖い存在じゃないってのは小気味が良かったかな。「王子に捧げる竜退治」といい、その辺の、異形のものは退治されて然るべきというキリスト教的西洋ファンタジーのお約束を外した感覚は好きです。ドラゴンだって彼/彼女なりのルールで生きてるんだもんな、結婚のための箔付けとか手前勝手な理由で退治されたらかなわん。
   幼かったレッカ姫が魔王によって精神攻撃をされる辺りの描写そして、市井でたくましく癒やされたレッカ姫がそれに対決、克服する様は痛快。そうだ、辛いのは殴られたり蹴られたり電撃喰らったりなんやしらん炎で焼かれたりするだけじゃないんだ。
   ……そういうことを、ちゃんと描いてくれるから野梨原さんは好きなんだけど。
   今はそういうの、ファンタジー界のこととしてしか描けないんだなあ(青少年向け作品の王道としての話)。
   いや、ファンタジー界のこととしてでも、ちゃんと、人間として、相手のことを過分に強いとか正しいとか夢を持って対するんじゃなくて、ふつうの人間は酷いこともしちゃうし、カンペキでもないんだけど、それはそれで、根までわるいひともそういない。だから、人と付き合うのは程度の差こそあれ、いたい、つらいのが当たり前だけど、それを逃げちゃいけないんだ、踏み越えるとやっぱり温かい、……ヤマアラシの抱擁のようにね、ということを、描いてくれているので、野梨原花南は正しき少女小説家であります。

|

« スーパーで萌えるもの2012 | トップページ | 文学的キョコー散歩 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/138427/54609306

この記事へのトラックバック一覧です: 「姫婚オールアバウト」 こはいかに:

« スーパーで萌えるもの2012 | トップページ | 文学的キョコー散歩 »