« 逆転生活 | トップページ | にゃろめーたー »

2008年7月28日 (月)

「犯人に告ぐ」トリックスターの安息

   世間一般に小説を映画化! というときには、原作ファンが見てくれることを期待して企画されるんでしょうね。また、映画を見、また、映画化のの噂を聞きつけて原作に興味を持った方が本を手に取ることも考慮に入っておるのでしょう。たぶんこの本は、トヨエツ主演で映画化されたという線でとむ影さんのお手に触れ、そしてわたくしのところに回ってきたという因果でありましょう。いやでもこの主人公はトヨエツじゃ若いだろう。小泉純一郎元総理をちょっと想定して読んでいたかも。若い頃アイドル顔のやり手警視、今はすっかりおじいちゃん、だもんな。

   この「犯人に告ぐ」  雫井 脩介は警察もののミステリであります。発端の事件は幼児誘拐。あ、地元だ。神奈川と東京都の、山際の国境の入り組んだところ。被害者の関係もあって、警視庁は出張ってくるし、やりにくい。被害者は非協力的だし。結果、捜査は失敗、哀れ、誘拐された子は無言の帰宅、主人公の巻島警視、プライヴェイトも難しい時期だったので、うっかり記者会見で切れてしまいます。結果、左遷。

   

警察社会で捜査に失敗するってこういうことなんだ? 「聖母の暗き淵」柴田よしき、RIKOシリーズのこの作品も、誘拐事件でうっかりミスで犯人を逃してしまった刑事の背負った十字架がひとつのテーマにありました。最善を尽くしたつもりでも、指からこぼれ落ちることはある、それがひとの命だったとき、どう責任を取るか。刑事というのは因果な商売であります。

   それから6年、その事件をきっかけに奈落の底に転がり落ちるように不祥事が表出して威信に傷が付きっぱなしの神奈川県警、幼児・男児連続殺人事件の捜査が暗礁に乗り上げて参ってました。そこへ新しく着任の切れ者キャリア、心機一転の策をぶちあげます。

  

 「劇場型犯罪には劇場型捜査だ」

   足柄署で地道に検挙率を上げておった巻島警視に、白羽の矢が立ちます。この足柄ってところがまた臆面もなく「山奥」で笑っちゃうよね? え? 土地鑑ないですか? 「金太郎」の足柄山ですよ? 小田急の特急ロマンスカーの名前が「あしがら号」ですよ?  熊でも出そうな田舎と思ってください。実際出ないにしても。

   で、自分の背負った十字架の重さをはねのけようとあがき続けていた巻島警視、二つ返事で引き受けます。ちょうど、犯人を煽る発言をしたと言って犯人から脅迫状をもらったキャスターのいるTVニュースショウに定期的に出演、事件を解説しつつ一般視聴者からの目撃情報を求める作戦、と見せつつ、犯人を煽り、ぼろを出させる罠を張るのでした。
   「小田急百貨店にアルマーニのスーツを買いに行く」とか、じつに判りやすい固有名詞をちりばめてあるのでイメージがしやすいですね。さっきの足柄もそう。

   マスコミに足を掬われた男がマスコミを利用して立ち上がる、これは壮大な駆け引きのお話で、打った手が効いてさまざまな反響がかえってくる、またそれにさまざまな対応を取るさまが非常に興味深かったです。

   そして、現れる獅子身中の虫
   やり手キャリアの甥。巻島警視の上司として付けられて。
   「引き立ててやってくれ」って、まともなキャリアなら身内をそんな近くで使いません。昔の外務省か? ここでこの部長の株5円安。
   で、この坊ちゃん課長の昔のどうにもなびかなかった青春のほろ苦い幻影的女性が、そのライヴァル番組のキャスターをしておるのだな。
   彼女に対し、再度挑戦のための武器として、坊ちゃん課長は捜査情報をリークするという手段を取るのです。

   まさかこんな色ボケ坊ちゃんに脚を掬われるとは思わず。

   情けないよなあ。

   しかし、最後の最後に糸はホンボシに繋がっておったのでした(この、主人公には直接関わってこない脇役ちゃんがナイスでした。いや、1度となく、こいつが犯人だったりしてと思ったことも)。

   正義は勝つ……?

   しかしながら、6年前の事件の影はまだ色濃く残っていて。

   「劇場型捜査」の短所、巻島警視本人に対するバッシングが暴発……。

   最後まで息をつかせぬ展開、非常に高度であったと思います。

   TVを中心とするマスコミの過剰報道、視聴率競争的側面も面白く掘り下げてありました。未央子たんはファム・ファタルというにはまだ腰が据わってない、やっぱり「女子アナ」な女の子なんでしょうとちょっと悔しかったり、うまく捉えてるなァと兜を脱ぎたいような気もしたり。

   やっぱ、結局は誠実さ、たゆまぬ努力が全てに勝利する、というのが、テーマとしてはひねりがないかもだけど、良かったと思いますよ。社会はこうあるべきと思います。

|

« 逆転生活 | トップページ | にゃろめーたー »

コメント

トヨエツって、好きでも何でもなかったんですが、ソイジョイのCMのちょいと崩れた無精髭のメガネ男子だれよ~!と思ったらトヨエツだったの。
でもたしかに若いわ。この原作通りだと、孫がいる年代なんだよね……

投稿: とむ影 | 2008年7月29日 (火) 18時12分

ま、その時からファンになったわけで、子供たちからは、CMがかかるたびに、「ソイジョイのトヨエツ」がでてるよ~と言われるようになりました。

投稿: とむ影 | 2008年7月29日 (火) 18時13分

 ゴメン、椎名桔平と一緒にしてた(行って来たほど違が~う!)
 訂正します。

投稿: まいね | 2008年7月30日 (水) 12時21分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/138427/41991190

この記事へのトラックバック一覧です: 「犯人に告ぐ」トリックスターの安息:

« 逆転生活 | トップページ | にゃろめーたー »