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2012年5月30日 (水)

「流血女神伝」 豪華骨太ジェットコースター

   波多利郎さんから貸していただきました。「流血女神伝」須賀しのぶ。段ボールひと箱ひとシリーズって、なんて凄い。

   世は架空の世界、文明は産業革命以前の古き良き程度、世を生み出した恐ろしくも強い地母神的女神への信仰は薄れ、伝説となり、さまざまな国が勃興しては滅び、近いところでは10年前に古き良き伝統を守っていた隣国が滅びて、皇帝に嫁いでいた主人公の国の公女が娘共々命を絶ったとかいう話が昔語りになっているとかそういう時代背景。

   主人公カリエは、大陸中部の帝国ルトヴィア領の北の公国の山奥に暮していた普通の少女。いや、ちょっと好奇心旺盛で、ちょっとお転婆で、輝く美人じゃないけどおブスでもない元気な子、5才くらいでもらわれてきた養女であるというのがちょっと引っかかるところかな。
   ある日どうやら両親同意の下で誘拐され、激動の人生に踏み出すことになったのでした。

   歴史あるルトヴィア帝国、今は退廃して首都以外は治安悪化しまくり、国庫は破綻寸前なんですが、歴史あるだけあって一応皇帝を選ぶためにいろいろ手を打ってます。独特なのが、皇子宮制。帝位を望む皇子は生母の身分を問わず14才までに専用の独立した学術都市に赴いて、貴族どもの勢力争いから隔離され、帝王学を学ぶことになっているそうです。次期皇帝を選ばねばならない時が来たら、選帝会議が然るべきメンバーによって開かれ、選出されるという仕組み。面白いネ。結局、理想に燃えて出てきても、都の奇々怪々なる既存勢力に取り込まれたり、戦いに疲れたりして腐っちゃうらしいけど(物語開始時の今上帝はどうもこの例らしい)。

   どうもその、性格も生母の身分も将来有望な第3皇子、そろそろ期限が来て皇子宮に出頭しなくちゃならないところが、かなり病気でヤバイ状態で、彼が本復するまでの繋ぎに替え玉として出頭する、そういう国を謀るミッションの白羽の矢がカリエに立ってしまったというのです。
   待て。
   カリエ女の子なんですが。
   その辺は、まだ14、5だし。貴人はそうそう肌を見せないもんだからいけるって、ちょっと。
   カリエは田舎の猟師の娘なんですよ?
   ノープロブレム、今から詰め込みで教養とか作法とか武術とか仕込むし。ほらここに、年頃の女の子の大好物なハンサム武官。つきっきりで面倒見ちゃうよ。
   顔とか似てるわけないじゃん。
   それがまた、実の母が見て錯乱するほどに激似。(すげえ伏線!)

   絶対! 本復してカリエとすり替わり直すことはありえないと素人目でもわかる瀕死の第3皇子様は、ありえないほどいいやつで、その皇子様のためというのと、そのハンサム武官(皇子様命のトーヘンボク!)の鼻をあかすためにカリエはがんばっちゃうのでした。

   努力の天才である第一皇子は生母の身分が低いので、能力はありながら穴馬扱い、第2皇子も、生母の身分もさることながら、病弱なので選出されえない。生母が北公国の公女である3番目くんと、同、西公国の公女である生意気な末っ子くんが一騎打ちという様相を呈してきた皇子宮、でも、意外やオトナの思惑の入り込まない楽しい全寮制男子校みたいなノリになっていったのです。

   楽しい日々は続かない、恐るべき陰謀は密かに進行して、
   「おーっ! 末っ子デレた! と同時に○○○!? なんじゃこりゃ~~~~~~!
   絶叫のクライマックスの後、皇子達はしんみりと楽しい青春とお別れしなくてはならなくなるのでした。ここまで第1部「帝国の娘」。

   第2部では、ご本体たる第3皇子が亡くなって、影武者カリエも死ななくてはならなくなり、情の移ったれいのハンサム武官とカリエは隣国、砂漠の国へ脱出行、ところが、箱入りの2人は騙されて人買いに売られ、なんとその国の第2王子のハレムに入ることに……!?

   「勇午」なみに波瀾万丈の人生を送っております。なんやこのジェットコースター!?  でも面白すぎる! お~ろ~さ~な~い~で~! 2晩ほぼ徹夜(だいじょぶ、朝寝したから)で2部「砂の覇王」まで読み終わりましたとも!

   北の大国の男装の美女王女殿下、その弟の女装王子! 謎の美僧、カリエを護る異教の美女、くえない性格の砂漠の王子、ゴーカイな海賊、キレキレの海軍士官、黄昏入ってる砂漠の兄王子、まだまだ! 父母を謀殺されて国を追われた王女! 巫女姫の任を解かれて後宮入りした少数民族の美姫、カリエを逆恨みする側室! 

   

脇役陣が豪華絢爛! そして、それぞれが自分の信念で強く激しく生きておるのです。日々だらだらと我が身を呪いながらナニもせず生きているのは1部の皇帝ぐらいだ! しかも、2部で退位したらいきなり英明に戻りやがんの! どんだけみんなマジメでエネルギッシュなの!? この世界の貴人は怠惰ということを知らない!

   そんで、女性達がみんな逞しく激しいです。我が子が死にかけているのに、姉の産んだ子はこんなに健康で、こんなに生き写しで! と錯乱して恐ろしいことを企む皇妃はまだありがちとも思えましたが、権謀術数で王位を奪った北の国の女王といい、自分の娘には全てを与えたいと言いながら、自分の価値観を超えた幸せを掴もうとする娘を認められない貴婦人、逆恨みを果たすために後宮での出世を全身全霊で望む娘やら、謀殺された父母の恨みに報いるために現政権打倒(それって内乱でしょ、民草には迷惑)を企むもと王女とか、なんというか、まっとうな目標じゃないのにそれに真剣に取り組むところが凄いです。付き合いきれないというか、わたくしは甘ちゃんなんであんまり凝視したくないんですが、そこはそこで絵空事っぽくなくて流石と思いました。

   しかし、いろんな苦難を2人で乗り越えていくうちに2人の心は結ばれていくのねと思ってたらどっこい。とってもおいしそうなハンサム武官はただの添え物だったのでした。後半空気だった(クライマックス、砂漠の王子の危機に颯爽と現れたけど、そこは脇役の武将としてだから)。そこが一番意外。

   後宮に入り、出生の秘密を利用するために妃に立てられながらもずっと「こんな男みたいな娘にその気になるか」なんてカリエの貞操は守られていたんですが、終盤、波多利郎さんの所でも触れられていたとおりに、なんでこんなタイミングで!? というところで。
   ……そんなに処女性ってのは大事なもんでもないってことなんですかねえ?
   伝説の流血女神の生まれ変わり……ってふれこみ(シリーズタイトル!)の割りに、終盤そういう活躍はなかったんじゃないかな、ふつうの、知りたがりの元気な女の子が歴史の動くところに居合わせた、的な大河で楽しませてもらいましたけど。

   カリエはどこでも逞しく生きていて、冤罪で死刑になり掛かったり、お忍びで出た先で暗殺されかけたりはするけど、結局偽皇子様やら名ばかり正妃様やら、傅かれる生活ばっかじゃん、作者の方も「今回のコスプレ」とかあとがきで書いてましたが、いろんな格好をして楽しむ/ませる趣向がなんだかなーってカンジでした。まあ、お若いひと向けのエンタテインメントなんだから、そういう側面はあっていいのか。そうそう、時々まつりあげられちゃうことはあっても、あんまり、もて過ぎちゃって困る的側面はなかったです。

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コメント

こんにちは。絶賛ジェットコースター滑走中のようで、安心しました。思わず自分の感想を読み直してしまったのですが、思ったより不満が多かった(^^;)。ちょっと、反省。

まあ、確かに長いですが、決してダレたり間延びしたりすることなく、盛り上げて、最後まで読んでいてよかったと思わせて終わるという、理想的な大河小説であったと思ってます。後半も、どうぞお楽しみに。

須賀さんは確か、史学科卒の歴女らしいので、歴史もののおもしろそうなのを+αして入れておきました。こちらもどうぞ

投稿: 波多利郎 | 2012年5月30日 (水) 23時49分

 あ、おはやい反応ありがとうございます。ほんと良いものを見せていただきました。感謝に堪えません。
 それにしても、喬林大先生も「今日本紀の局」と別名を奉りたいぐらい歴史を深くご理解と思っていたのですが、須賀先生もそのような経歴で。流石ですなあ。楽しみ楽しみ。

投稿: まいね | 2012年5月31日 (木) 01時09分

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