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2007年5月 8日 (火)

「カーテンの向こう」芸術の力

   本日はイーヴィヒベルク小学校の授業参観日。科目は道徳だそうで、期待せずに行きましたら。

   「今日はこれ」と、一枚のプリントを配ります。黒板には先生が描いたのでしょうか、ベッドが並び、右奥にだけカーテンが引いてある殺風景な絵。

   「カーテンの向こう」というタイトルの掌編でした。ところはイスラエルのとある病院、もう医者にも家族にも見放され、あとは死ぬのを待つだけという重傷患者ばかりの大部屋でのお話です。

   その部屋は、ただ一番奥にカーテンの掛かった窓があり、そこだけが外界とつながってる模様。皆寝たきりなもので、その窓の側の患者、ヤコブだけがその恩恵に預かっておるのです。彼はカーテンの隙間から外を眺め、可愛い花売り娘が通るとか、雨降りで子どもたちがおかあさんにしかられることも気にしないで泥水遊びをしてるとか外の様子を語って聞かせ、わずかな生活の潤いにしておったのでした。

   語り手である「わたし」はそのうちヤコブが憎らしくなってきます。彼だけが日の光輝く外の世界を見ることができるのです。さらに、同室のニコルが危篤におちいり、最後に場所を換わって窓の外を見せてくれと哀願しても、ヤコブは窓を譲ってやらなかったのでした。そりゃちょっと、悪だよね。

   ここで先生は朗読を止めて、プリントに書き込ませます。

   「ねえ、ヤコブさんってどんなひとだと思った?」子どもたちを当てて発表させると、今時の子どもですから「ジコチューだと思います」(この通りの言い方じゃないですけど)。

   イロイロ語らせておいて、やっぱり「ちょっとひどいんじゃない?」という意見ばかり出たところで、朗読再開。

   もう、「わたし」の心はヤコブへのジェラシーでいっぱい。心の中では「ヤコブ死ね!」まで言ってます。あ~あ。そこまで行くか。そして、そう思ってしまう自分への客観的な「こんなわたしは悪いやつ!」という反省はないのです。おいおい。そうこうしてるうちに、ヤコブにも死が訪れます。せっかくの外の世界の中継者がやばい咳ばっかりして、なんにも語らないのです。最後に、「明日は天気だよ。星がいっぱい出てる。きっといい天気」なんて言って息を引き取るんですね。みんな悲しむんだけど、「わたし」だけは、心の中で万歳三唱。「次は俺だ! 俺が窓を独り占めにするんだ! 中継なんかしてやるか!」一人称は俺じゃないです。あ~あ。悪はヤコブから「わたし」に移っちゃいました。閉鎖空間に外との窓口という権益が絡むとみんな心が荒むのかしら

   晴れて看護婦さんにベッドを移してもらった「わたし」、もう眠いんだけど、目をこらしてカーテンの向こうを眺めます、そこにあったのは。

   いやおかあさん、ココまで言っておいてオチだけ隠しても。

   「なんやねん!」5年3組には子どもたちの怒号がこだましました。

   「最後の一葉」みたいな話ですね。O・ヘンリーの。一読してわたくしは感動にふるえましたね。芸術というのは、なんの元手も要らず、これだけ人に元気を与えることができるのです。死を目前にして、自分も辛かろうに、ヤコブは同室の患者たちのために言葉をつづり続けたのです。これは「やさしさじゃないかなあ」と先生。ううむ、美しいわ

   ま、おかあさんも大人だから、途中から「嘘ついてんじゃないの? こいつ」とは感づいてましたが。子どもたちは見事に騙されてましたな。「ヤコブはひどいと思います」なんて、可愛い、可愛い。

   しかし、「わたし」は手を下してなくて良かったですね。死にかけの友人を殺して奪ったところがこの結果では、もう生きてるのが辛いですわ。そこまで考えるおかあさんはダーク?

   「このあと、『わたし』はどうしたらいいと思う? ホントのことを言っちゃう?」って先生、そんな罪な。彼もまた嘘をつき続けるしかないでしょうか。

   「外がどうなってるかだって? 誰がおまえたちに教えてやるものか。死ぬまで誰にもこの景色は譲らん。ここは最高だ。おまえたち、一日でも俺より長生きして、自分の目でこの景色を楽しむんだな」と、憎しみというか負けん気の方から元気づける方を選んでみましょうか。

   「いろんなことがこの話からは考えられます。どれが正しいということはないんだよ。いろいろ考えてみてください」

   なかなかナイスな教材選択でありました。

   イスラエルってことは、このひとたちユダヤだよね? 嘘ついていいんだっけ?(いや、積極的に嘘どんどんついてOKって宗教はないと思う) 死ぬ前に、カソリックだとお坊さんを呼んで引導を渡してもらうと救われて天国に行けるんでしょう? ユダヤ教に天国はあるよね? 確か。最後に、嘘ついてすいませんと懺悔しなくて良かったのかしら、そういう欲求に駆られなかったかしら。こういう嘘をついたことであなたは天国に行けませんなんていう天国、行かなくっていいと思いますけれど。

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