« 文学の使命 | トップページ | お月見、お月見 »

2009年10月 3日 (土)

「アイシールド21」完結 爽やかに走り抜きました

   途中から人気が出るとムチャが始まるジャンプ連載漫画。高校一年生にしてアメフト初心者だったセナくんたち泥門高校が並み居る強豪を吹っ飛ばして関東大会優勝、クリスマスボウル(高校野球と違って、いい競技場でやるのは東西対決のこの決勝戦だけらしい。マイナースポーツの世界はシヴィアー)でも奇跡のように盤石の筈の帝黒学園を倒し、とうとうワールドカップ・ユース出場!? アメフトって、アメリカ以外でやってる国あったんですねえ、すいません、もの知らずで。

   高校生どころか人間じゃないだろうという身体能力を持つメンバーを集めたアメリカ代表、ぶっちぎりの優勝候補に立ち向かうという、ああ、これが花道なんだなあとバレバレの最終章でしたが、最後にやってくれました。

   これまでのオールスターで結成されるべき全日本選抜を、
   「大人に決められるのは不本意だろう」と、アメフト協会の会長さん(地味に見識のある人)セナたち選手たちに互選させ、どうしても参加したいだろう(作中活躍した)一芸選手たちのために公開テストまでやって揃えたというのがまた巧い。これで各シリーズでの個性派選手たちを拾って(ついでに阿含の裏工作でさらに漏れた選手まで追加帯同させて!)。ここで、顔を包帯で覆って見せない謎の選手を混ぜたのがまたウマイ。
   身体能力は並みだが、基礎練習を常識以上にこなしてテクニックを磨いてきた選手であろうとの考察が登場人物によって述べられていて、ああこれは、天才阿含の影で苦しみ、勝負を捨てて弟を立てようとしてきた兄の雲水が、自分もあがこうと脱皮した姿であろうと皆に思わせておいて(いやわたしはそう信じたよ?)。

   大方の予想通り、友情パワーと、過去の鬱屈を乗り越える努力の開花・結実によって、とうとう全日本は決勝戦、序盤に大差で引き離されたアメリカに追いつき、引き分けてしまうのでした……。

   クライマックス、唯一アメリカチームに対抗できるテクニックと体格・パワーを見せていた進(序盤からのセナの目標であり倒すべきライヴァル)が、負傷離脱を余儀なくされます。総力戦で全ての実力選手を出し切っており、進の代わりに立てる控え選手などいない……そこで、悪魔の司令塔、ヒルマは包帯選手を指名します。

   そこへ、天真爛漫な水町が突っ込み。
   「雲水なんだろ? 無理だよ、ポジション違うよ」
   だっておれホテルで歩いてるの見たもんねって、そこへ
   「あれは俺だ」と、その双子の弟、阿含。
   うわ~~~~~~~~っ、トーナメントの途中、軍国主義的架空国家ミリタリアの選手に誤ってその長いドレッドヘアを刈り上げられたのはここへの伏線だったんだ! すぐさまカツラを調達して、いつもの威圧的な姿を回復してましたけどね。

   

原作者(シナリオ担当の稲垣氏)神ですか。

   じゃあ、包帯男の正体はって……ルイルイおまえか~~~~~~ッ!?

   序盤も序盤、練習試合の相手として出てきた賊徒学園の不良リーダー、葉柱ルイでした。は虫類に引っかけたネーミングといい、最初の頃だけのヤラレキャラと思わせておいて、身体能力の劣る凡人、モチヴェーションの低い不良部員どもを束ねるリーダーとしての苦悩を滲ませてヒルマに絡む、プレイヤーとしてではないフィールドの外のいい脇役になってましたが。

   ここへ来てこのスーパースターたちの決戦場で、絡んでくるか!

   確かに、ルイルイのポジションはラインバッカー、走ってくる敵を食い止める、進と同じポジションでありました。たしか地区大会のベストメンバーにも選ばれてたかと思いましたが(各ポジション複数名選出。結構温情的措置だと解釈してた)。なんて凄い伏線。

   案の定、かるく吹っ飛ばれて、全然代役にはなってませんでしたが。
   そこんとこはリアルいいと思いました。
   みっともなくあがく姿は、観客席で、寂しく弟の、全日本のオールスターの活躍するのを見守っていた雲水本人の心に訴えかけ。

   さらにドS(嗜虐的性格が強い様子。ここは、試練を求める心が強いとでも)な阿含が、カツラを捨て去って、鏡に映したような同じ顔、同じ姿で活躍して挑発するのです。

   もっとあがけ。悟り澄ました顔で望みを捨て去ってはいけない。諦めずに努力を続けていたら、ここにあるこの姿はおまえの姿であっただろうに。

   ここで、超人的な選手の集う世界大会で、努力を、報われないであろう努力を尊んでみせるか。

   「友情・努力・勝利」のコンセプトはもう古い、ジャンプのスポーツ物は、人気が出ると主人公チームが負けなくなる、どんなにライヴァルがあがいても、負けさせない。いびつだ、そういう声をネットではよく見聞きしてたんですが。

   「アイシールド21」も、最初は、努力で何とかなるレヴェルの敵には勝ち、段違いの実力のチームにはあっさり負けたり、なんとか引き分けに持ち込んだりとある意味現実的展開だったのが、人気が出てきてセナ達ににも猛練習の成果が出始めると、嘘のようにころりころりと強豪を倒していく、絵空事だ、などと言われてました。シナリオ担当氏も、やはり編集部の圧力には勝てないのだろうかとわたしは寂しく思っていました。
   そういう時代に、そういう展開の末に、世界大会で、全日本はアメリカチームに最後の最後で追いついて引き分け、それでも、ヒルマ達は「アメリカが追いつかれることなど想定していなかった」ので引き分けについての規定はない、として両チーム優勝に持っていこうとする大人の論理に逆らうのです。
   「決着着くまでやろう!」
   「引き分けなんて、妹にするキスみたいなもんだ」と、アメリカチームもそれに応じます。

   その結末なんか蛇足、とばかりにあとはエピローグに飛んで。

   熱く三原則を守りながら、それを飛び越えて爽やかに終わってくれました。

   胸を張って言えます。「アイシールド21」は名作!

   作画担当の村田氏も凄いですよ。これだけの登場人物を人種もポジションの違いによる体格差も描き分け、単行本口絵やおまけでもこれでもかと読者を楽しませてくれました。女の子達(いえ、選手達も)の私服も今時っぽくて可愛らしく、本当に絵を描くのを楽しんでいる情熱が伝わりました。

   でも、猫科の人たちが単行本ボロボロにしちゃったんだよなあ……(嘆息)。

|

« 文学の使命 | トップページ | お月見、お月見 »

コメント

引き分けなんて、妹にするキスみたいなもんだ

日本だとどういう風表現されるんでしょう?

投稿: とむ影 | 2009年10月 6日 (火) 17時44分

 ううむ、江戸っ子的に言うなら、
「サビ抜きの鮨みてぇなもんよ」
 ですかね?
 悪くはないんだけど、ドキドキしない、締まらない、そんなニュアンス。
 西洋的文脈は比喩が凄い世界のイメージで、翻ってうわ~ニッポン! って会話は地口が多い気がします。こないだ「メンミンショー」でやってた「こまったこまったこまどり姉妹」って、オーサカのおっちゃんもああいう言葉遊びするんだなと眼からウロコでした。江戸っ子限定かと思ってた。
 そういう早乙女家では、
「ひえーひえー比叡山」とか「どこにアランチャ・サンチェス!」とか、新しいローカル地口が通用しています。いやまて、「ひえーひえー比叡山」は公立中学に行ってたうちの弟が学校から聞いてきたんだったかな……。

投稿: まいね | 2009年10月 7日 (水) 10時57分

 メンミンショーちゃう、「ケンミンショー」。娘がおじいちゃんちで見てはまって帰ってきて、うちでも見るようになっちゃった。あれはやらせというか針小棒大度はいかほどなんでしょう?

投稿: まいね | 2009年10月 7日 (水) 10時58分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/138427/46382100

この記事へのトラックバック一覧です: 「アイシールド21」完結 爽やかに走り抜きました:

« 文学の使命 | トップページ | お月見、お月見 »