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2006年7月27日 (木)

「女信長」うせる神通力

   やっと買えました。「女信長」。とむ影さんから、マエストロ佐藤賢一が毎日新聞で連載をしてるよと伺って、途中から新聞は変えましたが、丁度浅井長政裏切りの辺りからで、「彼女」がなんのためにいつから男装してるかは知らないままだったんですが、やっとこの前単行本を見つけることができました。
   最初はれいの斎藤道三と対面するシーンからです。もう、濃姫こと帰蝶さんはお嫁に来ちゃってるんです。……早々に告白して親友になってもらったそうです。一般的に流布してる話の通り、うつけルックでやってきて、一転涼やかにお召し替え、蝮の道三の度肝を抜いた……までは良かったが。すぐさまその理由を見抜かれ、二人きりになったとたん……押し倒されて処女を奪われてちゃってます。この辺、エロとジェットコースターの加減の巧さはやっぱりマエストロ。掴みはバッチリでございます。
   寝物語(って言うのかよ、白昼堂々)に理由を正せば、要するに、もともとは男の子に恵まれなかった正室の独断で性別を偽っていたと。ところが、生来利発であったところから、同腹の弟という正真正銘の嫡男が生まれても、男のまま育てられ、家督を譲られてしまったのだと。真実を知るものは家中もほんの数人。とりあえず、その弟は真実を知っておると。そりゃあ、兄弟で跡目争いするよなあ。
   ここでスゴイのは、一身の秘事を暴かれて進退窮まったはずのお長(ちょう)たん(女としての本名) が屈辱に泣き伏してたりしないところ。しっかり道三をたらし込んで、ついでに性欲にも目覚めて(早すぎ!)新たな武器を手に入れてるところです。いや、マエストロ佐藤作品のヒロインは逞しいんだけどさ。 世の中そんな甘くねえって、お長たん。
   で、要所要所で「女」をつかいつつ、女性の目で男というもの、ひいては世の中全般の、無駄、非合理を廃してどんどん「戦国の世をぶっ壊」してゆく様は結構爽快。長
槍、鉄砲の導入も筋力がなく面目なんか重んじない女性ならではの着眼点。そう、「実利を取る」という信長の政策の中心概念が、すなわち「女性だったから当然の感覚」、というのは論理として「スッキリ!」なんだけど、あんまり地の文で「女だから」、「女の本性」って言われるとちょっと。2ちゃんねるの投稿者のように「フェミニズムのひとに突っ込まれるぞ」とまでは言わないけれども。
   美貌の姫として、若い頃はそれで良かったけれども、丁度浅井長政と出会った頃がお肌の曲がり角、心底惚れた男に正体を明かして秘密の関係を持ったところが、相手は若さイコールバカさの要素をもっていたのが運の尽きでした。年上の、自分より力を持っている女性に愛されると男は思い上がってしまうのでしょうか。この裏切りは相当お長たんを苦しめます。この辺のお濃さんとの会話は「痛かった」。もう大年増なんだから女をつかうのはやめなさいとか、年を取った女は男に見向きもされないとか、智恵とか男を包み込む優しさと、そんなもんは尼でも発揮できる魅力で、女にもとめられるものではないとか。え~ん、マエストロのイジワル。
   その会話で二人は、そうではない、女の本当の魅力を判って愛してくれる(であろう)大人の男というものを見つけてしまいます。
   「明智殿だけはおやめください」って、お濃の初恋の人だし。それでも傷心のお長たんは明智くんを手に入れてしまうのでした。やっぱこの辺がお姫様だよなあ。
   お育ちがいい上に南蛮学を身につけた明智くんは参謀としても有能で、傷心のぶんお長たんはぞっこん惚れ込んでしまうのですが、そのへんから信長としては頭打ちに。自分が女の目で合理的にものを考えて創出したと思っていた数々の政策が、「南蛮でもそうです」って、ことごとく保証されて、最初はいいけど結局自分が独創の天才じゃないとわかってどんどん鬱に入ってゆくのです。この辺はウマイ。愛人の「濃姫づき侍女お長の方」と殿である信長との一人二役もばれて哀れ明智くんは八つ当たり要員へ。たぶん、更年期も入ってたんじゃないでしょうか。おかあさんまだなんで、作中の描写からしかとはその病名はわかんないですけど。
   そして運命の天正10年、中国攻めからコッソリ帰ってきた秀吉が囁くのです。
   「殿、消えてください」
   「女として生きればよろしいかと」なんだったら囲ってやってもいいよと。
   ばれていたのです。
   そこで秀吉に押し倒されて、絶体絶命のピ~ンチ! 
   そこで明智くんに救いをもとめます。
   「もうたくさんだ! ……つらくて、つらくて、もうここで滅びたいのかもしれません」しかし、やさしい愛人明智くんはここで怒った!
   「ふざけるな!」
   果たして、乾坤一擲の急襲を指示したはずの明智軍は、朝廷をではなくて本能寺を取り囲んだのでありました。ところが
   「女は苦しからず」
   やっぱりやさしい明智くん、本能寺急襲は苦肉の策だったのでした。この「女は苦しからず」は大河の「功名が辻」の本能寺より巧いと思いました。
   それで、エピローグは、家康とそのブレイン天海和尚(この人の正体はもう今は常識となりつつありますな)との思い出話。
   「美少女でありましたぞ」って、家康が信長に頭が上がらなかった理由まできちんと説明されて。いや、巧くまとめたと思いますね。お長たんの行方は朧だけれども。
   いやそれより、お濃さんはどうしたのよ? 本能寺に随行してなくて天寿を全う説ならそれでよいけどさ。言及ないとちょっと可哀相。
   地の文のサトケン節は健在で読んでて心が弾みますが、なんでも「女はそういったものだからだ」でズバズバ切られると、今まで外つ国の話だったからそんなもんかもねえ、と流せたのに、なんだかいちいち引っかかるんだよなぁ。その辺、中世ものも語り尽くして新しい分野に足を進めてみたけれどの神通力の通じなさ加減でしょうか。チョット心配。あと、心中語と会話とか同じカギ括弧で並んでるので、ちょっと読みづらかったですね。オイオイ、お長たんそんなこと口に出していいの? と思ってるとそれは心中語だったということが多数。そこだけ、マエストロ、次からなんとかしてください。

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コメント

   要するに、お長は最初から信長であったのでありますが、この際お濃さまが途中から成り代わったことにすれば、史実で途中から「正室(斎藤氏)」が存在感薄くなる方もクリアできて良かったんじゃ? 「××は実は女!」ものでは時々ありますよね、死んだ夫に成り代わりっての。マ王カロリア篇のフリンさんとか、「三国志艶義」の諸葛孔明とか。
   この方お嫁入りの時のエピソードによると(信長がホントにうつけだったら寝首をかけといわれて、でも実は切れ者で意気投合したら逆にパパのこと殺しに行くかもよと返したらしい)結構政治的アタマもあって度胸もしっかりしてたみたいですし。
   それと、マエストロ作品の裏テーマは「教養の勝利」でありますな。ピエールの若さんといい、「王妃の離婚」の主人公(ど忘れ)といい。腕っ節だけの男が勝利する話ではないですな。「双頭の鷲」のデュ・ゲクランも、愛すべきヤツではありましたがおつむがちょっと、のために滅びるのも早かったと。「女信長」でも従来の光秀像より学識に明るい温厚な教養人である部分が強調されていると思いますね。秀吉が徹底的に悪役であるのに比べたら、もう。その辺、今年の大河で配役バッチリかな。信長には大地真央をスライド配置で。をを、ヒステリーシーンとか、浅井長政との愛欲シーンとか、はまるはまる。

投稿: まいね | 2006年7月27日 (木) 23時08分

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