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2010年10月 7日 (木)

ゲージュツの秋に考える

   その昔、国文学の専門にようやく入ったら、「この作家は姪を妊娠させた挙げ句に外国に逃げた、その顛末を赤裸々に書いたのがコレ」だの「留学中女性問題を起こして逃げ帰ったところが女に日本まで追ってこられて言い訳のために書いたのがあの名作」とかそういう話ばっかりで、
   「プライヴァシーをほじくり返されて疚しいところのない文学者は漱石ぐらいですね」と涼しい顔をして近代担当の教官に言われてもう呆れたというかどん引きしたというか。
   その作品を掘り下げるために作家の細かい生い立ちやらなにやらそこまで曝く必要があるのかと潔癖だったまいちゃん@国文学科は大学に行かなくなりました。おかあさんごめんなさい。

   翻って数年前より「ジョジョの奇妙な冒険」荒木飛呂彦にはまってしまって、あの大河漫画を深く理解するためにいろいろ評論サイトやらいろんなインタヴュー記事やらを読んで、作者の人となりについて思いを致すようになって。
   ま、それは近年の傾向で、ジョジョに限らず作家さんとその作品についての関係性というものが判ってきたせいもあるんだけど。やっぱ、その人だけがその作品を創りうるのだということは、そのひとがいかように造られてきたのかということも作品理解には必要な訳よね。今になって気づくかお子ちゃま。

   ジョジョで言いますと、とくに初期は登場人物が筋骨隆々としています。それは、まあ、美術を真面目にやるとデッサンはギリシャ彫刻になるわけで、あんまりモンゴロイドの美しい肢体モデルってのは確立されてませんから、美しい肢体となるとやっぱあっちに行き着く訳よね。少女漫画の大御所も、まつげばさばさで鼻が高くて少女漫画の登場人物は日本人じゃないと言われますが、こちとらギリシャ彫刻でデッサンやってきてるんだ、こうなって当たり前とか言ってました。わたしも気持ち悪い髪の毛の明るい色の鼻の高いマネキンを見て育ってきてますんで。日本人の理想はあの時代まではコーカソイドなのよ、哀しいことに。
   さらに、たぶん作者の荒木氏はたぶんに肉体美への憧れが強く出ているんだと思います。彼は東洋人としての特色の出た白皙の美形で、なかなか衰えない端整な顔はネット上では吸血鬼だとかいろいろネタにされています。ご本人もいろいろトーカイしておられるようですが、まあ、体質もあろうし無理をしない仕事ぶりもさることながら、単純に身体に気を遣っているんじゃないかと思われますね。家族は女性が多かったみたいだし。簡単に言うと、素朴な育ちをした男性だとシャンプーはしてもリンスはしない、でも、女兄弟がいる育ち方をすると、男性もリンスして当然、シャンプーも資生堂サクセスじゃなくてラックススーパーリッチを共用かも知れない。そういう微妙なケアの差かと思いますね。アタマも牛乳石鹸で洗っててあれだったらごめんなさいよ。
   それで、その柳系のお姿をどう思っているかというと、じつは好きではないらしい。その昔コミックスに書いてある作者近況で、夢に千代の富士が出てきて、土俵で立ち会いをする寸前だった、こちらは50ウンキロ、だめだ、横綱に本気でぶつかられたら死ぬ!? と焦った云々書いてあって、ああ、端整ではあっても少しはコンプレックスなのかなと愚考。あれだ、三島由紀夫系、貧弱な自分キライ、ギリシャ彫刻に憧れ~ってやつ。そこから、ある種歪んだ欲望、支配欲を露わにする敵に対し、正義の主人公は健全な精神と筋肉美という物語の骨格ができているのではないかなと。正義へのまっすぐな志向とは逆に、その悪役の歪み具合がまた尋常でなく、ある種極めているのでええと、突き抜けると面白いというやつで、初期からマニアな好まれ方をしておったと認識しております。
   「ワンピース」とかさ、「ドラゴン・ボール」みたいなスカッとした判りやすい面白さじゃないのよ。絵もくどいし、ああ、正しかるべき「バロック」とか「ゴシック」。ごてっとして気持ち悪さを内包した美の世界です。

   あと、なにかのインタビューの孫引きですが、少年時代妹たちにひどく裏切られている、兄弟皆に公平に与えられていたおやつを妹たちが共謀して何年間かずっと彼の分は盗まれて、妹たちが山分けをしていた由。なんかとっても彼には重大な事件だったそうです。
   そういう、裏切りをひどく憎み怖れる心がありますね。ジョジョは大河ですが、裏切り者はざっと思い返してみてもあんまり思いつかないんですもん。まあ、第1部の敵は家に入り込んだ悪がどんどん本性を露わにして家を乗っ取ろうとする話だけど、裏切りとは違うカンジだし。2部は1部に出てきた味方が老いへの怖れから悪の側に付いてしまうけど、「裏切ったなーーー!ッ」ってほどの精神的チュータイは主人公となかったみたいだし。3部は逆に敵の刺客がどんどん味方になってるし。あとの敵は敵で向こうのボスに気持ち悪いほどの忠誠を見せているし。まあ、5部にはスパイとしての設定がありながら、主人公側が可哀相すぎるという理由で離反にとどめて、刺客としての再登場がなくなった登場人物もいるそうです(文庫版作者解説より)。

   また、そういう経緯からか、女性の描き方がリアルというか「現実にはいないよこんな優等生な女の子、ケッ」という少年漫画の嘘なカンジがないです。怒るともう聞くに堪えない言葉で喚き散らすし、顔は醜く歪むし。まあ、がんばるときは男性同様がんばりますけど。やっぱりこれは、身近に年の近い女性を見てきた作家ならではなんだろうなと。
   あと、ファッションに対するこだわりもあるようで、こんな奇抜なファッションよく思いつくなあと思っていると、「これは何年のなんというブランドのパリコレ作品」とか元ネタを探し出してくれてるところもあって(ようやる)。女性もののブランドのドレスをロングジャケットとしてイケメンに着せてしまうというセンスは凄いと思います。女の子にそのまんま着せちゃそりゃパクリかも知れんが、筋肉質(5部は時代に合わせて少し筋肉削ったようだ)のイケメンがレディースですよ?(不思議と似合う!) これは脱帽すべきでしょ。わたしはアリと思いますね。そういう、筋肉への憧れがありながら妙にユニセックス、フェミニンなニュアンスがあるところも特色。

   あとは、公開された登場人物の性格設定に、「最初愛想よくはしないが、ひとたび心を許すとその相手には尽くす」的なものが多いです。シリーズを通してそういう設定の人物が何度も出ます。そんなに八方美人キライか。まあ、漫画の登場人物ですから、奇矯な人物の方が描きやすいでしょうけどね。時代が波風立てるのを嫌がる雰囲気ですから、とくに個性がなく誰とでも仲良くできる、よそはそういう登場人物のほうが多いですよ。男の子向けラノベの主人公なんて最近みんなこんな感じ。これは荒木氏本人がちょっと個性的な性格で内向的で、よく昔から他人を観察していて、表裏ある人間を激しく憎んだ、ということなのかなと今のところ見ていますが。

   って、こんなに人様のことを勝手に分析して、おまえプライヴァシーを曝くのがいやで国文やめたんじゃないんかいって、でも作品を愛するゆえその産みの親も慕わしく想いを寄せずにいられない、深く理解したいと思うのは当然って、要するに漱石や鱒二はその対象にならなかったってだけか。しょうもない。ただの漫画好きのたわごと。

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コメント

よく勉強した

投稿: ブランド激安通販 | 2010年10月 7日 (木) 05時33分

 あらどうも、長い駄文を失礼しました。

投稿: まいね | 2010年10月 8日 (金) 00時36分

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