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2008年10月 3日 (金)

物語のパターンは特許が取れないの?

   ええと、おかあさんジャンプを70年代から全部読み込んでる訳じゃないので、穴もあろうかと思いますがお付き合いを。

   「リングにかけろ」、「聖闘士星矢」でジャンプのバトルもの漫画のスタイルを作り上げた車田正美は、もっと評価されていいんじゃないかというお話。

   「リングにかけろ」は、当初70年代的「巨人の星」ぽさを前面に出したお話でした。貧乏くさい生い立ち、DVする親父(継父ですが)、献身的な姉、天才肌で金持ちだがスポーツに関してだけは求道的なライヴァル(そんで主人公の姉にLOVE)。前作の「スケバンあらし」が根性の曲がったお金持ちに苛められる主人公を助けてスケバンがそいつをぶっ飛ばす話だったしなあ。主人公が勝ってスッキリするより、その前段階の貧乏くささ、惨めったらしさがなんかイヤでしたね。わたしだけかと思ってたんですが。
   花咲ける80年代を迎え、ここで作風は一転します。もう読者は血の汗流す特訓を求めてはいません。主人公たちは「特訓」と称して画面から消え、それをにじませる包帯やら、擦過傷やらを負って現れるだけ。不敵な微笑みを浮かべて戦いの場に向かい、腕を一閃、叫ぶはおステキな必殺技の名前。響く効果音。吹っ飛ぶ小憎らしい(時に尊敬できる)敵。嗚呼スッキリ。読者の求めているのは カ タ ル シ ス であったのです。
   前時代的スポ魂を棺桶に突っ込んだのは車田正美であったというのは、夏目房之介「消えた魔球」をご参照あれ。

   ……最初はホントにちゃんとしたボクシングの漫画だったのよ。

   「リンかけ」で編み出した読者の心を熱狂させる作劇方法を、そのまんま伝奇な冒険世界にぶち込んだのが「聖戦士星矢」。世界の平和を祈る女神の生まれ変わりの少女とか、彼女を護る騎士的存在が、天の星座の数だけ存在するとか、そういう能書きも素晴らしかったですが、きらびやかなハンサム達が「ナントカナントカーッ!」と叫んで腕を振ると星が飛んで「な、なにーっ!?」とか言いながら敵が吹っ飛ぶ戦いのパターンは同じ。その技を繰り出す前に、いかに優れているかを語る能書きの部分がもうあらゆる神話伝説から持ってきたうんちくの固まりで、少年少女いけないおねえさんたちはうっとりするやらくらくらするやら、おかげで星座やギリシャ神話に妙に詳しい世代が形成されてたりして。あと、その各戦士たちにいろいろ因縁があって、何座の戦士は何座の戦士の親友であるとか、師匠筋にあたって心が結ばれているとか、かつて敵対した関係にあるとかそういう人間模様がいちいち面白かったりもしました。

   ホントにすごいったら。

   で、「その技の名前を叫ぶと敵が飛んでく」というコペルニクス的転回に加えて、車田正美が創出したとわたくしが思っているのが、

   「1対1×nの館」方式。

   これは「リンかけ」中盤が初出だと思っていましたが、もしかして過去の作品に例があったらごめんなさい、たしか、メンバーのひとり(主人公の姉だったっけ?)がさらわれて、五重塔に囚われている。彼(又は彼女)を救い出すには、各階に待ち受ける番人を倒して最上階にゆかねばならない、というスタイル。ここで、仲間同士心を合わせて番人を袋だたきにしてはいけないのであります。

   

勝負はタイマン(1対1)

   というわけで、彼らは一人ずつ、必殺の技をふるって、もはやルールもない戦いをほぼフェアプレイで、多少は頭も使いつつ、不屈の精神で続けていって、友情のもとに仲間を救い出すわけです。

   いやこれ意外に黄金パターンで。

   もともと、柔道や剣道の団体戦を翻案したと思われる「ボクシングの団体戦」というものも彼は「リンかけ」で出してましたから。5人ひと組の「日本ジュニア」チームが、各国の多彩な顔ぶれの5人と当たるという趣向。もし実際にあるなら、階級もいろいろ取り混ぜた方が面白かろうと思いますけど(れいのスーパー戦隊の法則も多少は入っていて、体格の違う仲間もいました)、この作品で階級の話が出たことなかった気がしますね。ジュニアだからかな?

   脱線はおいといて。

   一人一人が出て、戦って敵を倒すことによって勝利に進む、というパターンは前からあったのを、さらに、おどろおどろしい館というシチュエーション、人質を取られてタイムリミットもある、というサスペンス的意味合いも加えて読者をガッチリ掴んでおるのです。

   意外と応用きくみたいで。

   「聖戦士星矢」の中心、「十二宮編」はこの応用です。女神アテナに矢が打ち込まれ、それを助けるには刻限までに神殿の鏡の光を当てねばならない。しかし、神殿までの道はそれぞれ黄道十二宮の星座の名を冠した戦士たちが護っている。主人公達に好意的な戦士の宮はそのまま通れるが、敵対する「奸臣」に騙されている戦士の宮は、交渉なり、戦闘なりをして突破しなくてはならない……。毎週手に汗を握りましたとも。これはヒットして、次のポセイドン編でも、アテナは人質となり、彼女を救い出すために彼女の戦士たちは1対1で命を張ってました。……物語の結末については不明。アテナは主人公を愛しているのかとか、主人公の生き別れの姉の行方とか、初期設定は読んでる方はもうどうでも良くなってました。

   それからも、ジャンプの各作品に使われてますよ。

   「キン肉マン」(ゆでたまご)でも、ミートくん(おつきのマスコット的存在)がさらわれて、身体をバラバラにされ、一定時間内に集めないと復活できないというエピソードがありました。各部分は、敵が一部ずつ持っていて、それぞれ1対1のプロレスに似たバトルをして勝たないと手に入らないというのです。戦力は集中してさ~みんなで一人ずつ袋にすればすぐ集まると思うんだけど~(これが野暮)。キン肉マンとその仲間達は死闘をそれぞれ繰り広げて、ミートくんを生き返らせるのでした。

   「幽遊白書」(富樫義博)が方向転換するきっかけも、この「1対1の館」からでした。時代的には「星矢」と同時代かやや後。最初は思わぬ善行によって復活を許された不良少年が、オカルト的冒険を繰り返すことによってまた善行を積み、晴れて蘇る……といった話である筈が、反応がイマイチだったらしく、ソレまでに助けていろいろ縁のできていた霊能力者や妖怪たちと仲間になって、とある城に籠もった敵をやっつけるという「任務」を言いつけられるというエピソードがそれです。「四聖獣編」。それぞれ個性的な技を披露して、かなり苦労しながらも敵を倒し、街を救っていました。このエピソードの成功から、彼らが妖怪達の武術トーナメントに招待されるという「暗黒武術会編」につながり、お家芸のバトルトーナメントものに移行していくわけですね。

   そういうパターンはジャンプで連載するためのフォーマットかと思うと。
   原作は講談社文庫の「封神演義」というから、当時は一般的には無名だけれど、ちゃんと中華世界ではスタンダードなお話。これを、SFで独自の感覚を見せていた藤崎竜がコミック化したらとんでもないことになった「封神演義」。90年代、ジャンプが部数を落としはじめた頃の貢献作でした。殷が倒れ周が興る易姓革命のお話なので、考証通りだとみんなゾロゾロした中華ファッションで、名前が姓に名に字があったりみんな仙人で萌えとは無縁だったりと解りにくく感情移入もしづらい世界であるところを、大胆にSFふうにアレンジをしてくれて、ひとをくった主人公をはじめとする若い美貌の超能力者達の摩訶不思議バトルにしたのは素晴らしかったです。
   中盤、ゲーム世代を反映して「中ボス」と言われておった趙公明との戦いで、彼は周王を質にとって自らの豪華客船(時代錯誤!)に呼び寄せ、自らの配下の仙人たちとの戦いを強いるというかたちで「1対1の館」パターンが出たときには呆れました。もちろん原作ではそんな進行ではなく、地味に普通の歴史物のような城取り合戦をやってた筈なんですけど……。ここまで換骨奪胎するかと。
   さらに終盤、真の敵である女狐妲己も、1対1の対戦を強いるエピソードがありましたが、終盤の物語の勢いでそれはなし崩しになっていて、対戦それぞれの盛り上がりは趙公明戦の方があったように思います。

   というふうに、どんなジャンルのものにも臆面もなく採用するのか、それは作者によるものかと悩んでいたところ。
   たとえば、「武装錬金」では、物語の進行上両方の陣営の戦士達が1対1で戦うことはあったにせよ、「館」に誘拐、閉じこめられる趣向はなかったように思われます(作品が十巻完結という比較的短いものだからという理由もありましょうが)。

   「D.Gray-man」星野桂は、つい最近までアニメもやっていて、原作はただ今連載中ですが、ここでもまだありました!
   19世紀のような架空社会において、アクマという機械じかけの存在を作りだして、着実に人類抹殺計画を進行させている敵千年伯爵に対抗するため、エクソシストと呼ばれる特殊能力者が、アクマを倒すことのできる限られた物質、「イノセント」を手に戦いを挑むというお話。アニメ化された部分のクライマックスが、「方舟」とよばれる不思議な空間に主人公達が呼び込まれ、各階での1対1の戦いを強いられ、タイムリミットまでに脱出を図らねばならない趣向でした。これは時間が来ると次の「階」への扉が順に消えてゆく演出で、久し振りに手に汗握りましたね。「ここは俺が引き受ける、お前達は先へゆけ!」という古典的な泣かせのシーンも楽しんだことだし。物語はまだまだ続きそうなので、この先どんなエピソードがでるか楽しみです。

   これはジャンプ編集者のほうでフォーマットを持っていて、漫画作者に提示するんでしょうか、それとも、ジャンプ漫画を読み込んで育つと、物語の盛り上げ方として真っ先に思いつくんでしょうか。
   じゃあジャンプ漫画以外にはこのパターンはないの? というと、おかあさんそんなにジャンプ以外の漫画読んでないんだなあ。
   連載初期は「幽遊白書」との設定の類似が言いがかりのように指摘されていた「烈火の炎」(安西信行、掲載誌はサンデー)、そういえば、主人公が姫と呼ぶ少女が囚われて、特殊能力を持つ友人達と取り戻しに行って、各人がそれぞれ敵と戦うエピソードが初期にありましたが、当時はいきり立って指摘したけど、今思うと大人げなかったですかね(いやでもパターンとしては間違いなくこのパターンだろう)。途中で見るのをやめたから、結局どういう話だったのかは知りません。もっといろんな雑誌を網羅しておられる方に調べていただくといいかもと思って書いてみました。

   ほんとにたいしたものを創り出したものです。特許取ればいいのに。

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コメント

まいねおかあさん、今どき
>ほんとにたいしたものを創り出したものです。特許取ればいいのに。
なんてこという人居ません(^^;)

特許法における発明とは、
第二条  この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
なんです。漫画におけるストーリーの構成要素なんて発明じゃないです。特許取れません。申請するのは自由ですけれどもね。

ってか、おいらのブログ読んでくれてねーの(;_;)
少なくとも身近に「特許って儲かるんですよね」という人をなくすために知財関係の記事を書いているわけなんですが。
もっちょっとお勉強してください。

投稿: アマサイ@科学の星 | 2008年10月 3日 (金) 10時44分

 アマサイちゃんごめんよう。 
 ま、「特許」ってのもオオゲサだよなと思いつつ書いてみたんだけど(じゃあ後出しにせずにそれこそ(笑)ぐらい入れとけ)。
「取れるか、そんなもんで金を!」というのは同感ですよもちろん。
 一般人の感覚はこんなもんよ。なんかスゴイもんを創出したとき、それをオオヤケに認めて欲しいと思って起こす行動をまとめて簡単に「トッキョを申請する」と言ってみるカンジ。
 もしかして、シャレでなくそれを実行する方がおられる? それはスゴイ。

 それで実際に「館」方式や「技の名前を叫ぶと敵が飛んでく」方式がトッキョになったら、トッキョ料を払った漫画しかそのスタイルは使えないわけ……? それも不毛ですな。
 ディズニーなんかは、それこそ都市伝説で、子供が卒業制作で大好きなミッキーマウスの絵を学校に描いて残したのまで「チョサッケン」を盾に消去を求めたとかで、受け取り側がその絵を自分の楽しみのために真似ることを厳しく制限すると聞いてます。ジャンプを代表とする日本の創作側は、主に、真似て描いてみてね、あなただけのその作品の楽しみ方をしてねというのを受け手の自由として認め、共存共栄を図っているように思えます。それを考えると、もしそういうトッキョがあったとしても、集英社は取らないんじゃないかな?(いや、読者へのスタンスと、自分たちを脅かす競争者に対するそれとは違うかな?) 
 「ジャンプスタイル」とか冷笑的に見つつも、それに近い形式を物語に取り入れた「烈火の炎」が一部でバッシングを喰らったりしたことを考え合わせると、法律なんかで縛らなくても読者もその辺は解っているようです。 

投稿: まいね | 2008年10月 3日 (金) 14時04分

   ゴメン、星矢の戦うひとは「聖闘士」、Dーグレイマンの謎の物質は「イノセンス」ね。ヤッパ寝る前の文には理性ないわ。

投稿: まいね | 2008年10月 9日 (木) 16時49分

 スイマセン、ボスが待つ館のそこここに敵が待ちかまえていて、それを順繰りに倒して物語が進む形式は「死亡遊戯」形式と言うそうで。マルシーブルース・リー。そんなに古いのか(ぎりぎり小学生のときがブルース・リー ブームの世代。男の子達はアチョーとか言ってましたよ)。
 でも、ブルース・リーは一人じゃん(たぶん)。
 5人一緒はきっと車田起源。

投稿: まいね | 2008年11月21日 (金) 00時31分

ブルース・リーと言えば。
先日横浜中華街に行きました。土産物の店先で、子供用のパンダの着ぐるみとか売ってて、ほほえましく見てたんですが、黄色くて黒のラインの入ったボディスーツみたいなのもぶら下がってました。ええ、ブルース・リーなりきりスーツだったのです。今でも人気は衰えない……?

投稿: とむ影 | 2008年11月21日 (金) 17時30分

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