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2011年9月10日 (土)

「日本人なら知っておきたい日本文学」 ― 寄らば大樹 ―

   「日本人の知らない日本語」、新刊出ないのかな、あれっきりかな、と思っていたら、読売新聞の下の方の広告欄に広告が出ていたので、街に出るついでに買い求めました。
   「日本人なら知っておきたい日本文学」蛇蔵&海野凪子。
   清少納言が本音でズバズバ言う挑発的コマが広告に使われていて、ホントに「枕草子」でこんなこと言ってたっけ、でも言いそう、と早乙女家において掴みはバッチリ! だったわけです。
   外国人に日本の文学について尋ねられて、「ええと、どうだっけ?」とおぼろげな理解しかしていなくてちゃんと答えられなくて恥ずかしい、という漫画担当蛇蔵さんの実体験から、ある程度調べてちゃんとお答えすることにしているという凪子先生の誠実な案内による日本文学の有名人を幾人か取り上げて解説する形のコミックでした。

   やっぱり、凪子先生の解説に外れはない

   清少納言にはじまる、その人物的背景の紹介の丁寧さはたしかに国文科レヴェルです。実際の作品の中から現代でも通用する、そしてキャッチーな部分を紹介する辺りのセンスの良さ、そして今ふうの言葉選び(頼光四天王を「千年前の戦隊もの」と言い切ったのは白眉!)は蛇蔵さんのアイディアに負っているのかも知れませんが、通り一遍の歴史エッセイのように、軽薄な人、晩年は不遇だったらしいと噂があるとしたり顔に紹介して終わりでなく、現実の、身近にいるかもしれない女性として考察して「どこまでも清々しい人」とあくまで好意的に紹介しているのがいつもながら頭が下がります。ほんと、誠実。 

   おまけのヤマトタケルの項では、古事記ならではの年齢が大づかみなところとか、これが起源で名が付いたはずの草薙の剣が登場時からその名で呼ばれているパラドックスについて、「本居宣長も言っている、突っ込み禁止と」とフランクに書いてくれているあたりのセンスの良さに脱帽。あれですね、どっかのすりあわせで必要なんでしょうか、神話とかは最初の頃みんな有り得ないほど長寿ですよね。旧約聖書もアブラハムとかその辺3桁4桁の長寿ですよね。旧約読み始めてそこらで精神的に挫折というか離脱しましたわたし。
   たしか高木彬光がその辺「春秋を年齢の意味で用いるということは、春で一年、秋で一年と考えていたのではないか(要は現代の2倍)」という苦肉の策を弄してつじつま合わせしてましたね。あれは結構ナットクリョク(人を納得させるやや強引な説得力:造語)がありました。 

   ふだん漫画を読まない、若者言葉に疎い方にも解るように一般的な言い回しを心がけつつ……いやでもかなりバッサリ決めつけてるよ。ネットの有名なフレーズとかかなり意識してるし。菅原孝標が道真の書にワルノリで書き足して周囲を呆れさせた事件について「菅原氏コラボ」と表現したり。れいの孝標女が源氏物語フルセットをもらって引きこもって読みふけったあたりのことを、「ドラゴンボールを与えられた夏休みの小学生男子状態」と表わしたり。達者なコピー・ライティング能力は蛇蔵さんの魅力でしょう。

   制作中のエピソードからも、そのしみじみと慕わしい実に教師向きの心(これを蛇蔵さんは先生力と表現)が伺われる誠実な凪子先生の学術的エッセイと、センスに溢れる蛇蔵さんのコミック(絵も達者でオジさんたちが皆魅力的)が車の両輪のようになって他者に追随できないものになっています。寄らば大樹の陰、信頼できるこのお二人には是非次の企画もお願いしたいところです。3巻は冬発行予定とか。楽しみにしています。

   あとがきで、蛇蔵さんはご自分は漫画家ではなくコピーライターであると言ってますが、そこでおかあさんは膝を打ちましたね。……「漫画家」じゃないからそんなに自分の描いたものに過剰な思い入れがなくて、そんでもしかして業界にしがらみがあってあのひどいドラマ化を拒否できなかったのかなあって。漫画家なら、公開され、ヒットして作者の手を離れた作品は読者のものでもあるというのが解っていて、読者を裏切る(悲しませる)ようなクオリティのドラマ化には反対してくれるんじゃないかと思うんですけど。うがちすぎかな。いやそれにしてもあのドラマは酷かったと思いますよ。

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